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今こそビジョナリーカンパニー4を読め!あるいは激変期でサバイブする会社の条件

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ビジョナリーカンパニーシリーズが大好きで、読み返す度にブログになにか書きたくなる。
例えば・・・

「規律を守るのが日本組織の強み」は嘘。あるいは本当に強い組織の規律とは?
果たせなかった五輪出場、あるいはHPのボーリング表示器に思いを馳せる

「やらないことを決める」をどこまでシビアに追求するか?あるいはウチのWebサイトのショボさをいつまで放置するか?

組織に5カ年計画やミッション・ビジョンは必要か?あるいは経営方針書について

など。

全部で4冊(+α)でているが、経営者に一番人気があるのはビジョナリーカンパニー2(平凡な会社が飛躍する方法)だ。僕もこれが一番好き。というか、この本はウチの会社(ケンブリッジ)についての本だと思っている。

一方でビジョナリーカンパニー4について熱く語っている人には会ったことがない。2はもちろん、1と3を熱く語る人は知っているのに、4だけファンがいない。

なんというか、4は地味なんですよ。研究結果もサプライズが少ないし、「着実の勧め」みたいな感じで、「これがうちの会社のバイブルだ!」みたいになりにくい。
でも、ビジョナリーカンパニー4こそが、新型コロナに襲われている今の世界のために書かれた本なのだ。誰も熱く語らないのなら、僕が語ろう。


★激変する環境で生き延び、発展する会社とは?
ビジョナリーカンパニーシリーズには毎回「骨太の問い」みたいなものがある。
4の場合は「激変する環境で生き延び、発展する会社とは?」である。

「現代は変化の時代だ」と誰もが言う。
現代は環境激変期だと、みな思っている。試しに21世紀に入ってから起きた「企業の経営環境を一変させる突発的な出来事」をリストアップしてみよう。

911のテロ:2001年
リーマンショック2008年
東日本大震災:2011年
コロナショック:2020年

20年で4回。5年に1回のペースで、全く想定していなかったとんでもないことが起きている。確かにこれはもう、ブラック・スワンが当たり前にいる世界に僕らは生きている、と思ったほうがよいのだろう。

余談だが、20年前の日経新聞にも30年前の日経新聞にも40年前の日経新聞にも、「今は激変期」と書いてあるらしい。確かに20世紀にさかのぼっても、
・バブル崩壊
・冷戦終結
・プラザ合意と円高
などなど、結構なペースで想定外な出来事や経営環境の激変は起きている。企業を経営する時は、こんなことくらい、ちょくちょく起こって当然、という前提で意思決定をしなければならない。


★じゃあどうすりゃいいのか?
不確実性が高い環境で発展する企業に共通する要素として、ビジョナリーカンパニー4では以下を指摘している。
a)20マイル行進(好不調に関わらず、毎年一定のペースで成長する)
b)建設的なパラノイア(リスク感度を高め、バッファを持って不確実性に備える)
c)銃撃⇒大砲(新技術や事業をたくさん試し、いけるとなったら大胆に投資する)
d)一貫性のあるレシピ(うまくいく方法を愚直に繰り返す)

はっきり言って、どれも地味だ。特効薬っぽい要素はゼロ。例えばd)一貫性のあるレシピの例として、サウスウエスト航空が掲げる10のレシピが書かれている。曰く「機内食を出さない」「他社との乗り継ぎは考慮しない」「2時間以内の近距離路線」など。どれも具体的だ。これを経営から現場までが守ることが、発展の原動力となる。

これらのレシピには、イノベーションとかデジタルトランスフォーメーションとかそういう華々しい要素はない。なぜならそういうのってギャンブル性が高く、経営者がコントロールしにくいから。
ビジョナリーカンパニー4の原題は「Great by Choice(自分の意志で偉大になる)」なのだが、これは「偉大な企業は天才でなくとも実行作れる。意志さえあれば」という著者からのメッセージだと理解している。

そもそもこのサウスウエストのレシピ自体、彼らの独創ではなくライバルのマネであり、「飛躍的な成長や環境変化に打ち勝つためには画期的な戦略が必要」という思い込みを否定する。
「一貫性のある(退屈な)レシピを作り、それを頑固に守ろう」というのは、本当に地味な話だ。ビジネス書に書いても、著名なジム・コリンズが出した本でなければ、見向きもされないだろう。他の要素も「建設的なパラノイア」など、かなり地味だ。


