« 2009年12月4日

2009年12月8日の投稿

2009年12月9日 »

楽天トラベルのポイント付与システムを悪用し、ポイントだけをもらって宿泊をキャンセルしていた犯人が逮捕されたそうです。

現在はシステム側で対策済み、ということです。私が楽天トラベルを使った経験では宿泊費の支払方法を「現地決済」にすることができました。これを選ぶとだいたいはチェックイン時に名前を告げてチェックアウト時に現金を払うだけという流れとなり、楽天は予約代行システムのような振る舞いとなります。

宿側はその時点で現金が入ってしまいますので、「現地決済」で来た予約については宿泊後に「実際に宿泊がありました」と消しこみをするのも面倒になってしまうのかもしれません。これがもし楽天トラベルにより決済が代行され、宿が実際に宿泊があったことを申請して楽天トラベル→宿の資金流しかなかったとしたら、今回のような犯行は難しかったのではないかと思います。

報道によると「カラ予約」ということですので、予約をしておきながら電話で宿にキャンセルを入れた、などの手がこんだものではなさそうです。おそらくは予約をして無断キャンセルをするのでしょうが、宿側も繁忙期ならともかく、元々空き部屋がある閑散期で素泊まりの予約をしたとすればいちいち追及するコストがもったいないと考えたのかもしれません。または宿側も楽天トラベル側に「無断キャンセル」の情報を登録しつつも、犯人側が楽天IDを次々変更するなどして楽天トラベル側で対策が取れなかったなどの事情もあったかもしれません。

以前にAmazonでコンビニで決済をしない限りは代金を払わないままで倉庫に注文商品を留め置くことができ、しかもキャンセルできてしまうという問題がありました。これは事件沙汰になる前にAmazonからユーザに警告が届く形でニュースとなりましたが、同じような問題であると思います。その問題とは技術的な脆弱性、よく言われるところの情報セキュリティとは異なる観点からでも企業が損失を受ける恐れがあるというところです。

通常、企業が情報システムを構築する際に気をつける点と言えば、外部からの攻撃に対する耐性、内部からの不正なアクセス(権限外など)の防止、あたりが基本となります。加えて障害が起きないようにしたり、混雑時に応答性が悪化しないようにしたり、オペレーションを間違いにくくするようにしたり(新商品を誤ってあり得ない低価格で販売してしまう祭りがたびたびありますが)することが行われます。

しかしながら楽天、AmazonのようなメジャーなECサイトが相次いで「そもそもの業務設計が悪い」という罠に落ちてしまいました。楽天もAmazonもハッキングを受けたわけではありません。ごく一般の人がありふれたPCのデフォルトのブラウザで通常の操作を積み重ねただけです。

それはリリース当初は極めて少ない例外処理であり、気付きにくいものだと思います。しかしながらその手法のメリットが広まるに連れ、企業にとって無視できないインパクトとなります。それが積み重なり、最終的には対策を取らなくてはならなくなりますが、その時に今回の件のように報道の形で世に出ることになり、企業価値を貶める可能性が出てきます。

楽天やAmazonの売上高からすれば、それぞれで生じた事例のダメージなど微々たるものと思いますが、構築した情報システムおよび業務フローに不備があったことが公開されてしまうデメリットは実際に失った金額以上のものがあるように思います。

情報システムの世界で旧来から知られる「サラミ法」は例えば大量にある銀行口座からほんの少しずつ利息の端数を失敬してもわかりにくい、というような攻撃を指します。しかしインターネットがコミュニケーションを加速させたことにより、これまでなら対策をとるのがコストに見合わないような目立たない抜け穴のような業務処理があっという間に広がって想像よりも大きな影響を生むという現象が生まれました。

サラミ法の名前の由来はたくさんの皿に並べられた薄切りのサラミの盛り合わせから1枚ずつ抜いてきてもサラミは薄いからわかりづらい、というところから来ています。トンカツやハンバーグの場合、一切れ抜いたらすぐにわかってしまいます。ところがサラミを一人取る人がいたらあっという間に100人になる、という世界ではサラミ法のインパクトは絶大です。最初の数人の時点で対策しない限り、サラミが食い尽くされてしまうという恐ろしさがあります。

