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「ノラ猫マップ」というiPhoneアプリ(無料)が議論を生んでいるようです。

『xi-cholo Lab. - Paper : 作者の「ノラ猫マップ」に対する考え by xi-cholo』
http://www.xi-cholo.com/modules/wordpress/index.php?p=736

野良猫を見つけて写真と地理情報を投稿し、それを地図上にプロットするというこのサービス。愛猫家にとっては何の問題もない嬉しいアプリのようにも思えますが、そうではありませんでした。私もよく知らなかったのですが、こういった情報をネット上に集約することにより猫嫌いの方が保健所などに通報したり、虐待しに行ったりすることが危惧される人のことです。

まったく違う場所に住んでいる人が「ひっかかれた」などの適当な理由をつけて猫を処分したいがために通報するとしたら、それは確かに問題であるように思います。しかし限定的なケースになりますが、いわゆる地域猫でなく単なる野良猫の被害を実際に受けている人が、たまたまこのアプリで犯人の猫の画像と情報を得ることができたとしたら、やはり通報に使ってしまうのもやむを得ないように思います。

一方、ポストマップというWebサイトがあります。ポストの情報と写真を地図上に表示するものです。

『ポストマップ | ポストをひたすらマッピング』
http://postmap.org/

非常に便利で、家や会社からの最寄のポストの位置を把握することが出きますし、特徴的な場所にあったり、変わったデザインのポストを見る楽しみもあります。

猫と違い、ポストはほとんど誰にも迷惑をかけませんからこうしたサイトで情報を集約することに反対意見が出ることもありません。ちょっと考えた限りでは悪用することも難しいように思います。

しかし猫の地理情報サービスでは、愛猫家は「固いこと言わずに猫の画像を投稿したり鑑賞したりしたいのに」と思い、地域猫推進派は「猫の被害のためには情報の開示は慎むべきだ」と思い、猫が嫌いな人や管理されていない猫の被害に遭っている方はこれを通報の情報源にするかもしれないという状況になっています。

情報システムは24時間世界に向けて情報を発信し、それを検索できるという一人の人間では成し得ないことを実現します。それにより、これまで日本各地のコミュニティ内で発生していた地域猫の問題を一気に大きな問題にしてしまう可能性があります。これまでもブログなどで位置情報付きの猫画像の投稿があったそうですが、写真をとってPCからネットに投稿するというわずらわしさがあり、大規模なものにはなっていないようでした。ところがiphoneはネットとカメラとGPSが一体化していますので、道を歩いていて猫を見つけたときに即座にアップロードすることができます。そのリアルタイム性により、投稿日時から猫の生活サイクルまで把握できるかもしれません。

地域猫の是非についてはとてもこのブログで論ずるような軽い問題ではなく、各コミュニティでルールを作ったり、愛猫家やそうでない方が議論を重ねることが重要であると考えています。しかしシステムを作る側としては非常に興味深い現象であり、また自分が良かれと思って作ったシステムが想定外の用途に使われてしまうとどうなるか、という点について示唆深い事例でしたので取り上げさせていただきました。

重ねて書かせていただきますが、本エントリはシステムの在り方について考えたものであり、ここで地域猫を推進するものでも否定するものでもありません。また具体的に「ノラ猫マップ」そのものを続けろともやめろとも主張するものでもありません。本事例の動向を見守りつつ、システム構築にあたってそこから得られる利害についてどのような角度から考慮すべきかを学ぶための教訓としていきたいと思うところであります。

yohei

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山口 陽平

山口 陽平

国内SIerに勤務。現在の担当業務は資金決済法対応を中心とした資金移動業者や前払式支払手段発行者向けの態勢整備コンサルティング。松坂世代。

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