★20マイル行進
4つの要素の中でも最も重要な「20マイル行進」について、もう少し考えてみよう。
「20マイル行進」というのは変なタイトルだが、南極点の一番乗り争いをしたアムンゼンとスコットにちなんでいる。派手で奇抜な作戦を繰り出したスコットに比べ、競争に勝ったアムンゼンは十分な食料や装備を整えた上で、毎日きっちり20マイル(30km)踏破したそうだ。
企業もアムンゼンと同様の規律が重要だ、とジム・コリンズは主張する。
アムンゼンが多少の悪天候でも20マイル進んだのと同様に、景気が悪くても、利益をきちんと出し、成長を続ける。もちろん慌ててリストラをしたり、資金調達のために将来の「金のなる木」を切り売りしたりはしない。
もちろん「毎年利益を出す」を目標に掲げるのは簡単だが、津波やアルカイダやウィルスやデジタル化の波が断続的に襲ってくる環境で、それを達成するのは至難の業だ。単に意志が強いだけではなく、リスク管理や組織力を常に向上させ続けることへの執念など、総合力が問われる。

それよりも、経営者がコントロールできるのは、景気が良くても急成長させないこと。買収や組織の成長スピードを超える売上拡大など、無茶な急拡大をしない規律こそが、実は企業を成長させる鍵なのだ。


★不況で採用人数を絞るのは近視眼的経営
これを卑近な例で考えてみよう。
多くの日本企業は、不況になると採用人数を減らす。就職氷河期、超氷河期はいずれも不況が原因だ。例えばリーマンショックの後、企業が一斉に採用をストップしたことで、超氷河期と呼ばれる不遇の世代が生まれてしまった。
だがこの慣習は20マイル行進の精神に反している。僕はビジョナリーカンパニー4を読む前から、この慣習が不思議で仕方なかった。

日本企業における新卒採用は、即戦力を全く期待していない(以前、各社人事部の飲み会で全員に聞いてみたが、すべての企業が、新卒には即戦力を求めていなかった)。3年後、5年後にようやく戦力になるのを見越して採用している。
景気の周期もちょうど4,5年のことが多いので、不景気だからと採用を絞ったら、景気が回復してアグレッシブな経営をしたい時に戦力不足になる。
採用と戦力化には必ずタイムラグがある。このあたりが人材管理の難しいところだ。

逆に景気が良くなると、途端に採用人数を増やすのも謎だ。採用した社員が戦力になるころ、景気が良い保障はないのに。有名な例だとバブル期はどこでもめちゃくちゃな人数を採用した。もちろん各社が優秀な人材を取り合うのだから、正直品質に難あり、というケースもあったはずだ。そういう会社は、今は社員がだぶついて困っている。業績が良いにも関わらず、45歳以上をターゲットに大規模なリストラをするのだから、その世代がよっぽど余っているのだろう。

だから20マイル行進の考え方に照らせば、そうやって景気の波に合わせて採用人数を変えるのではなく、淡々と採用し、育成をするべきだ。恵まれた経営環境の時にだけ一気に拡大するのではなく。
むしろ不景気だと他社が採用を絞るため、普段より優秀な人材を確保しやすい。彼らは景気回復したころ、会社の中核的な戦力になっていることだろう。簡単な理屈だ。不況期でも極端に採用を絞らなければ、氷河期世代のように、国家レベルでの人材の無駄遣いも防げる。

こういう経営判断のおかしさって、採用人数だけではない。不況になるとそれまでやっていた変革プロジェクトを中断する会社も多い。単にちょっとしたITツールを導入するのと違って、事業構造や業務プロセスを抜本的に変えたり、基幹システムを作り直すプロジェクトは、10年先を睨んでやるものだ(そうでなければ投資の元がとれない)。
そういうプロジェクトを、直近1,2年が不景気だからといってすぐに中断するのは、金の卵を生む鶏を殺すようなものだ。歯を食いしばってやり遂げるべきなのだ。

なんでこんな、あからさまに不合理なことをやっているんでしょうね?
四半期ごとに利益を出すプレッシャーが長期的な意思決定を阻害しているのだろうか?
個人的には、四半期ごとの利益を追っかけるのはナンセンスだと思いますけどねぇ。長期的に利益が出る会社にすることが、経営者に課せられた、唯一の使命ではないのか。自分が退任したあとを睨んで、いま手を打つことが仕事なのだ。


