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「やらないことを決める」をどこまでシビアに追求するか?あるいはウチのWebサイトのショボさをいつまで放置するか?

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以前、「あなたがこの会社に入るべき10の理由、あるいはプロジェクトワーカーにとっての最高の環境」という記事を書いたら、「あんたの会社がいい会社なのは分かったけど、Webサイトがアレだからなんとかした方がいいっしょ。これじゃあ人が集まらない訳だよ」というアドバイスを結構いただいた。

まあ、そうなんでしょうね。このサイトを作ったのは8年くらい前。株主が変わったり、色んな意味で会社を生まれ変わらせた時に、バタバタと作った。それからもちろんコンテンツはちょいちょい足してはいたけれど、根本的に作り変えてはいない。

継ぎ足し継ぎ足しで作っているから、トーンの統一性とか情報の見つけやすさも今ひとつ。ご指摘はいちいちごもっともだと思う。


先日もブログのコメント欄でご指摘をいただいたので、改めて考えてみた。
実は、「Webサイトが古くてイマイチなので全面改修しましょう」という意見は、会社の課題を議論したり、年次計画をたてる時に必ず上がるテーマだ。にも関わらず、主に僕が反対していて、毎年先送りしている。なぜ僕がこれまで反対してきたのか?幾つか理由はある。
詳しくは割愛するけど、一言で言えば「ウチの社員の時間をそこには使いたくない」ということに尽きる。お金は問題ではない。会社にとって一番重要な資源は社員の時間だし、Webサイトをきちんと作りなおすとなると、プロに手伝ってもらったとしても、自分たちで魂を込めてコンテンツを用意しなければならない。この時間が惜しい。


例えばWebサイト再構築チームのリーダーを僕が務めるとして、その時間は、
・お客さんに対するサービスを「普通に満足」から「超満足」に引き上げる時間
・(同じことだが)プロジェクトを単に成功させるのではなく、大成功させる時間
・僕らの考えを世に訴えるための本を書く時間
・社員を育成するための時間(新しいトレーニング作ったり)
・新旧のお客さん達と、仕事につながらないけど有意義な議論をする時間
などなどを減らして当てることになる。これが嫌だったのだ。

ウチの会社のビジネスモデルだと、Webサイトというのはほとんど採用にしか役に立たない。お客さんを集める、売上をあげるという意味だと「ない訳にはいかないけど、あったからといってそれでお客さんが集まる」という話ではない。
そこでどうやったらより良い採用ができるかと考えると、現時点ではWebサイトをかっこ良くするよりは、1人1人の応募者と丁寧に向き合うのに時間を使った方がいいと判断している、とも言える。



とは言え、結構頻繁に「オタクのサイトどうかと思うけど」と言われるので、「僕らと直接接触していない人々から、せめてダメだと判定されないための最低限の身だしなみ」は整えた方がいいかなぁ・・と思い直した。もちろん僕らの様な、人が命の会社にとって、採用は決定的に重要だしね。
そして、社内で担当してくれる人を決め、マスタースケジュールを決めていこうか、などと思っていた。1週間ほどの間は。


さて、僕は「ビジョナリー・カンパニー2」を多分7回くらいは読み返している。だいたい2年に1回くらい読んで、僕らがやっていることは間違っていないか、2年前に比べて理想の会社にどれくらい近づいたか?をチェックしている。
昨日も読み返していたのだが、そこの「針鼠の概念」というパートに「自分たちがやるべきことを真に理解し、単純化し、それだけをやっているか?それ以外のことに目もくれないか?」というメッセージが出てくる。
同じ事をこんな風にも言い換えている「自分たちがやるべきことを、自負心ではなく、冷静な観察に基づく理解によって決めているか?」と。


いつものように自分の会社に引き寄せながらこの本を読んでいた僕は、考えてしまった。「綺麗で今風のWebサイトを整えるのにみんなの時間を使うのは、もしかして単に僕らの自負心がそうさせるだけではないのか?僕らが集中すべきことは他にあるのではないか?」

うちの会社で言う所の針鼠の概念、つまり他の誰よりもうまくやれることは、プロジェクトを成功させることだ。「ビジョナリーカンパニー2」によると、飛躍を遂げた企業は、愚直なまでにシンプルに、この他の誰よりもうまくやれることに力を集中させている。
だとしたら、僕らはWebサイトを良くする、という誰が考えても正しいことに時間を使うべきではないのだろうか・・?


少し時間をかけて、僕はこんなことを考えた。
Webサイトの改良は僕らにとって、「当然やったほうがいいこと」ではあるが、「他の大事なことに比べて、優先順位がすごく高いこと」ではないのだ。
この2つは似ているが、全然別なことだ。

プロジェクトをやっていると、この手の優先順位の話に頻繁になる。
みんなヒマじゃないから、本当にやってもやらなくてもいいことはそもそも話題にのぼらない。だから、「これをやったほうがいい理由」は必ず語られる。この施策をやるべき理由。この機能が必要な理由。リスクを潰すために、このタスクを今やっておくべき理由。

だが、そういう、やったほうがいい理由があるからといって、即それをやるか、というのとは全然別な話だ。ウチの社員が「お客さんと話をしたら、○○の理由でやったほうがいいとなりました」と言うのに対して、僕はしょっちゅう「おい、それって他にもやったほうがいい仕事が山ほどあるなかで、それよりも優先的にやるべき理由にはなってないぞ」と怒る。
よく仕事の基本を説いた本に「やらないことを決めよう」と書いてある。僕らもプロジェクトではそれを極めて重視する。ただ、本当の意味でやらないことを決めるためには、こういうシビアな議論をしなければならないし、そうやって導かれた「やらないという決断」は、しばしば直感に反するし、違和感とか不安感の元となる。


僕らにとってのWebサイトを改善し「ダメだと判定されないための最低限の身だしなみを整える」という仕事も、これに似ている。やるかやらないかで言えば、絶対やった方がいい。それが理由で良い人を採用するのに差し障っているのだから。
ショボイWebサイトを放置するのはかっこ悪いから、それを放置したままにするのはムズムズする。
だが、他の仕事よりも本当に優先なんだろうか?


僕の(今のところの)結論はNoだ。
何故かと言うと、本当に優秀な社員を惹きつけるのは、整ったWebサイトではなく、最高の仕事、最高のお客さんだからだ。
a)綺麗なサイトを持つ、実態としては大した仕事をやっていない会社

b)ショボイサイトの、本当に重要なプロジェクトを大成功させている会社
のどちらかを選ぶとしたら、そりゃ誰だってb)に入りたいだろう。

もちろんb)は外からではわかりにくく、a)はすぐに分かる。そのギャップは悩ましい。だから短期的にはa)に軍配が上がるかもしれないが、長期的にはかならずb)で勝負は決まる。顧客を集める際はもちろん、採用をする際にもだ。

両方やったほうがいいんでしょうね。本当は。でもあれもこれも大事だから何にでも手を出す、というのは戦略の教科書の最初の方に書いてあるダメ思考だ。
何かに資源を集中させるべきだし、それは身だしなみではなく、その会社が本当に大事にすべきこと、ビジョナリーカンパニー風に言えば「針鼠の概念」が示す仕事であるべきだ。


少なくとも、僕らはそうやってお客さんや社員を集めてきたし、僕らが見栄えよりも実質を重視する会社である以上、今後もしばらくはそれでいいんじゃないかと思っている。
これからもしばらくは「こんなしょぼいWebサイトの会社、行きたくない」と言う人はいると思う。それは損失なのだが、まあ、正直言えば、そういう人はウチには合わないんだと思う。

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