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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

スマートメーターの新しい投資回収モデルを示唆する野村不動産の取り組み

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先日、米国のスマートメーター普及の進展ぶりを確認する機会がありました。オバマ政権の助成金が付いたスマートグリッド関連プロジェクトのうち、もっとも大きな助成金2億ドルが交付されたのは以下の6プロジェクト。

- Baltimore Gas and Electric Company: Smart Grid Project
- CenterPoint Energy: Smart Grid Project
- Cleco Power LLC: Advanced Metering Infrastructure Project
- Florida Power and Light Company: Energy Smart Florida
- PECO: Smart Future Greater Philadelphia
- Progress Energy: Optimized Energy Value Chain

これらは米国のスマートメーターのフラッグシッププロジェクトと言ってよいわけですが、ネットで得られる情報を見る限りでは、目に見えるような成果を挙げているという様子はないようです。おそらくは、昨年以下の投稿で書いたような課題があるのだと思われます。

やっぱり難しい?米国電力業界のスマートメーター活用

しかし、所変われば品変わるで、スマートグリッドも米国におけるそれと日本におけるものとでは、背景もニーズもまったく異なりますから、日本は日本のやり方を開発すればよろしいということが言えます。
日本では現在、原発停止に伴う燃料費高騰=電力料金高騰の図式が定着するかどうかというところにあり、スマートメーターを設置することで何らかの経済的なメリットが得られる「かもしれない」という背景を持っています。スマートメーターの活用についても「新しい頭」で臨むべきでしょう。

■「高圧一括受電」のバージョンアップ版という位置づけ

スマートメーター活用の新しい方向性を感じさせる記事が先日の日経に出ました。

野村不動産、電気代分散利用で安く
マンション各戸にスマートメーター
(2012/2/21日経朝刊)

中身は、野村不動産が分譲マンションの各戸にスマートメーターを設置し、各戸がオフピークに電力使用をシフトさせるなどすれば、相応の電気料金削減メリットが得られるようにする。その原資は、野村不動産がマンション全戸の電力契約をまとめて行うことで得られるkWh単価の安い電気料金から来るというものです。
これは以前から「高圧一括受電」と呼ばれてきた、集合住宅における電気料金削減手法のバージョンアップ版という位置づけになっています。

高圧一括受電については検索でたくさん関連ページが出てきますので、それをご覧下さい。簡単に言えば、電力会社が提供しているkWh単価の安い高圧電力で契約して、各戸への配電を集合住宅管理者側が行うことで相応のコストメリットを出すというものです。

従来型の高圧一括受電では、電力量計がリアルタイムで電力使用量を計測するタイプではないため、各世帯が電力料金の上がるピーク時間帯に電力使用を抑制しようがしまいが、全世帯が得られる電気料金削減幅は同じというパターンが見られたはずです(←要確認です)。

細かく補足すると、「電力量計がリアルタイムで電力使用量を計測する」とは言っても、現実的に現在のスマートメーターによる電力使用量計測で意味があるのは15分単位の計測です。
「世帯が電力料金の上がるピーク時間帯」については、一例が東京電力の業務用季節別時間帯別電力の説明ページにあります。電気需給約款の料金単価イメージ図をご参照下さい。

東京電力が提供しているような高圧契約の時間帯別電力料金制度を前提として分譲マンション各戸にスマートメーターを設置すると、「ピーク時間帯に電力使用量を減らした世帯」に対しては応分の料金削減メリットを還元することが可能になります。
従って、各世帯に還元できるメリットは「従来の高圧一括受電で還元できていたメリット」+「新たにスマートメーターで可能になるピークシフトによるメリット」の2系統となり、うまく組むとスマートメーターの設置費用を早めに回収できる可能性が出てきます。

これは非常に新しいスマートメーターの使い方であると言えます。僭越ながら、私が知っている限りにおいては諸外国には類例がありません。

■より「上流」へ近づくと料金削減幅が広がる

この利用形態の何がすごいか?と言うと、適用領域を1つの集合住宅から1つの地域へ、さらに1つの都市へと発展させることもできそうなポテンシャルを持っているということです。

「電力料金の削減」を目的とした場合、一般的に言って、電力ビジネスの上流へ行けば行くほど、削減余地は広がり、削減のための手法も多様化します。非常にわかりやすい例で言えば、需要家レベルでは電力料金削減が最大1割といった水準(あくまでも例です)に留まるのに比べて、上流の発電ビジネスでは燃料の調達から発電効率の高い最新設備への入れ替えまで「実施できるオプション」が多様に存在しており、期待できるコスト削減幅も2〜5割といった水準(あくまでも例です)になる…というようなことがあります。

従来のスマートグリッドの取り組みは日本に限らず、この「上流のコスト削減余地を取り込む」発想に乏しく、結果として得られる投資効果があまり芳しくないという状況がありました。

野村不動産の今回の取り組みは、「各戸レベルの電灯契約」から「集合住宅レベルの高圧契約」へと、一段「上流」へ近づいた動きであると言えます。これをさらにもう一段、ないし二段「上流」へ近づく工夫をすれば、実施可能なオプションはさらに増え、得られる削減幅も大きくなるのではないかと思います。すなわち、スマートメーターの投資回収もしやすくなります。

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