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本日はNHK教育のテレビ番組で、

ビジネス未来人 「技能伝える社内の学校」

というのを見ました。チャンネルを変えていたらテレビに
NCが映ったので思わずリモコンを置いてしまいました。
NCというのは精密工作を自動でやってのける機械です。
それに頼りすぎて手先の技術が怪しくなってきた若手社員に対して
熟年社員が「技能」を伝えるという内容でした。

ある会社が学校形式で自社内の若手に技能を伝達していたところ、
それが広がって今では他社にも有償で研修を行っているそうです。
技術流出のリスクを考えれば、普通には考えられないことです。
「こういう製品を作るためにこういう技能を学びたいです」
ということが主催の企業にばれてしまうからです。
それだけ技能の伝達ということが優先されるんだな、と思いました。

番組の途中で技能の先生が、他社に勤める元教え子の
アフターフォローに行く場面がありました。
技能の先生は教え子がいる工場に入って行き、
旋盤などの機械の使い方だけでなく、工場の効率化や
安全についても様々な指導を行っていました。

その技能の先生が工場を見渡している場面がありました。
私にはなんとなく気配を感じるものがあったので、
隣で一緒に見ていた奥さんに

「これひょっとして『整頓が悪い』って言うんじゃないかな?」

と言ったところ、見事に的中しました。
効率化のためには道具の置き方を考えよう、というような注意でした。

「なんでわかるの?」というところから続く奥さんとの会話は
横に置いておきます。その場面を見て私が奥さんに対して言いたかったのは、
我が家でも、いくらキッチンスケールとは言え砂糖や塩を正確にはかるための
秤の上に料理本やらトレイやらの重いものを乗せっぱなしにするのは
精神安定上よくないのでやめて欲しい、ということです。

電子秤なんてそう簡単に狂うものじゃないですので、
まさしく私の精神安定のための「秤の上に物を載せないでね」というお願いになります。
言葉ではうまく言えないのですが、その状態になっていると父(存命)とか祖父(他界)から
怒声が飛んできそうで落ち着かないのです。

ので直接文句を言うことなく、見かけるたびに直しています。
しかし妻に言わせると、床に靴下を脱ぎ捨てて置いたり、
お風呂をあがるときに洗面器に微妙に水が残ったままにしていることのほうが
よっぽど問題だと言われます。秤は壊れないけど靴下は汚らしい。と。
ああ、そうですね。すいません。おっしゃるとおりです。

さて、前置きが長くなりましたが、ものづくりには技術と技能があります。
これはあまりに大きなテーマですのでこれから何度も綴っていくと思っています。

大雑把には「技術は頭の中のこと、技能は指先のこと」というように
分けられると思います。私の家族を持ち出してみると、

祖父⇒大工さん⇒技能+技術

父⇒ゼネコンの現場監督⇒技術

兄⇒自動車の金型設計⇒技術

自分⇒システムエンジニア⇒技能+技術

という感じになるかと思います。

祖父は設計して建てる人でした。
強度も考えながら、デザインも考えながら、
木を切って釘を打つ人です。

父は設計図面通りに施工をする人でした。(退職後、悠々自適のセカンドライフです)
よって図面の通りに正確に施工を実施するための技術が中心となります。
実際にセメントを流し込んだり鉄骨を組んだりするのは現場のお兄さん達です。

兄は金型の設計をしています。CADで線を引くだけです。
金型の設計図面どおりに原型を作ったり、プレスしたり、
金属を流し込んだりするのは別の人です。
(私は技術全般に対して興味が持てるタイプですが、
金型の話はあまりにも奥が深すぎて手が出せません。)

そして自分はシステムエンジニアをしています。
システムエンジニアというと、設計だけしてプログラマさんに
丸ごとお任せするというスタイルもあるかもしれませんが、
本当に丸ごとお任せして全然コーディングをしないということは
なかなか珍しいことです。私はわりとコーディングもする方です。
これは技能と技術という分類から捉えると
両方を担当するということになります。

家族としては、休みの日に日曜大工をしたり、車やバイクの整備を
したりしましたので、技能方面もたくさんやる子供時代でした。
私も自転車のパンク修理くらいなら何とかなります。

さて、システム業界では、何とか設計法とか、何とか分析法とか、
プロジェクトを円滑にするための方法などに焦点が当てられがちです。
システム開発の「技術」にフォーカスを当てられていると言えます。
「どうすればいいか」という視点が中心になっています。

一方で、システム開発を「技能」として捉える機会は少なめです。
コーディングや、データベース問い合わせの最適化などは
非常に技能的ではあるのですが「チューニング」という技術の一部で
あるようにも感じます。

