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組織に5カ年計画やミッション・ビジョンは必要か?あるいは経営方針書について

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かっこいい名前のついた5カ年計画。
みんなで一丸となって達成する数値目標。
キラキラしたビジョンステートメント。

こういうのは世間の会社にはよくあるが、ウチの会社にはない。ないことで「ウチの経営陣は経営者としてやるべきことをやってない」と思っている社員もいる。
だが、そういうのをぶち上げることが経営だと思っていたら、ちょっと単純すぎる。この手の「名前のついた大作戦」がなくても組織力が向上するなら、ない方がいいというのが僕の考え。

例えば「売上500億達成するぞ!」とかを掲げなくても、皆が品質の良い仕事ができるなら、売上を追うことで生じるKPIの歪みを防げる。ウチの会社は売上目標を意識してないが、毎年増収増益している。なのに数値目標要ります?

例えば「Challeng for tomorrow!! 飛躍に向けて全社5カ年計画」と題した綿密な計画書を作ったとしよう(タイトルは今でっち上げた)。これを掲げて会社を経営するより、優秀な社員が自主的に、計画書にないような新しいことに次々とチャレンジして、それが成果を生んでいく会社の方がいい。
多くの組織はこの手の計画が好きだが、5カ年計画による組織運営に最も頼ったのは共産主義のソ連だということを思い出して欲しい。

落ち目の企業こそ、起死回生のために華々しくもギャンブル的な戦略を採用することは良くある。だが、こうした窮余の策は必ずしも成功しない。というか大抵失敗する。
※起死回生策については衰退企業の姿を描いた「ビジョナリーカンパニー3」に詳しく書いてある。

「名前のついた作戦」なんて、なければない方がいいのだ。
名前ついた作戦をぶち上げなくても済むように、日常の意思決定に一貫性を持たせ、健全に組織を向上させていくことができるなら、それが一番良い方法なのだ。

ところで、「優秀な社員が自主的に新しいことに次々とチャレンジして、それが成果を生んでいく」とサラリと書いた。
例えばウチの会社だと、数年前までは「新たに始まるチャレンジ」は、僕自身が言い出しっぺか、相談に乗っているか、承認したかのどれかだった。だが最近は知らないところで何かが始まって、成果が出たあとで「実はこんな事やってます」と知ることがすごく増えた。正直寂しい部分もあるが、組織が自律的に動くとか、組織能力が向上するとは、こういうことなのだろう。

さて、どうすればこういう組織を作るれるのか分かります?
そこには特効薬はない。
・経営陣が毎週議論して意思決定の土台となる価値観をすり合わせる
・議論の過程をオープンにする
・個別の意思決定において価値観からブレない。ブレたくなったら価値観から議論しなおす
・自主的に仕事をする社員を採用する
・自主的に仕事をすることを奨励する。時に強いる
・新しいチャレンジと既存業務の質を高めること、両方を尊重して全体のバランスをとる
みたいなことを地道にやり続けることだ。
ウチの会社の場合、13年やってきた。

これって、名前のついた戦略をぶち上げてうぇーい!とかいうのに比べて地味だし、大変だし、知性や規律も必要だ。
経営幹部同士で時にギスギスした議論もしなければならない。社員からは何もやってないと思われるので割に合わない。

そのためか分からないが、筆頭の「経営陣が毎週議論して意思決定の土台となる価値観をすり合わせる」をきちんとやっている会社はほとんどない。


さて。そうやって議論を積み重ねた末に確立した価値観は強い
それがあるからこそ、現場に権限移譲しているのに組織全体での一貫性を失わずに済む。つまり権限移譲のメリット(スピードや社員のやりがいなど)を維持したまま、デメリット(部分最適化、サービス品質の低下など)を避けられる。
ケンブリッジが第二の創業をしてからの13年というのは、だんだんとこういう手応えを感じていく過程でもあった。


ただし、もちろん課題がない訳ではない。
議論を積み重ねた価値観は、議論に参加してきた経営陣には有効で効率的でも、外のメンバー(経営陣以外の社員や、新たに経営陣に加わった社員)にはかなり分かりにくい。
議論の経緯を共有してないし、そういう価値観があること自体も知られていなかったりする。だから経営陣が閉鎖的な集団に見えてしまう。

だから私たちケンブリッジは、2019年の一年間をかけて、これまでの議論の結果である経営方針を全部で35項目に言語化した。「Principle2019」というドキュメントだ。
経営陣が議論して叩き台を作った。
全社ミーティングで毎月Q&Aと議論をやった。
年一の全員オフサイトミーティングでも、グループごとに好きな切り口で経営方針について議論した。

