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竹内さんの〈顧客を大事にする姿勢-「PCをバッグから出しただけで注意するレストラン」と「お茶のサービスで心まで満たされるカフェ」〉と、岩永さんの〈「どこでもPCを使う」はどうかと思うけれど「どこでならPCを使う」ってのは難しい線引き〉を読んだ。

竹内さんの趣旨は、PC禁止の是非ではなく、店のポリシーを知らずに来店した客に居心地の悪い思いをさせずに伝える方法があるのでは、ということのようだ。このような場合の対応について、以前に〈人を動かすものの言い方〉を書いたのでそちらを参照していただければと思う。

当エントリはオルタナティブな見方で自分が考えたことを書いてみる。

PC使用禁止に関する自分の立場

私はノートパソコンの黎明期からのモバイルユーザだ。ノートパソコン以前にラップトップパソコンと呼ばれていた時代からEPSON初のラップトップPC-286Lを持って出張したり、IBM ThinkPad 230Csを携帯して海外のホテルからモデムでネットに接続したりということをやっていた。当時の先端的なモバイルユーザは、自らをロードウォリアーと呼んでいた。パソコンを持ち歩くことは、カッコイイことだったのだ。

今の私が仕事をする場所は、都内の拠点、お客様先、自宅の3カ所が多い。モバイルPCとしては大型な14インチ液晶のノートPCを、毎日必ず持ち歩いている。テザリング可能なスマートフォンは、必須の商売道具だ。

都内の拠点は広いテーブル、電源、無線LANを使える。まとまった時間が空いた時はここへ一時退避することにしているので、カフェなどでPCを長時間使うことはない。

ロードウォリアーの生き残りとして、以前から電源が使える場所についての情報は気にかけている。PCを使えないファミレスは、少し前にFacebookで話題になった。今回のファミレスがそれと同じチェーンであるならば、そのチェーンの都内の一部店舗でPCの利用がお断りになっているのは事実だ。

客が店をつくる

「客が店をつくる」という言葉が、飲食業界にある。その店に集まる客の質が、店の雰囲気や居心地の良さを決めて行くという意味だ。

このファミレスが開店当初からPC禁止であったとは思えない。どこかの時点でポリシーが変わったのだろう。では、その理由は何だろうか。

PCを使う客が長居をして回転率が悪い、PCを使う客が目障りと言うクレームが他の客からあった等の理由が考えられる。また、ファミレスやファーストフードは店内の勉強が禁止になっているところは多い。ノートPCが大学生の文房具になるほど普及した現在、勉強禁止とPC使用禁止が同義語となっている可能性も考えられる。

これらは私の推測に過ぎない。いずれにしても、どこかの時点で目に余るレベルに達したのだろう。テレビのCMではないが、「やりすぎました」だ。その対策としてPC禁止のポリシーが明確化されたと考えられる。

公共の場所で各個人が自分の利益だけを考えて好き勝手なことをした結果として、PC利用者全員が不便になる「共有地の悲劇」はなかっただろうかと思うのだ。

ちなみに寛容なルノアールにおいても限度はある。客がマナーを守れなければ、ルールはエスカレートしていく。(「おまえらがモンハンばっかりプレイするからルノアール秋葉原店がゲーム禁止になる」参照。)

PCを使う店、使わない店

竹内さんのエントリに「食事をするための場所でPCを取り出す人は、どの程度のランクの店まで出すんでしょう」というコメントが付いていた。

どの店ならPCを使うのか、これは興味深い問いだ。

私自身、ドトール、スターバックス、タリーズなどのカフェでは、何のためらいもなくPCを使う。ハンバーガーチェーンでも同様だ。一方、ラーメン屋やカレーチェーンでは使わない。行く機会があまりないが、高級レストランではPCを使わないだろう。

