栗原潔のテクノロジー時評Ver2:ITmediaオルタナティブ・ブログ (RSS) 栗原潔のテクノロジー時評Ver2

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« 2007年9月26日

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Amazonに注文した初音ミクがなかなか届きません><。まあ、どうせ今は仕事が忙しく、作品を作るヒマもないと思いますので気長に待つことにいたします。

さて、初音ミクの登場により、私に限らずアマチュアのDTMer(こんな言葉あるのかな?)にとって、人に聴かせられる(人が楽しんで聴いてくれる)作品を作れる可能性が大きく増しました。私的には、オリジナルを作ってニコニコにアップするのもよいですが、カバー曲を歌わせるのもよいかなーと思っています。カバー曲の場合は、権利処理が必要ですね。

ということで、他人の曲を自分で演奏、あるいは、ミクに歌わせたコンテンツをネット上で合法的に配信する方法を模索しています。私が実際にサイトを立ち上げるのを同時進行的にこのブログで紹介していこうと思います。なお、10月は非常に忙しいので更新が滞る可能性があります。

大前提ですが、このお話しは、JASRAC管理曲を自分で演奏した(含む、ミクに歌わせる)コンテンツの配信を対象としています。CD音源の使用はJASRACではなく、各レコード会社の管轄であり、個別に許諾が必要になりますので、個人レベルでは全く現実的とは言えないでしょう(CDのサンプリングを使う場合も同様です)。一方、レコード会社の音源を使わず、曲と詞を使うだけであれば、JASRACに規定の利用料さえ払えば合法的に配信できます。JASRACというと目の敵にする人がいますが、現在のJASRACのオペレーションが妥当・公正なものであるかという議論はさておき、JASRACのような著作権管理団体は何らかの形で絶対必要です。

さて、一番簡単な方法は、Yahoo!ビデオキャストのようなサービス・プロバイダーとしてJASRACと既に利用料支払いの契約を結んでいるサイトに投稿することでしょう。利用料はYahoo!からJASRACに支払われますので、ユーザーとしては実質的に無料で合法的に配信できることになります(ユーザーがYahoo!を使って広告を見てあげていることの見返りということもできます)。

ただし、ここでは、外国曲が使えないという制限があります(この理由については後述)。自分的にはミクちゃんにジャズを歌わせるとどうなるかを是非やってみたいので、ちょっとこの制限はキビシイです。ということで、自分でサイトを立ち上げて、JASRACの許諾をもらって配信するということにしました。

このあたりの手続きについては、JASRACのサイトの「ユーザーの皆様」のページに載ってますが、具体的な話は次回にします。

(続く)

栗原 潔

Copyrightという言葉からもわかるように著作権制度の根本は複製をコントロールするところにあります。そして、何回も書いているように視聴行為そのものはコントロールの対象ではないというのが、少なくとも現在までの考え方です。

コンピュータが直接関係ないフィジカルな世界では(コンピュータも物理法則にしたがって動いているのではありますが)、視聴と複製は明確に区別できます。本の立ち読みは視聴ですから、著作権法ではコントロールできません。一方、本をデジカメで写したりたり、コピー機でコピーしたり、さらには、手書きでメモすれば複製行為となるので著作権が利いてきます。(私的複製だからOKだとか、本屋が店舗の管理者としてコントロールできるのではという話もありますが、今の議論とは関係ありません。また、本屋の本は合法的に売られているのだから、違法コンテンツとは別ではという話も全然関係ありません。ここでの議論は、非デジタル・コンテンツでは視聴と複製が明確に区別できるというお話しです。)

一方、言うまでもなく、コンピュータの世界では、視聴と複製の区別は必ずしも明確ではありません。デジタル・コンテンツを見たり聴いたりする際には必ず内部的にコピー処理が行われています。著作権法では、複製を「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい(後略)」と定義していますので、これをそのまま適用すると、ストリーミング再生時にキャッシュが作られるのも著作権法上の複製ということになってしまいます。

ついでに言えば、画面表示のためにVRAMにデータを書き込むのも複製ですし、プロセッサのL2キャッシュからL1キャッシュにステージングするのも複製になってしまいます。さらには、ルーター等のネットワーク機器の中でも複製は行われています。

なお、プログラムの著作物については、著作権法47条の2第1項において「電子計算機において利用するために必要と認められる限度において」複製ができるとされていますが、デジタル・コンテンツについてはこのような規定はありません。

解釈論あるいは法改正で揮発性メモリへの一時的複製は複製としないという対応をすることも考えられますが、そうなるとPocket PCのように電源を切ってもフラッシュメモリーでメモリ内容を維持する場合はどうするのだとか、ディスク上のスワップファイルに書き込んだ時点でアウトになるのかと考え出すと切りがありません。

さらに考えるべき課題として、サーチエンジンのキャッシュがあります。これは前から気になっていましたが、サーチエンジンの「キャッシュ」はいわゆる一時的保管場所という従来の意味のキャッシュとは違いますよね。元のページがなくなっても残ってるくらいですから。本来なら「アーカイブ」とでも呼ぶべきでしょう。サーチエンジンの「キャッシュ」については法的な対応が予定されているそうなので、コンピュータ内の「キャッシュ」についても早く何とかしてほしいものです。

このようなお話しは、当然、今までも議論になってきています。たとえば、「著作権法概説」(田村善之)のp118-p120などです。田村先生は、上記の著作権法の「複製」の定義規程に関して、

定義規程とは法の趣旨を実現する手段に過ぎず、法の趣旨を離れて定義規程だけが一人歩きすることは慎むべきである。特に立法当時、予想されていなかった事態に関しては、むしろ法の趣旨に遡って解釈すべきであるといえよう。

と書かれており、上記に書いたような視聴に伴うコンピュータ内のコピー処理は著作権法上の複製には該当しないと解すべきであろうと結論付けられています。

私的にも、是非、この線で法改正してもらいたいものだと思います。

栗原 潔

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栗原 潔

栗原 潔

株式会社テックバイザージェイピー(TVJP) 代表取締役 弁理士
IT、知財、翻訳サービスを中心とした新しいタイプのリサーチ会社を目指しています。

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