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AIが財務を変える:CFOが直近2年で注力すべき3つの領域

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ガートナーは2025年9月10日、「CFO & Finance Executive Conference」で、最新の「AI in Financeハイプ・サイクル」を発表しました。急速に進化するAIの波を前に、財務リーダーは膨大な選択肢に直面していますが、ガートナーはその中で特に注力すべき3つの領域を示しました。

生成AI、複合AI、そして責任あるAIです。これらはいずれも2年以内に主流化すると予測され、財務業務の効率性や精度、さらには信頼性を大きく変革する可能性を秘めています。

今回は、この3つの領域が財務部門にどのようなインパクトをもたらすのか、導入の課題や実務的な意義を掘り下げ、今後の展望を考えてみたいと思います。

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出典:ガートナー 2025.9

生成AIが財務業務を刷新する

生成AIは、これまでの会計・財務システムの限界を超え、データ収集からレポーティング、シナリオ分析までを一気通貫で支援する力を持っています。ChatGPTやMicrosoft Copilot、Google Geminiといった一般向けの普及が追い風となり、2024年にはわずか5%未満だったエンタープライズアプリへの組み込み率が、2025年には80%に達すると見込まれています。

財務部門にとって最大の関心は、膨大かつ複雑化するデータの取り扱いです。ベンダー各社は「エンタープライズ対応性」や「安全性」で差別化を図り、財務領域特有の精緻さに応える機能を競っています。今後2年以内に、多くの財務機能が生成AIによって変革を迫られる可能性は極めて高いでしょう。

複合AIによる高度な意思決定支援

複合AI(Composite AI)は、複数のAI技術を組み合わせて応用するアプローチであり、単一技術では対応できない課題を克服する手段として注目されています。機械学習や深層学習に加え、ルールベース推論や最適化技術を組み合わせることで、限定的なデータ環境でも高度な推論を実現可能にします。

財務のようにドメイン知識が重要な分野では、専門家の知見とAIの解析力を融合させることで、意思決定の精度を高められる点が魅力です。

一方、導入には課題もあります。モデルの統合運用(ModelOps)の複雑さ、セキュリティや倫理に関する懸念、複数技術を統合できる人材不足などがボトルネックとなり得ます。

それでも複合AIは、生成AIや意思決定インテリジェンスの基盤を支える技術として、財務部門に新たな競争力をもたらすことが期待されています。

責任あるAIが信頼性を左右する

AI活用の広がりとともに、倫理性や透明性への懸念が強まっています。責任あるAI(Responsible AI, RAI)は、その解決策として注目される枠組みです。偏見や差別の排除、説明可能性の確保、プライバシー保護、規制遵守など、多面的な要素を包含しています。財務領域では特に、監査可能性やレポートの正確性といった信頼性の担保が重要です。

欧州のAI法(AI Act)をはじめ、規制当局による要件は一層厳格化しており、ガバナンス体制の整備は避けられません。RAIは現時点では過小評価されがちですが、長期的なAI活用の成功を左右する基盤であり、CFOにとっては短期的な効率性と同等か、それ以上に重視すべきテーマになりつつあります。

今後の展望

財務領域におけるAI活用は、効率化やコスト削減といった即効的な成果だけでなく、リスク管理や透明性確保といった中長期的課題に直結しています。生成AIは短期間で実務の現場に浸透し、複合AIは多面的な意思決定を支える基盤として進展していくことが期待されます。そして責任あるAIは、規制強化や社会的要請を背景に、企業の信頼を維持するため不可欠な条件となっていくことが想定されます。

今後CFOに求められるのは、これら3つの技術的潮流を単独で捉えるのではなく、統合的な戦略として組み込み、競争優位と持続的成長を同時に実現する視点です。AI導入は技術投資ではなく、財務部門のガバナンス改革そのものに直結しているのです。企業は「効率性と倫理性」を両立させる仕組みを確立し、AIによる財務変革を着実に実行していくことが求められています。

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