« 2007年5月16日

2007年5月17日の投稿

2007年5月18日 »

先日のレモンの市場の続きです。

中古車を題材にしたレモンの市場では、
中古車を買いたいと思っている人が
中古車を売りたいと思っている人の持つ情報を
不完全にしか得ることができない問題がありました。

これは取引を成立させようとしている時点で、
既に情報の非対称性が存在しているケースです。
このパターン以外にも、情報の非対称性が発生することがあります。
「もしあなたがそうするつもりだと知っていたら、私はそうしなかっただろうに」
という、高校生の英語のテストの解答欄のような事象のことです。

例えば、私が損害保険に入ったとします。
自動車、ゴルフクラブ、カメラなどの財産の損害を
何から何まで修理してくれる夢のような保険だとします。

そうすると私はこんな行動を取るかもしれません。

  • 自動車の運転が乱暴になる。整備しない。こする。ぶつかる。
  • 木の根のすぐ横につけたゴルフボールを力いっぱい叩いて
    ゴルフクラブを折る。腹が立ったら地面に投げつける。
  • カメラを専用のケースに入れないで裸のままカバンに突っ込む。
    雨の日でも、砂ぼこりのひどいグラウンドでも、気にせず使う。

これらは「保険に入っていなかったら絶対にやらないであろう」
という行動です。保険に入ってるからと言って、積極的にこれらを
行うことは褒められたことではありません。しかし、

「このスキー板をレンタルする料金に加えて、1000円追加で払うと保険が効くよ。
折れたり傷ついたりしてもお客さんは1円も負担しなくていいよ」というスキーレンタルや、

「レンタカー代とガソリン代以外に任意で1000円の保険に入るとXX万円までの
傷であれば修理料金はいただきません。」というレンタカーなどを利用すると、

ついつい荒っぽくなってしまう方もおられるのではないでしょうか。

これらを保険によるモラル・ハザードと言います。

保険会社が「普段どおり行動するだろ?常識的に考えて……」という目論見で
設定した保険について、それに加入した人々は、
「せっかく金払ってるんだから元取るだろ?常識的に考えて……」と、
行動してしまう点において、情報の非対称性が発生することが原因です。

これは損害保険の話だけでなく、健康保険の分野でも同じことが起こります。
健康保険が充実していると、患者はちょっとした病気でもすぐに病院に行きがちです。
高齢者の医療費は若い人よりも自己負担が小さいですので、
少しの体調不良でも病院に行く人が多いと言われます。
(もちろん高齢者の方はちょっとした病気が大病につながりやすいという面もあります)

また、医師においても「保険で安くなるので患者から文句は出ないだろう」という考えで、
過剰とも言える診療行為を行ったりします。もちろんこれがすべて診療報酬の水増しに
直結するというものではなく、ついつい「念のため検査しておくか」とか
「念のため投薬しておくか」という行動をとりがちだ、という例です。

そのため日本では、病院で行われた医療行為の記録を
病院でも健康保険組合でもない第三者機関がチェックしています。
ここで情報の非対称性が破れますので、大きなモラルハザードは起きにくくなります。

また、損害保険に免責条項を設定して「さすがにこれはアウトです」
という事例を保険会社が設定しておくことで、加入者の想定外の行動を制限します。
「木の根の真横のボールを打ってゴルフクラブが折れても保険金払いませんよ」
という説明を聞いていれば、そんなリスキーなショットを打つ人は少ないでしょう。

このように保険会社が「こういう場合なら保険を支払いますよ」と囲いを作ることで、
加入者は無茶をしなくなります。
それにより保険会社が「まさか」と思うことが無くなります。
すなわち保険会社と加入者で情報が対称となります。

私の説明がまずくて何のことを言ってるかわからなかった方は
「ジュリエットは仮死状態だったのに、それを知らないロミオは
本当に死んでいると思って服毒自殺してしまった」
というシーンの大袈裟な解釈だと思っていただいても大きな間違いはないと思います。

yohei

« 2007年5月16日

2007年5月17日の投稿

2007年5月18日 »

» このブログのTOP

» オルタナティブ・ブログTOP



プロフィール

山口 陽平

山口 陽平

国内SIerに勤務。現在の担当業務は資金決済法対応を中心とした資金移動業者や前払式支払手段発行者向けの態勢整備コンサルティング。松坂世代。

詳しいプロフィール

Special

- PR -
カレンダー
2013年5月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  
yohei
Special オルタナトーク

仕事が嫌になった時、どう立ち直ったのですか?

カテゴリー
エンタープライズ・ピックアップ

news094.gif 顧客に“ワォ!”という体験を提供――ザッポスに学ぶ企業文化の確立
単に商品を届けるだけでなく、サービスを通じて“ワォ!”という驚きの体験を届けることを目指している。ザッポスのWebサイトには、顧客からの感謝と賞賛があふれており、きわめて高い顧客満足を実現している。(12/17)

news094.gif ちょっとした対話が成長を助ける――上司と部下が話すとき互いに学び合う
上司や先輩の背中を見て、仕事を学べ――。このように言う人がいるが、実際どのようにして学べばいいのだろうか。よく分からない人に、3つの事例を紹介しよう。(12/11)

news094.gif 悩んだときの、自己啓発書の触れ方
「自己啓発書は説教臭いから嫌い」という人もいるだろう。でも読めば元気になる本もあるので、一方的に否定するのはもったいない。今回は、悩んだときの自己啓発書の読み方を紹介しよう。(12/5)

news094.gif 考えるべきは得意なものは何かではなく、お客さまが高く評価するものは何か
自社製品と競合製品を比べた場合、自社製品が選ばれるのは価格や機能が主ではない。いかに顧客の価値を向上させることができるかが重要なポイントになる。(11/21)

news094.gif なんて素敵にフェイスブック
夏から秋にかけて行った「誠 ビジネスショートショート大賞」。吉岡編集長賞を受賞した作品が、山口陽平(応募時ペンネーム:修治)さんの「なんて素敵にフェイスブック」です。平安時代、塀に文章を書くことで交流していた貴族。「塀(へい)に嘯(うそぶ)く」ところから、それを「フェイスブック」と呼んだとか。(11/16)

news094.gif 部下を叱る2つのポイント
叱るのは難しい。上司だって人間だ、言いづらいことを言うのには勇気がいるもの。役割だと割り切り、叱ってはみたものの、部下がむっとしたら自分も嫌な気分になる。そんな時に気をつけたいポイントが2つある。(11/14)

news094.gif 第6回 幸せの創造こそ、ビジネスの使命
会社は何のために存在するのでしょうか。私の考えはシンプルです。人間のすべての営みは、幸せになるためのものです――。2012年11月発売予定の斉藤徹氏の新著「BE ソーシャル!」から、「はじめに」および、第1章「そして世界は透明になった」を6回に分けてお送りする。(11/8)

オルタナティブ・ブログは、専門スタッフにより、企画・構成されています。入力頂いた内容は、アイティメディアの他、オルタナティブ・ブログ、及び本記事執筆会社に提供されます。


サイトマップ | 利用規約 | プライバシーポリシー | 広告案内 | お問い合わせ