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今日はCMパンチの佐々木さんからwebサイトをいかに設計するかというおもしろい話を聞く機会に預かりました。その中でこちらの本を紹介いただき、ここしばらく漠然と考えていたことがはっきりした思いでした。

『Amazon.co.jp: アフォーダンス-新しい認知の理論 (岩波科学ライブラリー (12)): 佐々木 正人: 本』 http://www.amazon.co.jp/dp/4000065122/

我々がwebサイトを訪れるとき、説明書を読むことはまずありません。リンクと思う場所をクリックし、次々とサイトを訪れていきます。それはひとつにリンクにマウスカーソルを載せたときにカーソルが矢印から指の形に変わる仕掛けの存在が大きいと思いますが、これまでに生きてきた日常の中で得た経験、そこから生まれる文脈とwebサイトのデザインが大きくかけ離れていないことも大きな要素となっています。すなわち、我々は最初あてずっぽうでなんとなくリンクっぽいものをクリックし、表示される結果がさほどおかしくないという経験を経ることでブラウジングというものを覚えていくのだと思います。

webサイトを訪れた我々に「どうすればいいか」を教えることのできるデザイン、それがアフォーダンスであると思います。ごく普通のシステムエンジニアにとって、そこまでを考えた画面設計を行うことは非常に難しい問題です。多くのシステムエンジニアが夢中になる問題はデータベースの不整合をいかに防ぎ、問い合わせのパフォーマンスをいかに向上させるかに集中しています。その点においては画面にどういった入力部品を配置するか、処理結果を表示するかというところはシステムエンジニアの守備範囲となりますが、その画面設計に高いアフォーダンスを与えるまでにデザインを磨くというのは厳しいものがあります。

話は変わりますが、世の中は右利きの人に合うように作られています。改札機やドアのノブ、包丁などに代表されるこれらのデザインは、左利きの人にとって扱いにくさを備えた製品です。

『Amazon.co.jp: フォークの歯はなぜ四本になったか 実用品の進化論 (平凡社ライブラリー): ヘンリー・ペトロスキー, 忠平 美幸: 本』 http://www.amazon.co.jp/dp/4582766935

こちらの本ではそのような社会の中で左利きの人はどのように振舞っているかということが述べられています。もちろん左利き用の道具を探すという選択肢もあるわけですが、多くの人はなんとか左手で右利き用の道具を使いこなす技を身につけるか、または利き手を右手に矯正するということを強いられます。

私の実家には初代プリウスがあるのですが、そのブレーキのフィーリングのことを思い出しました。そのリコールの話題はオルタナブログでも取り上げられていますが、問題を大きなものにしている一因としてこれまでの乗用車に採用されていなかった回生ブレーキの存在があるのではないか、と考えています。プリウスはブレーキを浅く踏むと回生ブレーキが動き、電気を回収します。カーナビの設定をしていればどれくらい電気を回収したかが表示され、エコなドライビングを行う強力な動機づけとなります。つまりプリウスに乗ってエコドライビングを楽しんでいる人は、知らず知らずのうちにブレーキを浅く踏むことを「喜び」の行為として動機づけされてしまうのではないか、そのように私は感じました。

同様に考えてみると、企業内で用いられるようなヘビーユースのwebアプリケーションもユーザに何らかの動機づけを行っているといえないでしょうか。企業内webアプリケーションにはインターネット上で使われるような画面ともまた違った進化を遂げているものがあります。VBで作成したwindowsアプリをそのままwebアプリに移行したというものは少なくありません。VBならば可能であった画面内の一部分だけの画面遷移は、AJAX登場前のwebアプリケーションでは画面全体を遷移するという設計をされます。また気軽に表示されていたメッセージボックス、特にyes,no,cancelなどjavascriptで代替できないようなものはwebアプリケーションでいびつな実装をされることも少なくありませんでした。そういったwebアプリケーションに慣らされたユーザには、どの部分をクリックすれば何が表示されるか、自分が探したいものを画面にどう入力すればよいか、そういったフィーリングを掴んでいない人が多いのでないかと思います。

そういった環境の中でwebは操作しづらいという刷り込みを受けていると、「flashなら操作しやすい」といったことを吹き込まれやすくなります。(特にflashの悪口を言っているわけでなく、本質的な画面設計の悪さの問題をHTML,CSS,Javascriptのせいにして、flashやその他RIAに置き換えることでそれらが解決されるようなセールストークをすることに疑問を呈するものです。どちらの技術が優れているということを述べるものではありません。)私はそれぞれに適材適所があると思っています。そのため、普段は頼りない存在であるかのように言われるHTMLが、アフォーダンスの高い画面を構成していると嬉しい気持ちになります。反対に、flashがよくわからないUIを実現しているもったいない気持ちになります。そして今、特に理由もなくflashは重いから嫌だとか金がかかるとかそういった理由で否定されているところを見ることが多いです。それもまた残念なことであるように思います。

企業サイトはインターネットのwebサイトとは比較にならないほどの高い利用率を誇ります。なにせ1日中それを見ていることが仕事という場合もあります。インターネットのサイトのデザインは目を惹くものが多いですが、1日中見ていて飽きず、疲れないデザインであり、新人も迷わず使えるようなものであるかと言われるとそうでもありません。私が非常に優れていると思うサイトとして思い浮かぶものにmixiがありますが、そのようなことを感じさせてくれるサイトは多くありません。むしろ見栄えの派手さや美しさを優先して利用者を置いてけぼりにしているような感じを受けます。

企業内外を問わずもっと多くのwebサイトがアフォーダンスの高いデザインを備え、誰もが迷わず情報にアクセスできる世の中になれば、webサイトはもっとスマートになってインターネットがすばらしくなるんじゃないかと思います。我々日本人はフォークとナイフを見ると戸惑いますが、それは箸という恐ろしく便利な道具があるからです。思うに今のインターネットは肉用のナイフや魚用のフォークなどが多分に残っているんじゃないでしょうか。箸で食べられるインターネットの到来を望んでやみません。

yohei

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山口 陽平

山口 陽平

国内SIerに勤務。現在の担当業務は資金決済法対応を中心とした資金移動業者や前払式支払手段発行者向けの態勢整備コンサルティング。松坂世代。

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