オルタナティブ・ブログ > 『ビジネス2.0』の視点 >

ICT、クラウドコンピューティングをビジネスそして日本の力に!

通信事業者は「接続料依存」から脱却できるか? IoT時代の新たな収益モデル

»

英国の調査会社ジュニパーリサーチは2025年8月26日、セルラーIoT(モバイル通信を活用したIoT接続)の世界的な収益が2030年に300億ドル(約4.4兆円)を超えるとの見通しを発表しました。

Cellular IoT Connectivity Revenue to Exceed $30 Billion Globally in 2030

これは2025年の180億ドルから74%の大幅な増加となります。背景には、産業全般で進む自動化と効率化の需要拡大があります。

同社は、従来の「月額接続料モデル」に依存してきた通信事業者が、いかに新たな収益モデルを構築するかが成長の成否を分けると指摘しました。その中核となるのが「ネットワークAPI」です。APIによって企業は通信網を柔軟に利用し、利用量に応じた課金が可能になります。

今回は、セルラーIoTの市場成長の展望、APIが生む新たな収益モデル、事業者に求められる戦略的転換、そして今後の課題と展望について掘り下げていきます。

IoT市場拡大と通信事業者の収益機会

セルラーIoTは、製造業や物流、エネルギー、都市インフラなど幅広い分野で導入が進んでいます。たとえば工場の生産ライン監視や、スマートシティにおける交通制御、エネルギーメーターの遠隔管理などが典型的なユースケースです。これらの領域ではリアルタイム性や信頼性の高い通信が不可欠であり、Wi-FiやLPWAに比べてモバイル通信の強みが際立ちます。

ジュニパーリサーチによると、2030年までにこの需要が収益を大きく押し上げ、通信事業者の新たな柱となる可能性があります。ただし、従来の「SIMカードを販売して月額課金する」ビジネスモデルだけでは、IoTの多様なニーズに応えきれません。数百万台規模のデバイス接続や断続的通信を前提にした場合、柔軟かつ利用実態に即した料金体系が求められています。

ネットワークAPIが切り開く新たな収益モデル

ジュニパーリサーチが注目するのは「ネットワークAPI」の普及です。APIを介して通信事業者のネットワーク機能を外部に公開することで、企業は必要な時に必要なだけ接続や帯域を利用できます。これは「利用量課金」へのシフトを可能にし、通信事業者にとって新たな収益モデルとなります。

たとえば物流企業が配送ルートの混雑情報をリアルタイムに収集する場合、必要な通信量は時間帯や季節によって変動します。APIを通じた従量課金なら、過剰なコストを負担せずに最適な通信利用が可能となり、事業者はより高い利益率を実現できます。

さらに、6Gの到来を見据えると、ネットワークはソフトウェア定義化が進み、API経由での制御が標準化されていくと予想されます。これにより通信事業者は、従来の「接続料収入」に依存する構造から脱却し、IoT利用そのものを収益源にシフトできる契機となる可能性があります。

事業者に求められる標準化と利便性の確保

APIを活用した収益モデルを確立するには、利用者である企業にとっての利便性が欠かせません。ジュニパーリサーチは、開発者が容易にアクセスできるポータルを通じて標準化されたAPIを提供することを推奨しています。これにより、通信分野の専門知識が乏しい企業でも簡単にIoTアプリケーションを構築できるようになります。

現在、GSMA(世界携帯通信事業者協会)などが主導する「オープンゲートウェイ」構想では、世界の通信事業者が共通仕様のAPIを整備する取り組みが始まっています。これが実現すれば、グローバルに展開する製造業や物流業も、一貫した仕様でIoT接続を利用でき、普及が加速する可能性があります。

収益化に向けた課題と戦略的転換

セルラーIoT市場は拡大が見込まれる一方で、通信事業者にとっては収益化の難しさが残ります。デバイス1台あたりの通信量は少なく、従来型の回線契約モデルでは大規模導入の割に収益が伸び悩む傾向があります。この課題を克服するには、APIを活用したサービス連動型の料金設計や、エコシステム形成が求められます。

また、5G時代に繰り返された「過大な期待と投資の割に収益が伸びなかった」という失敗を繰り返さないために、事業者はサービス提供の在り方を再定義する必要があります。単に接続を提供するだけでなく、データ分析やセキュリティ、端末管理など付加価値を組み合わせることで、企業にとっての利便性を高め、差別化を図ることが重要となります。

今後の展望

セルラーIoTの市場は、2030年に向けて拡大の一途をたどるでしょう。その中心には「利用量に応じた課金」と「APIによる柔軟な接続管理」があります。こうした新しい収益モデルを取り入れることで、通信事業者は従来の制約を超えて、製造、物流、エネルギー、都市インフラといった幅広い産業と共に市場を成長させていく可能性があります。

今後は6Gの登場やソフトウェア定義ネットワークの普及により、通信そのものがより柔軟かつ高度に制御可能になります。その一方で、標準化の遅れや事業者間の競争が市場成長を阻害するリスクも残ります。

セルラーIoTの未来は、通信の枠を超え、社会全体のデジタル基盤を支える重要な位置づけにもなるでしょうか。

スクリーンショット 2025-09-07 10.37.41.png

Comment(0)