昔と比べてプログラミングの難易度が下がっていることが
原因なのかもしれません。確かにアセンブラで書かれたソースなどを
見ると大変に技能の香りがします。ソフトウェアにとっては
OSの作成やドライバの作成部分に技能が集積しているのかもしれません。

それ以外に、システム開発に技能が見当たらない理由としてあるのは

「高度すぎるプログラムは誰も引き継げない」

という問題ではないかと思います。ソフトウェアというのは
引き継いで修正しながら使うものです。
あまりに高度で複雑な内容になってしまうと、
同じレベルのプログラマさんにしか修正できなくなってしまいます。
また、自分以外のプログラマさんのソースを修正するには
本人以上のスキルが必要であるケースが多いです。

そのため、惚れ惚れするような「技能」というのは
なかなかお目にかかれません。そのへんによくあるのは
見た人が「うげー」となる「自称」技能のプログラム・ソースでしょう。

もちろん、直すのも簡単。読めばすぐに何をしたいかわかるけれども、
ひねり出すのは至難の技であるようなスーパーコードというのも
きっとたくさんあると思います。残念ながらお目にかかる機会がありません。
そういうのはビジネス系よりも組み込み系とかOS系に多そうです。

さて、それでは技能というのがまったくないのでしょうか?
そうとは言えません。私にとっても「技能」と言えるものがあります。
それは開発端末を整備し、息づかいを感じることです。
私はこれをとても大切にしています。
なのでNHKの番組の工場指導の人の姿勢を見て、尊敬の気持ちを抱きました。
(やっと前置きとつながりました)

まずは効率的という効果があります。
ディスク内も整頓し、PCの周りの物理環境も整理しましょう。
ごちゃごちゃしていると間違ってファイルを消したり、
探し物に時間がかかります。これは一般常識です。

ディスク内の整理整頓のメリットとして、ファイルの生成・消滅が見やすくなります。
バグの内容によっては予想外の場所に予想外のファイルが作成されるという
挙動もあるかもしれません。できるだけ不要なファイルを置かないようにすべきです。

また、不要なソフトも入れないことです。
毎日使うマシンは、ほんの数秒の起動時間のずれをなんとなく感じることがあります。
よく調べてみたら、OSの重要なファイルを壊していた、とか、
設定を勝手に変えてしまうバグが潜んでいた、ということも考えられます。
ので、勝手知ったる環境というのができたら、あまり変えないほうがよいかと思います。

そして可能であれば、人間のために静かで整理整頓された環境を保つべきです。
ハードディスクへのアクセス音も癖があります。
最近は静かだったり高速だったりで聞き取りにくいですが、
昔はフロッピーディスクでしたのでアクセスのリズムがよくわかりました。
「最初の数秒でDOSの起動音かBASICの起動音かがわかった」という方もおられるでしょう。
たたん、たたん、たたん、たたん、たーたたたたたーたーたーたー、みたいな。

PCの周りが整理整頓されていれば、ランプの点滅具合や振動にも
気を配ることができます。また、CPUファンの自動調速機能がついている機種では
CPUの高占有が続くとファン音が大きくなりますので異常がわかります。

このように五感に頼らざるを得ない開発姿勢というのは、
開発要員の能力に大きく左右されてしまいます。
また、再現性が低いものも多いと思われます。
よって「開発技術」の視点からすれば、品質の確保のために
排除するべき事項であると言えます。このような不確定なものに
頼っては生産性と品質を両立させることは難しいでしょう。
よって現実世界では、端末環境の異常はソフトウェアにより
機械的に検知できるような体制を整えなくておくほうが良いです。

しかしそれを承知した上で、例えソフトウェア・ハードウェアによる
端末環境の監視が完璧にできていたとしても、やはり私は整理整頓された環境で
PCに耳を傾け、ランプを見つめることを大切にしたい思います。

きっとそのことがきっかけで異常を検知することは一生ないでしょう。
なのでこれは役に立つ技能ではないです。
それでもそうして自分の持てる能力を出し切って
「良いものを作ってやるんだ」という姿勢でいるためには必要なものなのです。

そのぶん、家に帰ったら疲れてますので
靴下くらいそのへんに脱いでも良いんじゃないかと思っています。

(※ 奥さんは私がブログを書いていることを知りません)

yohei

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プロフィール

山口 陽平

山口 陽平

国内SIerに勤務。現在の担当業務は資金決済法対応を中心とした資金移動業者や前払式支払手段発行者向けの態勢整備コンサルティング。松坂世代。

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