抽象的思考が抽象的すぎてよく判らない人へ──1枚のポスターで鍛える「抽象的思考」入門

このところ、「抽象的思考が大事だ」とよく言われます。
しかし、この言葉そのものが抽象的で、
何を指しているのかイマイチ掴めない人は多いのではないでしょうか。
・難しい理論?
・難解な哲学?
・クリエイターだけの特権?
いえいえ、
抽象思考は "共通点を抜き出して、使える形にまとめる力" のことで、
これは特別な才能ではなく「誰でも鍛えられるスキル」なのです。
そこで今回は、抽象的思考とは何か、
そしてどうすれば鍛えられるのかを、
"1枚のポスター" を題材にして解説します。
■ 1. 抽象的思考とは「違う話の中から同じ構造を見抜く力」
いきなり難しく聞こえるかもしれませんが、抽象思考の意味はシンプルです。
抽象的思考とは、
事象 → パターン化 → 別の場面でも使える形にする力 です。
つまり、
・見えるもの(具体)
・そこから読み取れる法則(抽象)
・そして応用(他分野へ転用)
この3つをつなぐ思考のことです。
たとえば、<事象>として
ある人が「電車が延着したから」と言い訳をし、
別の人は「急な来客があった」と言い訳する場合、
これを<パターン化>すると、
人は責任回避をする場合、外部要因を利用する。
ということが判ります。
そこで、一例ですが、これを<応用>すると次のようになります。
言い訳に外部要因を使うのは、
「ミスを正直に報告すると不利益がある」と感じている人が多いためだと判断。
ミスがあっても正確に報告すれば罰則や処分はしないといったルールを作成。
このようなルールを作れば、
その組織の問題点を正確に素早く把握することが出来るようになります。
では、もうひとつ例をあげましょう。
<事象>として、
・クリーニング代の値上げ
・いつもの弁当店がごはんの量を減らした
・同僚と安い立ち飲み屋へ行くことが多くなった
の3点があったとします。
これを<パターン化>すると、
物価が上がっている、あるいはお金の価値が下がっている
ということになります。
そこでこれを<応用>すると、
物価が上がるということは、生活コストが上がるということなので、
初任給をあげれば、よい新卒の社員が採用できる
住宅手当を拡充すれば、社員の定着率を上げることが出来る
という人事施策をすることが出来ます。
■ 2. 抽象化はスピードが勝負
さて、以上のように抽象的思考は特別なものではありません。
こうした例は、誰でも指摘されれば理解できることでしょう。
しかし ポイントは、
瞬時にパターン化し、裏にある構造まで見抜けるかどうか──
これに掛かっています。
このスピードが、
"抽象的思考ができる人になるかどうか"の分岐点となります。
もし、このスピード感をまだ身に着けていないのであれば、
日々の訓練が必要となってくるでしょう。
そこで、その訓練方法を以下に紹介します。
■ 3. 抽象的思考を鍛える最強の方法
「1枚のポスターを10階層で読む ポスター多層分析法」
では、抽象的思考を鍛える方法を紹介します。
その方法とは、最も簡単で、かつ効果が高い「ポスター多層分析法」です。
駅や街で見かけた "たった1枚のポスター" を、
次の 10の階層 で読み解くことにより、
自然に抽象的思考が身に着いて行きます。
■ 10の階層(抽象的思考の階段)
◆階層1:表面(物理情報)
まずは、ただ「見る」ことです。
色・文字・配置・写真などを確認します。
◆階層2:内容(事実情報)
続いて何が書かれているか、ポスターの内容を理解します。
そして、このポスターの目的は何かを把握します。
◆階層3:構造(デザインの意図)
ポスターで使われているフォント、レイアウト、視線誘導を確認します。
そして、このポスターのデザインは「なにをどう見せたいか」を探ります。
そして、同時に、これまでに見たことがある類似デザインを思い浮かべます。