もしサービス元がサラミを食べた人に対して会員規約や法律に則って「あなたの行為は認められません」と主張することができない場合、サラミを食べた人から反対に「こちらの行為に不法性はない」と堂々とサービスの履行を求められるかもしれません。

楽天トラベルのポイント窃取方法はネットで広まるにはあまりに黒すぎて騒動になりませんでしたが、ファーストフードのクーポンの不正利用の方法などは後ろめたさが少なかったのか、何度か祭りになったことがありました。「サラミ法」というと端数処理に十分な計算資源を使えなかった古い時代の名残のような印象を受けますが、インターネットを背景に強力な存在に生まれ変わりつつあるように思います。

yohei

« 2009年12月4日

2009年12月8日の投稿

2009年12月9日 »

» このブログのTOP

» オルタナティブ・ブログTOP



プロフィール

山口 陽平

山口 陽平

国内SIerに勤務。現在の担当業務は資金決済法対応を中心とした資金移動業者や前払式支払手段発行者向けの態勢整備コンサルティング。松坂世代。

詳しいプロフィール

Special

- PR -
カレンダー
2013年5月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  
yohei
Special オルタナトーク

仕事が嫌になった時、どう立ち直ったのですか?

カテゴリー
エンタープライズ・ピックアップ

news094.gif 顧客に“ワォ!”という体験を提供――ザッポスに学ぶ企業文化の確立
単に商品を届けるだけでなく、サービスを通じて“ワォ!”という驚きの体験を届けることを目指している。ザッポスのWebサイトには、顧客からの感謝と賞賛があふれており、きわめて高い顧客満足を実現している。(12/17)

news094.gif ちょっとした対話が成長を助ける――上司と部下が話すとき互いに学び合う
上司や先輩の背中を見て、仕事を学べ――。このように言う人がいるが、実際どのようにして学べばいいのだろうか。よく分からない人に、3つの事例を紹介しよう。(12/11)

news094.gif 悩んだときの、自己啓発書の触れ方
「自己啓発書は説教臭いから嫌い」という人もいるだろう。でも読めば元気になる本もあるので、一方的に否定するのはもったいない。今回は、悩んだときの自己啓発書の読み方を紹介しよう。(12/5)

news094.gif 考えるべきは得意なものは何かではなく、お客さまが高く評価するものは何か
自社製品と競合製品を比べた場合、自社製品が選ばれるのは価格や機能が主ではない。いかに顧客の価値を向上させることができるかが重要なポイントになる。(11/21)

news094.gif なんて素敵にフェイスブック
夏から秋にかけて行った「誠 ビジネスショートショート大賞」。吉岡編集長賞を受賞した作品が、山口陽平(応募時ペンネーム:修治)さんの「なんて素敵にフェイスブック」です。平安時代、塀に文章を書くことで交流していた貴族。「塀(へい)に嘯(うそぶ)く」ところから、それを「フェイスブック」と呼んだとか。(11/16)

news094.gif 部下を叱る2つのポイント
叱るのは難しい。上司だって人間だ、言いづらいことを言うのには勇気がいるもの。役割だと割り切り、叱ってはみたものの、部下がむっとしたら自分も嫌な気分になる。そんな時に気をつけたいポイントが2つある。(11/14)

news094.gif 第6回 幸せの創造こそ、ビジネスの使命
会社は何のために存在するのでしょうか。私の考えはシンプルです。人間のすべての営みは、幸せになるためのものです――。2012年11月発売予定の斉藤徹氏の新著「BE ソーシャル!」から、「はじめに」および、第1章「そして世界は透明になった」を6回に分けてお送りする。(11/8)

オルタナティブ・ブログは、専門スタッフにより、企画・構成されています。入力頂いた内容は、アイティメディアの他、オルタナティブ・ブログ、及び本記事執筆会社に提供されます。


サイトマップ | 利用規約 | プライバシーポリシー | 広告案内 | お問い合わせ