« 2009年7月7日

2009年7月12日の投稿

2009年7月19日 »

ソフトウェア開発のオフショアリングが最も積極的に、かつ効率的に行われているのは、アメリカからインドへのオフショアリングである。インドのソフトウェア開発技術者は基本的に英語で教育を受けて、英語で仕事をやっているので、アメリカからのオフショアリング先としては最適であった。これに対して、日本のソフトウェア開発のオフショアリングは、中国が中心である。インドと比較して中国の方が日本語を話せる人の比率が高いことや、中国が積極的に日本のオフショアリングを受け入れようとしてきたことが、大きな理由だと推測される。もちろん、距離が近く、行き来が容易ということが大きいのではないかと思う。

ところが、アメリカからインドへのオフショアリングと日本から中国へのオフショアリングには、単に言語が近いとか距離が近いとか言う違い以外の決定的な大きな違いがある。それは、オフショアリングのプロセスである。

ソフトウェア開発のプロセスは常に変化を続けていて、通常は会社ごとに違っているが、アメリカでは会社間のエンジニアの行き来によってプロセスや開発で使われる用語が次第に統一されてきた。たとえば、ソフトウェアのリリースに先立ってテスト用に提供するものは、近年「ベータ」と呼ばれているが、以前は「ベータ」という用語を使っている会社は限られていた。これが次第に広く使われるようになって、10年ほど前に一般用語として通用するようになっていた。「ベータ」は社外にも通用する用語であるので、ここに例としてあげたが、内部で使われる用語であっても、他の会社に行っても通用することが多い。

開発のプロセス「流れ」も同様で、どこの会社に行ってもだいたい同じような感じでソフトウェアが作られているのである。そのために、インドのオフショアリングは、アメリカのソフトウェア開発のプロセスの一部を置き換える形で発展してきた。インドに限らず、アメリカからオフショアリングを受けている国々では、アメリカのソフトウェア開発プロセスで統一されて、効率化されている。

一方日本から中国へのオフショアリングは、日本の各社独自のプロセスを中国でオフショアリングを受ける会社に持ち込むことで行われている。すなわち、プロセスの定義をはじめとして、用語の統一などの準備作業を実施し、さらにオフショア先の人たちにすべてを教育しなければならない。そのため比較的大規模なオフショア開発でしか、この方法をとることは難しい。また、一度決めたオフショア先を変更するコストは莫大になる。

今後クラウドコンピューティングが進んでいくとすると、日本のソフトウェアを開発している会社の競争相手は、ダイレクトに海外のソフトウェア開発会社となる可能性が高い。たとえ、プライベートクラウドであっても、システムが仮想化することによって、アプリケーション開発担当者が、マシンのある「オンサイト」にいく必要性はほとんどなくなるからである。もう、(日本語への翻訳を除けば)日本にいる日本人のエンジニアが開発する必然性はない。

こういった世界の変化に対応し、世界と競争していくためには、世界標準の開発プロセスに対応した開発を実施し、その開発プロセスを理解した、あらためて独自プロセスを教育する必要のないエンジニアを活用していかなければならないであろう。アメリカでソフトウェア開発を学び、アメリカから戻ったリーダーたちがたくさんいるインドは、現在この条件に最も合った場所である。

インドでのオフショア開発というと日本側のエンジニアの「英語」によるコミュニケーションが問題になる。しかし世界標準の開発プロセスに基づいた開発を実現できないならば、日本のソフトウェアが生き残る道は、携帯電話と同様のシステム的な鎖国、そしてガラパゴス化の道しかないように思える。これまで、ソフトウェア開発において、英語は Nice to Have であった。しかし、英語が Must Have の時代がもう待ったなしで来ている。「英語」が難しいと言っている状況ではない。

リアルコムでは、2003年に中国でのオフショアリングを始めた。中国の会社といっても、アメリカからのオフショアリング中心の会社であったので、オフショアリングに関係するコミュニケーションはすべて英語ということになった。英語を使うことに関して、最初は抵抗がなかったわけではないが、そのベースがあったことで、昨年アメリカおよびインドに拠点があった AskMe 社を買収する決断ができた。リアルコム以前の経験からみても、英語に関しては、「やればできる」のである。英語をできない理由にしている人をさっさとプロジェクトからはずして、まずはやってみることをお勧めする。

Katsushi Takeuchi

« 2009年7月7日

2009年7月12日の投稿

2009年7月19日 »

» このブログのTOP

» オルタナティブ・ブログTOP



プロフィール

竹内 克志

竹内 克志

電子機器のハードウェアとソフトウェアの融合を模索中。
日本およびアメリカで一貫してソフトウェアの製品開発を担当。ソフトウェアに限らずテクノロジー全般に興味を持つ。

詳しいプロフィール

Special

- PR -
カレンダー
2013年3月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            
takeuchi
Special オルタナトーク

仕事が嫌になった時、どう立ち直ったのですか?

カテゴリー
エンタープライズ・ピックアップ

news094.gif 顧客に“ワォ!”という体験を提供――ザッポスに学ぶ企業文化の確立
単に商品を届けるだけでなく、サービスを通じて“ワォ!”という驚きの体験を届けることを目指している。ザッポスのWebサイトには、顧客からの感謝と賞賛があふれており、きわめて高い顧客満足を実現している。(12/17)

news094.gif ちょっとした対話が成長を助ける――上司と部下が話すとき互いに学び合う
上司や先輩の背中を見て、仕事を学べ――。このように言う人がいるが、実際どのようにして学べばいいのだろうか。よく分からない人に、3つの事例を紹介しよう。(12/11)

news094.gif 悩んだときの、自己啓発書の触れ方
「自己啓発書は説教臭いから嫌い」という人もいるだろう。でも読めば元気になる本もあるので、一方的に否定するのはもったいない。今回は、悩んだときの自己啓発書の読み方を紹介しよう。(12/5)

news094.gif 考えるべきは得意なものは何かではなく、お客さまが高く評価するものは何か
自社製品と競合製品を比べた場合、自社製品が選ばれるのは価格や機能が主ではない。いかに顧客の価値を向上させることができるかが重要なポイントになる。(11/21)

news094.gif なんて素敵にフェイスブック
夏から秋にかけて行った「誠 ビジネスショートショート大賞」。吉岡編集長賞を受賞した作品が、山口陽平(応募時ペンネーム:修治)さんの「なんて素敵にフェイスブック」です。平安時代、塀に文章を書くことで交流していた貴族。「塀(へい)に嘯(うそぶ)く」ところから、それを「フェイスブック」と呼んだとか。(11/16)

news094.gif 部下を叱る2つのポイント
叱るのは難しい。上司だって人間だ、言いづらいことを言うのには勇気がいるもの。役割だと割り切り、叱ってはみたものの、部下がむっとしたら自分も嫌な気分になる。そんな時に気をつけたいポイントが2つある。(11/14)

news094.gif 第6回 幸せの創造こそ、ビジネスの使命
会社は何のために存在するのでしょうか。私の考えはシンプルです。人間のすべての営みは、幸せになるためのものです――。2012年11月発売予定の斉藤徹氏の新著「BE ソーシャル!」から、「はじめに」および、第1章「そして世界は透明になった」を6回に分けてお送りする。(11/8)

オルタナティブ・ブログは、専門スタッフにより、企画・構成されています。入力頂いた内容は、アイティメディアの他、オルタナティブ・ブログ、及び本記事執筆会社に提供されます。


サイトマップ | 利用規約 | プライバシーポリシー | 広告案内 | お問い合わせ