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ICT、クラウドコンピューティングをビジネスそして日本の力に!

« 2010年6月8日

2010年6月9日の投稿

2010年6月10日 »

「iPadショック」では第7章に「巨大会社を手玉に通信業界を動かす」という章が設けられています。通信業界に関係している人間にとっては、大変興味深い内容です。以下、「iPhoneショック」の内容をとりあげながら、少し整理をしてみたいと思います。

iPhoneの登場は、これまでの日本におけるガラパゴス携帯の市場を大きく変えることになりました。iモードに代表されるように通信事業者(キャリア)主導のビジネスモデルから、メーカ主導のビジネスへと変化することになりました。

アップルが、これだけ評価が高く売れる製品をつくる理由の秘密は、アップルがキャリアとメーカの立ち位置を逆転させてしまったことにあると指摘しています。メーカが、キャリアの顔色を見ながらものづくりをしていたものが、顧客のほうを向いて人々が欲しくなるような端末づくりを目指している点をあげています。

アップルのシラー上級副社長は、

我々が誇りに思っているのは、顧客の気持ちになって勇気を振り絞り、難しいトレードオフの中での最良のバランスを見つけていることです。

と述べています。

そして、ものづくりだけでなく、できあがった製品の市場開拓や流通する販路、そして店頭表示方法からパッケージの洗練まで、全方位で製品を良く仕上げ、よく売るための努力を惜しまない「選択と集中」のアップル戦略は目を見張るものがあります。

アップルはこういった顧客目線で商品開発などを進める一方で、通信キャリアに対しては、対等かもしくは上からの目線で、強気な交渉で知られています。それでも通信キャリアがアップルの商品をほしがるのは、強烈な魅力を放っているからだとしています。

その中で、ソフトバンクモバイルは、アップルと対等に交渉をし、アップル側にiPhoneをもっと売るための提案も数多くするなど、確かな実績を上げてきている点をあげています。

そして、iPadは「携帯電話を襲った4つのiPadショック」で、1月に米国で発表された3G版向けサービスの詳細は携帯電話業界に一石を投じるものとして驚くべき点を4つあげています。

  • 月額料金の安さ (AT&Tは通信容量無制限で月額3,000円弱)
  • 契約不要のプリペイド方式の採用 (販売奨励金が採用されず)
  • SIMロックフリー端末
  • 従来のSIMカードではなく、マイクロSIMの採用

iPadでは、これまでの販売の契約に関係なく、もう一度キャリアを選定しなおすことになりました。ここで各キャリアのアプローチの違いが出てきます。

NTTドコモは、iPadを「高級ネットブック」と呼び、交渉の外でSIM提供を公言してしまったことをあげています。一方でソフトバンクは、正式発表まで堅く口を閉ざし、3月28日に、電波改善宣言を出してアピールしています。さらには、フェムトセルを無料で配布することも発表しています。詳細な交渉状況は定かではありませんが、世界でソフトバンクだけが、SIMロックという形でiPadを提供するという破格の条件を引き出すことに成功した点があげられています。

ソフトバンクの孫正義社長は、5月28日、報道陣の質問に対して「iPadを一人でも多くの人に届けたいというソフトバンクの情熱がAppleに通じたから」と述べています。

しかしながら、iPadでSIMロックをかけて提供することが、すべてにおいて事業にプラスになるのか悩ましいところです。

AT&Tが、iPhoneなどのパケット定額廃止を発表し、「日本はどうなる?」という不安の声に、ソフトバンクの孫社長はTwitterで、「悩ましい問題」と答え、定額制の存廃については明言を避けています。さらに、「2%のユーザーが全体の50%くらいの通信容量を占拠しています」とし、iPhoneやiPadの利用ユーザ数がこれから増えていけば、さらにネットワーク環境に負荷がかかることが予想されます(関連記事)。

image

iPadでの利用はソフトバンクの3Gで通信をすることができますが、無線LANの機能も搭載していますので、Wifi接続も可能となります。私の場合は、3Gは搭載せず、Wifi機能のみのものを購入しました。「iPad発売で進むモバイル通信の価格破壊」にもあるように、今後、NTT東日本、そしてNTTドコモからドコモのネットワークでアクセスできるモバイルWifiルータを6月末にも発売される予定です。iPadの登場は、しばらくはモバイルWifiルータを軸にモバイルブロードバンドの市場にも価格破壊などの大きな変化を起こすことになるでしょう。

そして、政策面でも総務省の「原口ビジョン」にある「光の道」構想が、議論になっています。今後、モバイルインターネットの通信が急速拡大していくことが予想され、電波の活用もふまえ、固定通信、無線通信の在り方について、さらに検討が進んでいくことが予想されます。

やはり、iPadの日本上陸は、通信業界を動かすほどのインパクトをもっていると言えるのかもしれません。

関連サイト

MASAYUKI HAYASHI

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プロフィール

林 雅之

林 雅之

ICT企業勤務。クラウドサービスのマーケティングを担当。
国際大学GLOCOM客員研究員。社団法人クラウド利用促進機構アドバイザー。
著書『オープンクラウド入門(インプレスR&D)』『「クラウド・ビジネス」入門(創元社)』

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