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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

[記事メモ]日本の現状に見る「インターネットの“悪夢”、再び」 -なぜスマートグリッドに前向きでないのか-

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今回は韓国のスマートシティ新松島を1つ先送りにして、忘れないうちに考えたことをメモしておきます。

日経ビジネスに以下の記事が出ました。

日本の現状に見る「インターネットの“悪夢”、再び」 -なぜスマートグリッドに前向きでないのか-

非常に真摯な記事であり、スマートグリッドに関心を持つ方全員が必読だと思います。
その上でこちらが考え方ことを…。日本においては米国や欧州のようにスマートグリッドへの取り組みが活発ではなく、その背景には、この記事で指摘されている事柄があることは事実だと思います。
しかし翻って、では、日本が米欧のように、スマートグリッドをかなり積極的に推進すればいいかと言うと、それは一考を要するのではないかと思っています。以下が理由です。

・スマートグリッド振興は、関連製品を製造販売する業界に対する産業政策としては意味があるものの、スマートグリッド具体化にかかるコストを最終的に誰が負担するのかという課題が解決されていません。例えば、米国では、スマートメーター設置にかかるコストを消費者に転嫁する枠組みが未だ確立しておらず、オバマ政権の助成金によって設置された分はよいとして、今後、残りの需要家に設置するスマートメーターのコストを電力会社がどう取り扱うか、明確な指針ができていません(転嫁の枠組みができない状況ではスマートメーター設置見送りもあり得る)。そういうなかで、弊ブログでご紹介したような問題も起こっています(米国のスマートメーター超過料金問題のてんまつ(下))。同じ図式は日本にも欧州にもあると考えられます。
そういう状況でスマートグリッド関連機器メーカーがこぞって先行投資を行い、新型機器開発や製造ライン拡充を行って、製品を積極的に出荷していくと、コスト負担の用意がない市場に製品があふれてしまうということになりかねません。メーカーの投資回収は覚束ないでしょう。
(とはいえ、エンドユーザーにおいてもスマートグリッド進展の合意が形成された国があるとすれば、そういう国に対する輸出は期待できますね。)

・特に消費者においては、スマートグリッドのメリットが喧伝されるようには魅力的なものと映っていない可能性があります。HEMSによって高度な省エネが可能になるとしても、それの価値を理解できている消費者は、現時点ではエベレット・ロジャーズの言うイノベーター層(社会の2.5%)ぐらいではないでしょうか?彼らにしても、HEMSの活用に不可欠なHEMS対応機器(柔軟な電力消費を可能にするための付加機器や対応家電等)に対して、プレミアムコストを払う用意があるかと言えば、そうとは言えない状況にあるのではないでしょうか?
ここでスマートグリッド振興が大々的に行われたとしても、上記のような製品の供給過剰になりかねません。

・また、消費者を含む電力のエンドユーザーは、スマートメーターの一段上にあるスマートグリッド、例えば、地域における再生可能エネルギーを含んだマイクログリッドの具体化が、電力品質の劣化と背中合わせであることをまだまだ理解していません。電力品質の劣化とは、エレベーターが動作した時とか、冷房機器のインバーターが動作した時など、電力負荷が急激にかかった場合に、電圧や電流が不安定になることを指します。ご存じのように日本の電力品質は非常に高いため、これに慣れているエンドユーザーは、マイクログリッド化されたとたんに、照明がちらついたり、電圧が急低下した時にパソコンが止まったりということがあると、大きな不満を持ちます。これを避けるには、相応の費用を投じて、マイクログリッド内の電力品質を常に高く維持する必要があります。
一般的に再生エネルギー発電だけでも発電単価は既存の系統電力を成立させている諸発電方式よりは高いということがある上に、マイクログリッド内の電力品質維持のためにさらにコストがかかるとなれば、最終的なエンドユーザーの負担はかなり高くなると考えられます。こういう「高くつくスマートグリッド」に対して、エンドユーザーは何の認識もない状況にあります。
ここで関連メーカーに対する振興方策を行えばどうなるか?買い手が買う気になっていないところへ製品があふれるということになりかねません。

ということで、課題はすべて、エンドユーザー側の意識ができていないところで、プロダクトアウト式の発想でスマートグリッドを進めても、最終的にメーカーが損失を被る可能性があるというところに収斂します。

これが現在の状況であるとするならば、本来的に「よいもの」であるスマートグリッドを推進するにはどうすればいいか?
法人を含むエンドユーザーを地道に啓蒙していくしかありません。あるいは、エンドユーザー側から「今すぐにでもスマートグリッドに切り替えたい」という声が上がるようなマーケティング方策を実施していくのでもよいでしょう。
前者は国の仕事になります。本当に日本にスマートグリッドを根付かせたいなら、テレビのデジタル化で大きな予算を投じて国民に周知徹底を図っているのと同等かそれを上回る啓蒙方策が必要だと思います。スマートグリッドの意味の理解や個人における活用方法への慣れは、パソコンの習得にも等しい手間暇がかかります。
後者はメーカーおよび電力会社の仕事ですが、やはり消費者の意識が変化するまでは長くかかるでしょう。その間のコストは持ち出しになります。

ことほどさように受益者側において真のニーズがわき起こってくるまでは非常に時間がかかるのがスマートグリッドです。そのことをさしおいて、「日本のスマートグリッドは出遅れているから早急に…」という論を立てるのは、関係者、特にメーカーをミスリードする可能性があります。私の見立てでは、電力会社関係者はそのことをよく理解しており(エンドユーザーの理解が醸成されるまでは時間がかかる)、現在の一見消極的にも思える姿勢は深慮の結果であると思っています。

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