「DXを達成した企業」とは「デジタルを頑張らない企業」
以前見た統計に「DXを達成」した企業という項目があり、既にその段階に達している企業が何%かあることが示されていました。「DXを知らない」「未着手」「着手した」「成果をあげている」といった項目が並んだ頂点に「DXを達成」という項目がありました。大手の調査会社のものでしたが、なんともいえない違和感を覚えました。
そもそも、DXとは何かの定義が示されていないわけで、何を持ってこの段階を評価しているのかがよく分かりません。もし調査対象企業に、その会社の基準(あるいは調査に答えた担当者の基準)で評価してもらっていたならば、そもそもこの統計に意味がありません。もし、そんな調査報告を平気で公表していたとすれば、調査会社としての見識を疑ってしまいます。
DXの定義は一義ではありません。様々な定義が巷で使われています。そんな巷の解釈を整理すると次のチャートのようになるでしょう。
段階3:DX=ビジネスモデル、業務プロセス、企業文化の変革し競争上の優位性を確立すること
段階2:DX=デジタル前提のビジネスモデルで新たな収益の機会を生みだすこと(デジタル化:デジタライゼーション)
段階1:DX=アナログな業務の仕組みをデジタル化し効率化すること(デジタル化:デジタイゼーション)
段階0:DX=デジタルを誰もが日常で使うようになること
社員1万人ほどの製造会社の方から「DXについてわかりやすく解説して欲しい」という研修のご依頼を頂きました。ある情報サービス会社から転職されたという「DX推進担当役員」がこの研修の発案者でした。その方と話をしていて気がついたのは、DXについてのご自身の定義が曖昧なままで、たぶん、ご自身もそこのところをはっきりさせたかったのではないかと思います。その役員によくよく話しを聞けば、次のような本音が見えてきました。
「お金を掛けて、デジタルツールやサービスを入れているのに、社員はまともに使わない。これではもったいないので、そんな彼らにデジタルを使わせたい。それが自分たちのDXだ。」
つまり、上記で言う段階0をDXと捉えていたわけです。なにもこの解釈が間違っているわけではありません。段階3に至るにはこのステップを踏まなくてはなりませんから、広義には、これもまたDXという取り組みと言えるでしょう。しかし、それがゴールではないと言うことは、知っておく必要があります。残念ながら、ご相談者には、そのような認識はなかったようです。
経済産業省は、DXを次のように定義しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに業務プロセスや組織、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
私は、これはなかなかよくできた定義だと思っています。ただ、このようなナラティブな表現では少し分かりにくいので、次のように整理し直してみました。
- 手段:データとデジタル技術を活用して、
- 実践:顧客や社会のニーズを的確に捉え
- 目的:自社の競争優位を確立すること。
そのために、次の3つの変革を行う。
- 商材やビジネスモデル
- 業務の仕組み
- 企業の文化や風土
つまり、上記の第3段階の解釈です。ここで特に重要なのが、「企業の文化や風土」の変革です。これを噛み砕いて表現すれば、次のようになります。
「デジタルを使うことを頑張らない企業になっていること。デジタルを使うことが当然であり前提であると誰もが当たり前に考え、行動する日常が定着していること。」
「DXを達成」しているとは、「こういう企業に変わりました」ということではないでしょうか。
「商材やビジネスモデル」と「業務の仕組み」を変革するとは、このような「企業の文化や風土」が前提です。なぜなら、デジタル・テクノロジーの技術革新が急速に進み、世の中の常識は、この変化に大きく影響を受けています。例え、ある時点で「商材やビジネスモデル」と「業務の仕組み」の変革を成し遂げても、いつまでも同じでいいはずはありません。変わること、変えることが当然であり、これをデジタル前提に行うことを当然と考えて行動する「企業の文化や風土」なくては、競争力を維持することができないからです。
ある機械工具卸売商社のトラスコ中山株式会社は、経済産業省と東京証券取引所が選定する「デジタルトランスフォーメーション銘柄(以下、DX 銘柄)2023」の「DXプラチナ企業2023-2025」に選定されています。そのための取り組みを主導された方からお話を伺ったところ次のように話してくださいました。
「私たちはDXという言葉を使いません。デジタルを前提にビジネスを考えるのは当たり前で、いまさらDXなんて使う必要なんてありませんから。」
「デジタルを頑張らない企業」とは、こういう企業なのでしょう。まさに、「DXを達成」していると言える企業ではないかと思います。
いま自分たちが使っている「DX」は、どの段階のことなのでしょうか。それを自覚しておくべきでしょう。「DX」という同じ言葉を使っていても、異なる意味で使っていれば、お互いに理解し合えません。そんなことになれば、ゴールが共有できず、何をすべきかを合意できません。結果として、何も成果をあげることができないという状況に陥ってしまいます。
あなたの会社は「デジタルを頑張らない企業」になっているでしょうか。もし、そうでないとすれば、あなたの会社のDXは道半ばです。
SI事業者やITベンダーは、お客様を「デジタルを頑張らない企業」にすることにビジネスのチャンスを見出そうとしているでしょうか。既存のアナログ業務をデジタルに置き換えるだけの「なんちゃらDX(例えば、生産DX、販売DX、経理DXなど)」を「DXビジネス」などと言わないことです。それはとりもなおさず、「私たちはDXについて分かっていません」と宣言しているのと同じだからです。「なんちゃらDX」のような商材を売るなと言うことではありません。それを必要としている企業も多いし、その恩恵を受ける企業もあるでしょう。しかし、これはデジタル化であって、DXではないという自覚はITを生業とするのであれば、持っておくべきです。そして、お客様にさらなる先に導いてこそ、「DXビジネス」のチャンスが生まれてくるのだと思います。
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