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ヴェルナーは以下のように述べています。少し長いですが、重要な部分なので、省略せずに引用します。

私のこの提案を、企業収益の増大のためであると誤解しないでいただきたい。いずれにせよあらゆる税金は、いわゆる最終消費者価格に含まれていることを思い起こしてほしい。今日すでに最終価格に含まれた高い税金(付加価値税)を負担しているのは消費者なのである。不信の念をもってしては、事態を正しく認識することはできない。

この不信には否定的な人間像が反映されており、これこそ目下、税制の根本的な改革を妨げる主要問題のように思われる。決定権を持っている者たちは現存するシステムから利益を得ていると一般の人が考えるのに対して、決定権を持っている者たちは、無条件のベーシック・インカムは人間の労働意欲と能力発揮を弱体化させると考えているようだ。

しかし、そうではない。ベーシック・インカムが導入されれば、市民は生活の糧を得るために、ほんらい自分の能力や技能にまったくふさわしくない仕事を果たさなければならない職場探しから解放され、各人が持っている個人的な潜在能力を発揮しうる職場を探すことができる。その結果、一般的に意義があると考えられる職場のニーズがますます高まるであろう。なぜなら、そのような職場は、第一に、求職者自体の意図にかなっているからであり、第二に、職場に求められる一般的、道義的な諸要求に対応しているからである。そうなれば、副次的コストがなくなって純粋に労働コストだけになるから、現在コスト面で経営が困難になっているサービス分野--老人介護や病人介護、教養文化面での仕事--に膨大な仕事の可能性が生まれるだろう。

そして、もちろん私は企業家として、自主企画と自己責任がはっきりと促進されることを期待している。ベーシック・インカムが導入されれば、「個人企業」(失業者を対象とした起業促進策)に対する国家助成はなくなる代わりに、起業家的なイニシアティブが可能になるであろう。なぜなら、国家は市民に、自ら起業を試みる自由な機運を作り出すであろうからだ。「個人企業」の概念が示唆するのは自分自身のための成果であるが、分業の原理にもとづいてなされる仕事は、いかなる仕事であれ、その成果は他者のためになされるという客観的な事実がある。それゆえ、経済はお互いのためになされる成果の継続的な相互プロセスに、すなわち包括的な双方向の互酬的な労働にもとづいている。国民経済もやはりこの互酬的な労働にもとづいており、所得政策、社会政策、税制関連政策はこうしたシステムを可能なかぎりうまく促進するように整備されていなければならない。

私の考えでは、これを実現するのは、私たちがベーシック・インカムによってそのための自由な空間を社会的につくりだす場合だけであり、また私たちの間に、人間はみな責任を持って自分自身ができる貢献をするのだという相互信頼が存在する場合だけである。

ヴェルナーは、ベーシック・インカムによって、意義や必要性があってもこれまで待遇が低かった老人介護や病人介護、教養文化面での仕事の可能性が生まれることを示唆するとともに、それには、全員が責任を持って自分自身ができる貢献をするのだ、という相互信頼が存在することが前提になると言っています。

それでは、日本でベーシック・インカムは導入できるのでしょうか。

私は、現状のままよりも、ベーシック・インカムを導入した方がよりよい社会になる可能性があると思います。しかし、日本ですぐに導入できるとは考えません。

ベーシック・インカムは、賛成と反対が分かれるラディカルな提言です。総理大臣が毎年のように交替する日本で、15~20年かけて税制と福祉を根本的に変えていく"骨太"の改革は、期待できそうにありません。消費税が50%になる意味を国民にきちんと説明することは、どの政党も難しいでしょう。「50%」のキーワードだけが一人歩きして、反対が出そうです。社会保険庁など、ベーシック・インカムで不要になる役所は、もっともらしい理由を付けて反対すると予想されます。新聞やマスコミは、「企業と金持ち優遇」とか言い出すに違いありません。これらを乗り越えてベーシック・インカムが実現するまでの道のりは、遙かに遠いように思われます。

11月16日の日経新聞朝刊によると、自動車メーカーと部品メーカー合わせて、自動車産業全体の今年度の国内人員削減は、1万人を超える見込みです。今や自動車は消費する以上に生産できるようになってしまいました。しかも、人員削減で失業した人たちは、自分たちが作っていた車を買うこともできなくなります。これはこの先で景気がよくなれば解決することなのでしょうか。

まず始めに必要なことは、これまでの常識が通用しなくなっていることを認識し、税制や社会福祉をどう変えるべきか真剣な議論を始めることだと考えます。

私たちは変われるでしょうか。

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加藤和幸

加藤和幸

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ITを売る側と買う側の両方の経験を活かして、CRMとCMSのコンサルティングを中心に、お客様の”困った”を解決します。

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