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こういった過程でほとんどすべての項目に大幅な改訂や追加があった。
(実は、そもそも会社方針の明文化という取り組みにたどり着く前に、ビジョンづくりでぐちゃぐちゃの失敗もあった。その顛末についてはもう文章に書いてあるので、そのうち気が向いたらここにアップすると思う。また、全社合宿で色んな角度からこれについて議論したのも、本当に楽しいというか僕ららしいやり方だったので、やる気メーターが貯れば書きます)


Principle2019は35項目ある。
これまで口頭で議論してコンセンサスを積み重ねてきた「方針」を言語化したもの。35のなかにはケンブリッジの独自性が強く出ている項目もあれば、「他の会社はまだ言っていないだけで、いずれ世の中こうなるよね」という普遍的な項目もある。

一つ例にとると、こんな感じ。

規律をもって規模を拡大する(Organic growth)
組織能力の向上のために、社員を増やす。人数が多ければ組織全体としてやれることは増えるし、より専門特化した尖った人材を組織に迎え入れ、活かすことが出来るようになるからだ。
ただし2000年前後に急拡大した際、育成が追いつかずカルチャーも薄まり、破綻した経験をした。これを踏まえ、Organic growth(自然な成長)を目指す。
現時点では、年12%の拡大が方法論やカルチャーの浸透の限界だと考え、12%を超える成長はしない。12%成長を守るとすると、2028年には300人規模になっている計算になる。
ただし、方法論やカルチャーのより速やかな伝達の方法が確立されれば、この限りではない。

どこの会社でも規模の拡大は掲げているので、まあ普通の話には見えると思うが、ケンブリッジにとってこの話は10年単位の議論があって、ようやく「現時点の方針」としてこれにまとまっている。
・小さいままがいい
・規模の拡大は目的か?手段か?
・学生さんからは具体的な人数目標をよく聞かれる
・そもそも規模を追う会社じゃないはず
とかとか。
これまで議論を積み重ねてきたはずなのに、今回文言を制定するにあたって、この項目だけでも1時間くらいは話しているんじゃないかな?

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35項目は、
・全体方針
・サービスのあり方
・案件選択
・変化と意思決定
・会社と社員
・人材育成
の6つのカテゴリに分けられている。
「変化と意思決定」が1つのカテゴリになっていて、しかもカテゴリのなかでも項目数(記述量)が多いのが特徴的かもしれない。これは僕らがTeal組織的な、少し普通とは違う意思決定プロセスを採用しているからだと思う。普通じゃないから議論を積み重ねてきたし、きちんと説明しないと分からないので行数も多い。

あと、意思決定というかガバナンス的な話でいうと、部門責任者はこの方針の範囲内であればほぼ自由に意思決定できるが、この方針に抵触する意思決定をする権限は(暗黙的に)もっていない。
そういう場合は経営会議(マネジメントミーティング)でコンセンサスを得なければならない。
逆に言えば、そういうコンセンサスを取るための議論を通じて、こういった方針ごとができてきた。今回は新しく決めたと言うよりも、明文化しただけ。


これだけマンパワーをかけたので、「ウチの会社がどういう方針で経営されているのか?」については、社内にかなり浸透したはずだ。
元々が自主的に仕事をする人々が集まった組織だし、自主性を重んじる文化もあるので、価値観が整理されたらもっと強力な組織になれるだろう。
その効果はすぐには実感できない。組織能力の向上とはそういうものだ。
5年後くらいに「思えばあれがターニングポイントだった」と実感する時が来るだろう。
たのしみだ。

※僕らはコンサルティング会社なので、この「経営方針を文書化する」という手法を、いつかはお客さんへのサービスにしたいと思っている。
だが、経営陣にかなりの根気と時間と議論スキルが必要なので、今のところはケンブリッジだからこそ出来たのかなぁ、という気もしている。サービスとして提供するにはもう一つ何かブレイクスルーが必要かな。

※Princple2019は別に社内秘ではないので、要望があればお見せできます。
ただ文章が独り歩きするのもアレなので、ネットに全文公開はまだしていません。そのうちするかもしれません。
僕は「世の中のスタンダードとは少し違う点もあるけれど、ゼロベースで考えたらこうなる、ということが書いてあるだけ」と思っているので、さっさと公開すればいいと思っていますが、少し慎重な意見もあり。

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