◆階層4:美学(配色・バランス)
ポスターはどこを目立たせ、どこを控えめにしているかを見極めます。
そして、なぜそのようにしているかを追求します。
こちらも同じく、類似したポスターを思い浮かべます。
◆階層5:文脈(社会的背景)
ポスターは、なぜ今、作られたのかを検証します。
・時代背景
・流行、トレンド
・歴史的な価値
などを探ります。
◆階層6:機能(訴求力・目的)
ポスターは、誰に何をさせたいのかを分析します。
また、どのような行動の変化をもたらす目的が隠されているかを見極めます。
こちらも同じく、過去に類似したものがなかったかを振り返ります。
◆階層7:未来(パターンの行き先)
このポスターの内容は、将来どうなるのかをイメージします。
・成功or失敗
・競合はどう動くのか
・いつまで訴求力は続くのか
などを検証、考察します。
◆階層8:企画者(人物像)
このポスターの企画者に思いを馳せます。
・性別、年齢、経歴
・家族構成
・発注者との関係性
・ひとりで企画したか、グループで企画したか
などをイメージします。
また、同じく、自分の身の回りで
似たような事例や人物はいないか検証します。
◆階層9:デザイナー(人物像)
このポスターのデザイナーの人物像に思いを馳せます。
・性別、年齢、経歴
・家族構成
・企画者との関係性
・ひとりでデザインしたか、グループでデザインしたか
などをイメージします。
また、同じく、自分の身の回りで
似たような事例や人物はいないか検証します。
◆階層10:図解でイメージする
階層1~9で得たイメージを図解で捉えてみます。
● ベン図
複数の集まり(集合)の重なりや関係性を、丸の重なりで表す図。
● ツリー図
ひとつの起点から枝分かれしていく構造を、木のように階層で示す図。
● フロー図(フローチャート)
物事の手順や流れを、矢印と記号で順番に示す図。
などを用いて考察しましょう。
そうすれば、言葉ではなく直感的に物事を理解出来るようになります。
以上のような方法で検証すると、
なにげない1枚のポスターでも、"情報の宝庫" に変わります。
より簡単にいえば、
1枚のポスターからさまざまに想像を働かせて、
隠された意味や目的などを探求することです。
と同時に、類似したものを思い起こし、
比較検討する作業も忘れてはいけません。
最初は、ゆっくり順番にやれば大丈夫です。
慣れてくると、この10階層が 同時に見えるようになります。
そうすれば、あなたは「抽象的思考が強い人」となるでしょう。
また、今回はトレーニングの題材としてポスターを取り上げましたが、
・商品パッケージ
・店舗のPOP
・企業のロゴ
・Webサイト
・新聞の広告
・YouTube動画
・SNSの投稿
・写真
などでも この10階層 で読み解くことにより、
抽象的思考を鍛えることが出来ます。
■4. 抽象的思考が強くなると何が変わる?
さて、次に、抽象的思考が強くなると、
どのような利点があるのかをあげておきます。
●共通点が一瞬で見抜ける
違う話でも「構造が同じ」と気づく。
●判断が速くなる
事象 → パターン → 未来予測まで一気に飛べる。
●議論に強くなる
感情や細部に引きずられず、本質へ移動できる。
●創造性が上がる
1つの事象から"複数の価値"を引き出せる。
■5. 抽象的思考は「センス」ではなく「技術」
最後に、これだけは強調しておきたいと思います。
抽象的思考は、持って生まれた才能だけではない。
物事を深く観察するだけで鍛えられる"技術"だ!
ということです。
そして、 視点が増えるほど、"理解の速度"が上がります。
・社会の流れ
・仕事の構造
・人間の心理
・流行の行き先
・デザインの意図
・ビジネスモデルの変化
すべてが 「別々の話」ではなく、
1つの大きな構造として繋がってくるはずです。
それこそが、抽象的思考の本当の面白さといえるでしょう。
ぜひ、皆さんも楽しみながら身に着けて下さい。