この違いは何だろうか。今まで考えてみたことがなかったが、考えてみるとおもしろい。

ラーメン屋やカレーチェーンで使わないのは、カウンター席が多いとか、テーブルが狭いとか、汁物はPCが危険とか、食べ終わったらすぐ店を出るのが暗黙の了解とか、の理由がある。高級レストランで使わないのは、その行為が店の雰囲気に合わないと自分で判断するからだ。スペースなどの物理的な理由以外に、使う・使わないの線引きが自分の中でどこかにある。

では、自分の中でファミレスはどんな位置づけなのか。

私がファミレスを利用するのは、仕事の途中で誰かと食事をする時くらいだ。その場合は食事をしながら仕事の打ち合わせを兼ねることが多い。PCを使う時もあれば使わない時もある。PC禁止のファミレスだと、ちょっと困るかもしれない。

岩永さんは「落ち着いてコーヒーを飲みたいのに横でカチャカチャとキーボードと格闘している人がいると、正直嫌になる」と書いている。正直な人だ。私は新幹線で隣の席にキーボードを叩く人がいると、どうも落ち着かないことがある。誰が正しいとかではなく、あることについて異なる思いを持つ人がいるという話だ。一人の人の中でも、その日の体調や気分によって感じ方が変わることがあるだろう。

IT界隈にいるとノートPCを使うのは当たり前のことのように思ってしまうが、世の中の大半から見れば少数派にすぎない。隣のテーブルでキーボードを叩いている行為に対して、カレー屋でタバコを吸うことや、口を開けてクチャクチャ音をさせて食べることと、同じレベルの嫌悪を感じる人がいるかもしれない可能性について、考えてみることは無駄ではないだろう。

このあたりを突き詰めていくと自分自身の矛盾に行き着いてしまうのが、この問題の難しいところだ。

常識はゆっくり変わる

常識やマナーと言ったものは、長いスパンで見ると常に変わっている。携帯電話が一部の金持ち利用者のものであった頃は、電車の中で通話しない等のルールはなかった。普及率が一定数を超えた後に、車内で使わないことがマナーとして確立された。

かつてノートPCを携帯して出先で使うことは、”ナウなヤングエグゼクティブ”(死語・笑)の象徴だった。IT界隈の40~50代の年齢層の方は、多かれ少なかれこのイメージが残っているのではないか。

少し前にTwitterのTLで話題になったのだが、人前でノートPCを使うのは今や”ダサイ”ことなんだそうである。外で仕事するならiPadは”オシャレ”だが、ノートPCを拡げてキーを叩いているのは「仕事に追われている人」のイメージだとか。

私自身、この認識のギャップに驚いた。世の中の常識は、かくも変わって行くのだと思った。

公共の場所でノートPCを使うことに、そろそろマナーが必要になってきた可能性はないだろうか。食事をする場所でノートPCを使わないことが、これからの都会のルールになっていくのかもしれない。

外でノートパソコンを使うのが”カッコ悪い”ことであるとしたら、自分の行動は何か変わるだろうか。

窮屈になっていく都会暮らし

都内のような人口密集地域では、皆がルールを守らないとトラブルの原因になる。逆にルールを守らない人がいるために、さらにルールが増えていく。例外がないようにしようとすれば、余計にルールが複雑になる。

竹内さんの地元には、PC禁止ファミレスはないのだろう。それで問題なく暮らしていけるなら、余計なルールはない方が望ましい。

さて、PC禁止のファミレスでiPadなら使っていいのだろうか。

正否を明確にしようとすれば、ルールが増えることになる。禁止事項が並べられた紙を見ながら食事することが、楽しいとは思えない。

グレーな部分をあえて白黒付けずに残しておいて、お互いが共有地の草を食べ尽くさないようにするのが、日本の古来の姿と思うのだが、分厚い契約書で細部まで規定する欧米型の文化に日本もなったのだろうか。

そして、”トーキョー”はますます暮らしにくくなっていく。

テクネコ

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加藤和幸

加藤和幸

株式会社テクネコ 代表取締役。
ITを売る側と買う側の両方の経験を活かして、CRMとCMSのコンサルティングを中心に、お客様の”困った”を解決します。

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