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世界のクラウド市場、AI需要がけん引

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調査会社Canalysは2025年9月9日、「世界のクラウドインフラ市場に関する調査」を発表しました。

Global cloud infrastructure spending rose 22% in Q2 2025

Canalysによると、2025年第2四半期(4~6月)のクラウドインフラサービスへの支出は953億ドルに達し、前年同期比で22%増加しました。前年同期比で20%を超える成長は4四半期連続となり、AI利用の拡大、レガシーシステム移行の再加速、クラウドネイティブ企業による規模拡大が需要を押し上げています。

AWS、Microsoft Azure、Google Cloudの3社は引き続き上位を維持し、世界市場の65%を占めました。AzureとGoogle Cloudは30%超の高成長を遂げ、クラウド市場全体の牽引役となっています。一方、AWSは17%増と堅調ながら成長率はやや鈍化しましたが、ドルベースの増加額では依然として他社を上回りました。

クラウド各社はAI対応に向けたインフラ投資を強化しており、年間数十億ドル規模の設備投資を発表しています。顧客のAI需要が可用性や利便性から、柔軟性や最適なモデル選択へとシフトする中で、クラウド市場は新たな競争段階を迎えつつあります。

今回は、市場の成長要因、主要3社の動向、AI投資の拡大、そして今後の展望について取り上げたいと思います。

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出典:Canalys 2025.9

市場拡大の背景:AIとレガシー移行が推進力

世界のクラウド市場は、AIワークロードの急増を背景に拡大を続けています。生成AIの普及は企業に新たな計算需要を生み出し、クラウド利用を押し上げています。同時に、従来の基幹システムをクラウドへ移行する動きも再び勢いを増しており、クラウドネイティブ企業によるアプリケーション展開の拡大とあわせて、需要が高まっています。

Canalysのアナリストは「AIサービスに対する顧客需要は、可用性や使いやすさから、柔軟性や用途に応じたモデル選択へと進化している」と指摘します。実際、企業は業務ごとに異なるAIモデルを使い分けるマルチモデル戦略を重視し始めており、パフォーマンスとコストのバランスを最適化する動きが広がっています。

こうした変化に対応するため、AWSの「Bedrock」、Microsoftの「Azure AI Foundry」、Googleの「Vertex AI」はそれぞれ独自モデルと外部モデルを組み合わせ、推論能力から低遅延応答まで幅広い機能を提供しています。AIモデルの選択肢を拡大することで、より多様な産業分野での利用が進んでいます。

AWS:首位維持も供給制約が成長を抑制

AWSは世界市場の32%を占め、953億ドルの市場の中で依然として最大手の地位を確保しました。2025年第2四半期の成長率は前年同期比17%で、2024年第1四半期以降おおむね安定した水準を維持しています。受注残高は6月末時点で1,950億ドルに達し、前年同期比25%増と需要の底堅さを示しています。

一方で課題も顕在化しています。電力や半導体の供給不足が計算能力の拡張を制限し、成長の上振れを阻んでいます。こうした制約を克服するため、AWSはAI向けの新サービス「Amazon Bedrock AgentCore」を投入し、AWS Marketplaceに800以上のエージェントやツールを揃えました。さらに、AnthropicのClaude Opus 4.1やOpenAIのGPT-ossモデルを統合し、エンタープライズ利用を拡大しています。

地理的にも、米国ノースカロライナ州、ペンシルベニア州、オーストラリアに数十億ドル規模の投資を行い、データセンター能力の強化を進めています。

Microsoft Azure:AIとクラウドネイティブで急成長

Azureは市場シェア22%で世界2位ですが、前年同期比39%と主要3社の中で最も高い成長率を示しました。成長の背景には、従来型ワークロードのAzure移行、クラウドネイティブ企業のアプリ展開、そしてAIワークフローの導入が挙げられています。

AI領域では「Azure AI Foundry」が強みを発揮しています。OpenAI、DeepSeek、Meta、xAIのGrokなど多様なモデルを取り込み、さらにBlack Forest LabsやMistral AIの提供も予定されています。2025年5月には「Azure AI Foundry Agent」サービスを正式提供し、1万4,000社以上が利用。8月にはOpenAIの最新基幹モデル「GPT-5」を全面展開しています。

インフラ面でも攻勢を強めています。6大陸に新データセンターを開設し、70以上の地域で400拠点を超える施設を展開しました。AIとクラウドの両面で積極的な投資を続けるAzureは、シェア拡大に向けた存在感を高めています。

Google Cloud:大型契約が成長を牽引

Google Cloudは市場シェア11%を確保し、前年同期比34%の成長を遂げました。契約規模の拡大が目立ち、2億5,000万ドルを超える契約件数は前年の2倍に増加。2025年前半に締結された10億ドル規模の契約は、前年通年の水準に達しました。受注残高も6月末時点で1,082億ドルと拡大しています。

こうした需要増に対応するため、Googleは2025年の設備投資を850億ドルへ増額しました。AI分野では「Gemini 2.5」シリーズを提供開始し、最速かつ最もコスト効率の高いモデルを売りにしています。Geminiは月間4億5,000万人以上が利用し、四半期ごとに日次リクエストが50%以上増加するなど急成長しています。

さらに、OpenAIのクラウド供給ネットワークに参加する可能性も報じられており、学習・推論需要の急増に対応する体制づくりを進めています。大規模契約の獲得力とAIプラットフォームの成長を背景に、Google Cloudは着実にシェアを拡大しています。

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出典:Canalys 2025.9

今後の展望:AI競争と供給制約への対応

世界のクラウド市場は、AI需要という新たな成長エンジンを得て、拡大を続けています。一方、課題も顕在化しています。電力や半導体リソースの制約は、計算能力拡張の制限要因となり、各社の投資判断に影響を与えています。特に日本や欧州でもデータセンター電力不足が深刻化しており、インフラ拡張には持続可能性と効率性の両立が求められています。

競争環境では「協調的競争(コーペティション)」が顕著になっています。各社はモデル開発で競い合う一方、計算能力や配信ネットワークでは協力し、急増するAI需要を捌こうとしています。これは競争にとどまらず、業界全体でエコシステムを構築する動きも出ています。

今後は、AIモデル選択の柔軟性やオープンソースAIの普及が市場の焦点の一つとなり、MetaやDeepSeekに続き、OpenAIもモデルの重みを公開する動きを見せており、AIの透明性と相互運用性が一層重視されることが予想されます。

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