栗原潔のテクノロジー時評Ver2:ITmediaオルタナティブ・ブログ (RSS) 栗原潔のテクノロジー時評Ver2

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« 2007年11月19日

2007年11月20日の投稿

2007年11月22日 »

連載企画と言いながら、流れが止まってしまいましたが、着々と進行しています。

JASRACから発行されたIDとパスワード(英字大小文字と数字のランダムな組合わせ)を使って、JASRACのJ-TAKT(ご登録者/ご契約者サービスメニュー)にログインできるようになっています。ここから、いろいろと変更処理やクレジットカードによる利用料の支払いができるようになっています。

しかし、変更処理ができるとは言っても、たとえば、楽曲数を増やしたりとか、ストリーミングに加えてダウンロードもやるとかの変更を行おうとすると、結局、手続きを最初からやり直すことになります(JASRACに申し込み書を送って、書類の到着を待つということの繰返し)。結局、ユーザー登録する意味は、いちいち住所等を再入力しなくて済むというくらいしかありません。

実は、もう公開できそうな初音ミク作品はいくつかあるのですが、最初に申し込んだ時に余裕を見て12月からサービス開始としてしまったので、それはもう変更不可能なのです。すぐに始めたければ、再度、許諾の申請をしなければいけません。少なくともクレジットカードのオーソリが済んでいる利用者に対しては、オンラインでもっと柔軟かつ迅速に変更手続きをできるようにしていただきたいものです。

それから、JASRACから「音楽著作物利用許諾書」という書類が(だいぶ前に)届いています。この書類に書いてある許諾マークダウンロードキーを使って先ほどのJ-TAKTサイトから許諾マークをダウンロードすることができます。このダウンロードマークをサイトに掲示することが求められています。マークは単なるpng型式の画像ファイル(配信形式と曲数が書いてあります)で特に属性情報はくっついていないようなんですが、何らかの形で管理情報がエンコードされているのかもしれません。

ところで、JASRACというとネット・コミュニティでは目の敵になりがちですが、少なくともネット配信に関してはそれほどアコギではないと思います。非営利+ストリーミングでであれば、月額1000円払えば無制限に配信可能です。こんな形態にまで金を取るなんてと思われる方もいるかもしれませんが、逆に考えれば、金さえ払えば外国曲も含めてほとんどの音楽作品を大手を振って使えるのですから、そんなに悪い話ではないでしょう。

ただ、金の問題はまあいいとして、上記に書いたように利便性という点では、いかにもお役所仕事という感じがします(JASRACは役所ではないですけどね)。たとえば、ISPと提携して、ISPのサービスのオプションとして許諾サービスを一括で提供できるようにすれば、利用者も広がるし、結局、得だと思うのですが。

より、根本的な解決策はもっと競争原理を働かせることでしょう。建前上は著作権管理事業はJASRACの独占事業ではありません(他の著作権管理団体のリスト)。ただ、事実上は、歴史的経緯もありJASRACの独占に近い形になっています(ちなみに、音楽著作権管理事業は公正取引委員会の監視対象になっています)。ある程度政策的に、このような現状を公正な競走が行われる方向にシフトしていくべきでしょう。

現在は、著作権の利用パターンごと(CD化、楽譜発行、公衆送信等々)に分けて、著作権管理事業者と信託契約を結ぶことが可能になっています。たとえば、CD化の権利をJASRACに信託して、ネット配信の権利を別の団体に信託することが可能です。これをさらに一歩進めて、複数の団体に持ち分を定めて信託できるようにしてはどうでしょうか?たとえば、ネット配信の権利をJASRACに50%、他の団体、たとえば、イーライセンスに50%信託するというようにです。著作権の共有は著作権法的には問題ないですから、原理的には可能だと思います(この辺の制度や実務に詳しい方いたら教えてくださいな)。

すべての領域(特に生演奏関係)でこれをやると管理業務が大変なことになってしまいますが、ネット配信に限定すれば、かなりの程度自動化できますので何とかなるのではと思います。著作権者(作曲家、作詞家)の人も、複数団体に分けて信託をすれば、どの団体が、最小限のピンハネで利用料をクリエイターに還元するという著作権管理団体の本来の業務に忠実かということがわかると思います。また、音楽著作物の利用者の方も、一番、利便性が高い団体と契約するでしょうから、その辺でも競争原理が働くでしょう。

【バックナンバー】

【連載企画】合法的音楽配信サイトを作ってみる(4)

【連載企画】合法的音楽配信サイトを作ってみる(3)

【連載企画】合法的音楽配信サイトを作ってみる(2)

【連載企画】合法的音楽配信サイトを作ってみる(1)



栗原 潔

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栗原 潔

栗原 潔

株式会社テックバイザージェイピー(TVJP) 代表取締役 弁理士
IT、知財、翻訳サービスを中心とした新しいタイプのリサーチ会社を目指しています。

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