地方創生この10年
政府は2024年6月10日、「デジタル田園都市国家構想実現会議(第16回)」を開催。2024年は、まち・ひと・しごと創生法が施行され、地方創生の取組が本格的に始まってから10年の節目を迎え、地方創生10年の取組と今後の推進方向などについてまとめています。
地方創生の推進にあたっては、国が地方自治体の創意工夫の取組を後押しし、各地域が抱える課題の解決に向けた施策を展開してきましたが、全体的な人口減少や東京圏への一極集中といった大きな流れを変えるには至っていない状況です。
地方創生の取組は、地方の人口減少や経済の停滞を解決するために、2014年に始まり、地方創生の大きな目標は、「地方に仕事をつくる」「人の流れをつくる」「結婚・出産・子育ての希望をかなえる」「魅力的な地域をつくる」の4つ。これらの目標を達成するために、デジタル技術の活用を含むさまざまな施策が実施されてきました。
地方創生に関する取組の成果
政府では、地方創生の取組を通じて、地域の関係者が自らの課題を把握し、その解決に向けて連携して行動する意識が醸成されたといいます。さらに、2022年からはデジタル田園都市国家構想の下で、デジタル技術を徹底的に活用し、従来の取組の改善・強化が進められてきました。
多くの自治体で、国の支援を活用しながら地域課題の解決に向けた主体的な取組が進められました。具体的には、以下のような成果を挙げています。
財政支援の活用:
デジタル田園都市国家構想交付金などを活用し、地域資源を活かした特色ある取組や拠点の整備。特に、人口減少下においても地域課題の解決や住民サービスの維持向上を図るための手法として、地方におけるデジタル実装を展開
人材支援の活用:
地方創生人材支援制度や地域おこし協力隊、地域活性化起業人などの支援を活用し、専門人材の派遣が行われ、地域の課題解決に貢献
情報支援の活用:
地域経済分析システム(RESAS)やデジタル田園都市国家構想データ分析評価プラットフォーム(RAIDA)などを通じて、自治体が自らの現状を分析・把握し、必要な施策を考える動きが拡大
必要な財源の確保:
ふるさと納税や企業版ふるさと納税などの制度を活用し、各自治体で必要な財源を確保しながら、企業のノウハウやアイデア、人材を活用した官民連携の取組を推進
企業の地方移転:
首都圏から地方への本社移転や地方拠点強化税制の活用により、地方における雇用創出
政府関係機関の地方移転:
文化庁の京都府への全面移転や消費者庁の徳島県での新未来創造戦略本部の設置など、中央省庁や研究機関の地方移転
地方大学・産業創生法の対応:
産学官連携による地域の取組を支援し、地域大学の振興および若者の雇用創出が具体化
地方移住の促進:
地方創生テレワークの普及により、多様な働き方やライフスタイルが可能となり、地方への移住者数が増加
残された課題と今後の取組方向
地方創生の取組は一定の成果を上げていますが、依然として多くの課題が残されています。以下に、主要な課題と今後の取組方向を示しています。
東京圏への過度な一極集中の是正
東京圏への過度な一極集中は、地方創生の大きな課題です。2019年には東京圏への転入超過数が約14.6万人に達し、その後も増加傾向にあ、地方への人の流れを力強いものにするため、以下の施策を挙げています。
・地方移住、企業の地方移転、地方への国内投資の促進
・テレワークを活用した官民共創の取組の充実
・女性・若者にとって魅力的な雇用の創出や、結婚・出産や子育て環境の充実
・地域間の賃金格差解消など、過度な一極集中をもたらす要因の検討と対策
少子化への対応
少子化は、日本全体の人口減少に直結する重大な課題です。2023年には出生数が72万7277人と過去最低を記録し、少子化対策としては、こども家庭庁を中心に、以下の施策を挙げています。
・結婚や子どもを持ちたい希望をかなえるための政策実行
・社会全体で子育て世帯を応援する意識の醸成
・未婚者を多く抱える大都市における対策の強化
・子育て支援施設やサービスの充実
地域の生産年齢人口の減少への対応
生産年齢人口の減少は、地方経済に深刻な影響を及ぼしており、この問題に対処するためには、以下の施策を挙げています。
・女性や高齢者の社会参画促進
・デジタル人材の育成・確保
・多様な働き方の推進
・地方大学や高専による産学官連携の推進
・都市部のデジタル人材等の地域企業における副業・兼業形態での活用
地域資源を活かした産業創出
地域資源を活かした産業創出は、地方経済の持続可能な発展に不可欠です。これには、以下の施策を挙げています。
・地域資源の掘り起こしと活用
・インバウンド観光の強化と地域経済の活性化
・地域資源を活用した高付加価値産業の創出
・地域資源の維持管理とマーケットインの対応
・起業促進とスタートアップ支援
日常生活の持続可能性向上
中山間地域等では、人口減少や高齢化が進む中、日常生活に必要なサービスを維持することが困難になっており、この問題に対処するために、以下の施策を挙げています。
・デジタルの活用とインフラ・サービスの強化
・地域コミュニティの強化と広域的な役割分担
・「小さな拠点」や「地域生活圏」の形成
・生涯活躍のまちづくり
都市部と地方との連携機会の拡大
都市部と地方との連携は、地方創生の重要な要素であり、これを促進するために、以下の施策を挙げてます。
・こどもの地方体験機会の創出
・デジタルを活用した関係人口の増加
・都市部のこどもの地方への留学
・農山漁村等での体験活動の推進
大規模災害被害からの創造的復興
大規模災害からの復興は、地方創生においても重要な課題であり、そのために、以下の施策を挙げています。
・デジタルライフラインの整備と創造的復興の推進
・地域住民の声を反映した将来像の実現
・政府の積極的な役割と政策間・地域間連携
自治体へのきめ細やかな支援
小規模な自治体など、地方創生に悩みを抱える自治体への支援が求められ、以下の施策を挙げています。
・人材支援の強化と自治体間ネットワークの構築
・オンラインを活用した人材支援
・優れた自治体の知見・経験の共有
・民間の知見の活用や官民連携の推進
デジタル活用の拡大
デジタル技術の活用は、地方創生の加速化・深化に不可欠であり、以下の施策を挙げています。
・デジタル実装の拡大と質的向上
・サステナビリティへの配慮
・高齢者・障害者等に優しいコミュニケーション支援
・デジタル行財政改革の推進
規制・制度改革
地域・社会課題の解決には、規制・制度改革が必要であり、以下の施策を挙げています。
・スーパーシティやデジタル田園健康特区の推進
・規制・制度改革を通じた地域課題の解決
・連携"絆"特区の推進
今後の展望
日本の人口減少や東京圏への一極集中の流れを変えることは容易ではなく、地方創生の取組についても成果が出るまでには時間を要するものが多々あり、場合によって成果につながらないケースもあるでしょう。
そうした中でも、人口減少に歯止めをかけ、東京圏への過度な一極集中を是正する目標の実現に向けて、日本全体で戦略的に挑戦していくことが求められています。
人口減少を前提とした希望を持って住み続けることができる持続可能な地域づくりを進めるために、従来の取組を超える新たな発想に基づく施策を検討・実行していくことも重要となっています。
この10年間の取組で得られた教訓や成功事例を活かし、さらに一歩進んだ地方創生の実現に向け、地域ごとの特性やニーズに応じた柔軟で革新的な施策を展開していくことが求められます。
地方創生は一過性の政策ではなく、地域住民、自治体、国が一丸による継続的な努力と創意工夫が必要であり、持続可能な未来を目指して取り組んでいくことが期待されます。