★ちなみにウチの会社では・・
以前の記事でも紹介したが、ケンブリッジ経営方針書には「年12%以上の成長はしない」という項目がある。

★規律をもって規模を拡大する(Organic growth)
組織能力の向上のために、社員を増やす。人数が多ければ組織全体としてやれることは増えるし、より専門特化した尖った人材を組織に迎え入れ、活かすことが出来るようになるからだ。
ただし2000年前後に急拡大した際、育成が追いつかずカルチャーも薄まり、破綻した経験をした。これを踏まえ、Organic growth(自然な成長)を目指す。
現時点では、年12%の拡大が方法論やカルチャーの浸透の限界だと考え、12%を超える成長はしない。12%成長を守るとすると、2028年には300人規模になっている計算になる。
ただし、方法論やカルチャーのより速やかな伝達の方法が確立されれば、この限りではない。

これは露骨にビジョナリーカンパニー4の20マイル行進を意識した項目だ。
良いときも悪いときも、自分たちのペースで着実に成長する。利益もなるべく波がないのが理想だ。特に、景気が良いからと言ってむやみに仕事を受注しないことに、かなり気を使っている。だからこの2,3年は「提案して」と言っていただいても、8割は辞退していた。

xx_20200325_ケンブリッジの成長カーブ.jpg

この社員数のグラフを見れば分かるように、僕らは20年前に一度大きな失敗をしている。急降下中のドヨンとした会社の雰囲気は今でも覚えているし、辞めなかったのが不思議なくらいだ。

第2の創業をした時、無理のない着実な成長を会社方針として決めた。当時ビジョナリーカンパニー4は発売されていなかったが、かつての失敗から、急拡大はもうコリゴリ、と辞めずに残ったメンバーですら思っていたからだ。

結果として僕らは20マイル行進的な成長をすることになった。

「年12%」は、社員の育成上のボトルネックから来ている。これ以上のペースで成長しようと思えば、「5人のプロジェクトに3人が新入社員」みたいなことになる。これではお客さんに対して良い支援はできないし、プロジェクトをやりながら社員を育てる余裕もなくなってしまう。すべての歯車が狂うのだ。

成長スピード以外にも、「プロジェクトがうまく行かなかった時でも、お客さんへの責任を果たせるように、バッファとなるマンパワーを常に確保しておく」という方針もある。すべての依頼を受けず、案件を選ばせていただく際の基準を定めた方針もある。
これら全てが、20マイル行進的に着実に成長するための「一貫したレシピ」だと思っている。


★景気後退は経営の通信簿
この2,3年、コンサルティング業界やIT業界は好景気が続いていた。
採用は超売り手市場。ITベンダーに提案を依頼しても多忙を理由に断られることもあった。以前では考えられない。もちろん提案金額もかなり高止まりしていた。
だが、新型コロナの影響で、相当な不況に突入するだろう。何しろろくに経済活動をしていないのだから。リーマンショックと違って、実体経済が正面からダメージを受けている。

景気後退は残念だが、良いこともある。それは経営の通信簿として機能することだ。
これまでは景気の良さに紛れて、経営にごまかしが効いた。だがこれからの数年は事業環境が全く変わる。
・お客さんにきちんと価値を提供できていただろうか?
・既存の仕事やマーケティングを通じて、一緒にプロジェクトをやってみたい、と思ってくれる潜在顧客の厚みはあるだろうか?
・社員は会社や仕事が好きだろうか?
会社の様々な側面で、これまでの仕事ぶりの結果が問われる。
怖くもあり、楽しみでもある。

★おまけ
終わりが見えないロックダウン的生活に嫌気がさして「きっと4月には正常に戻るに違いない」「きっと6月には・・」みたいな、希望の先延ばしが続いてやられ気味の人が今後出始めると思います。

これについては、ビジョナリーカンパニー2に「ベトナム戦争の収容所から生き残った人々が持っていたマインド」というエピソードが紹介されていて、これも僕の人生観に影響を与えています。

これについては下記のブログで少し触れました。

果たせなかった五輪出場、あるいはHPのボーリング表示器に思いを馳せる

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