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ICT、クラウドコンピューティングをビジネスそして日本の力に!

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政府は2月15日、「総合特区法案」を閣議決定しました。「総合特区」の創設は、新成長戦略の柱の一つで、国際競争力を高める「国際戦略総合特区」と「地域活性化総合特区」の二つに分けられています(総合特区制度の概要)。国会で法案が成立すれば、7月に特区が指定される流れとなります。

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「国際戦略総合特区」では、国際競争力強化のための法人税の軽減(投資税額控除、特別償却、所得控除より選択)などにより、国際競争力ある産業・機能集積拠点整備が期待されています。「地域活性化総合特区」では、ソーシャルビジネス等に対する個人出資に係る所得控除など、地域の志のある資金を「新しい公共」へ結集するといった取組みが期待されます。

特区では、財政上の支援措置(平成23年度)151億円(関係府省の予算を重点的に活用。総合特区推進調整費により機動的に補完)、金融上の支援措置1.5億円(利子補給制度(0.7%、5年間)の創設)が設けられています(平成23年度予算(案)の概要参照)。本特区では平成23年度の予算案で、「総合特区推進調整費 」として、820億円の予算が計上されていたのですが、事業仕分けの対象となり、151億円と予算を減らしています。

また、政府は2月15日、『「総合特区」制度設計のための提案プロジェクト等の取組の現状及び今後の予定に関する調査について』を出し、既に提案されたものを中心に、現在の状況や今後の取組の見込みについての調査を実施することとしています。これまでの提案内容については「 「総合特区制度」に関する提案募集における提案内容について」の一覧から確認をすることができます。

本法案では、10項目の規制緩和の特例措置を盛り込まれており、工業地域に病院やホテルを建てられる、特別用途地区の用途制限を緩和などがあげられています。建築基準法の特例については触れられていますが、コンテナ型データセンターなどのITに関する規制緩和について触れられているのかは、確認できませんでした。

ここで、政府のこれまでの特区創設とデータセンターの国内立地推進かかわる方針や政策などについて整理をしてみたいと思います。

新たな情報通信技術戦略【新IT戦略】 (平成22年5月11日高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部)においては、以下のとおりの内容が記載されています。

【重点施策】
国民利便性向上及びユーザー産業の高次化に資するクラウドコンピューティングサービスの競争力の確保のため、(中略)データセンターの国内立地の推進(中略)等の環境整備を集中的に実施する。
【具体的取組】
特に、高効率なデータセンターの国内立地促進のため、特区制度の創設も視野にコンテナ型データセンターの設置に係る規制の緩和などを2010年度中に検討する。

また、「新IT戦略工程表」の『クラウドコンピューティングの競争力確保等』においては、「データセンター国内立地推進の推進」は3つの重点施策の中の一つに位置づけられています。

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また、データセンターの国内立地推進については、以下の報告書などにも明記されています。

【内閣府など】
新成長戦略(平成22年6月18日閣議決定)

【総務省】
原口 ビジョンⅡ (平成22年5月6日総務省発表)
ス マート・クラウド研究会報告書(平成22年5月17日)
クラウドコンピューティング時代のデータセンター活性化策に関する検討会報告書(平成22年5月28日)

【経済産業省】
産業構造ビジョン2010(平成22年6月経済産業省公表)
クラウド・コン ピューティングと日本の競争力に関する研究会報告書(平成22年8月16日)

また、総合特区で提案されて地域の中で、データセンター立地に関する提案は以下のとおりとなります。特区の提案では、「国際戦略総合特区」が青森県のみで、その他は「地域活性化総合特区」となります。

提案団体名 プロジェクト名 提案様式リンク
北海道 環境配慮型データセンター特区  [1]  [2]
石狩市 グリーン・コミュニティ・スマートグリッド特区  [1]  [2]
岩見沢市、、(株)はまなすインフォメーションなど 環境配慮型コンテナデータセンターによるグリーンIT地域特区  [1]  [2]
青森県、六ヶ所村、新むつ小川原株式会社  戦略的グリーンITパーク設立構想 [1]  [2]
宮城県 みやぎデータセンター立地推進特区  [1]  [2]
福島県 地域多層型データセンター・総合特区 非公開
茨城県 いばらきデータセンター 特区  非公開
宇都宮市、日本オラクル㈱、飛島建設㈱、㈱東芝  大規模地下空間を利用したクラウドパーク・プロジェクト  [1] [2]
山梨県大月市、慶応義塾大学SFC研究所、NTTコムウェア  大月地下空間クラウドデーターセンター・プロジェク [1] [2]
岐阜県飛騨市 地底空間トラステッド・エコ・データセンター・プロジェクト [1] [2]

昨年の11月に「「データセンターの国内立地環境整備」に関わる規制緩和の対応と各省庁の見解について」で紹介させていただきましたが、コンテナ型データセンターの設置にあたっては、建築基準法や消防法の規制緩和への対応も検討されており、規制緩和の通知は年度内が予定されています。

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一方、民間事業者を中心に郊外型データセンターの設置の動きがでています。

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クラウドコンピューティング市場拡大に伴い、特にアジアを中心とした新興国の市場拡大が期待されており、シンガポール、香港、そして最近では中国に大規模データセンターが建設されるケースが増えてきています。ここで懸念されるのが、日本の情報の空洞化と情報産業の衰退です。現在、総務省の調査などによると、海外発のトラフィックは2009年時点で44%となっており、おそらく50%前後までにきていると想定されます。

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これらの背景を踏まえると、日本にアジアのハブとなるようなデータセンターが拠点をもち、アジア向けにクラウドサービスを展開するといったトラフィックの逆の流れをつくっていかなければ、国内産業の衰退にも影響しかねません。日本国内に外資系事業者などのデータセンターが立地されるためには、電力料金や法人税制優遇、そして規制緩和など、様々な問題を解決していく必要があります。

特区指定が必ずしもすべてを解決するわけではありませが、日本のIT産業や国内におけるクラウドビジネスの発展においても、多くのクラウド事業者が国内にデータセンターを構え、シンガポールや香港に負けないアジアのクラウドハブとしてのあり方を、もう遅いという意見もあるかもしれませんが、今いちど真剣に考え行動に移していく必要があるのかもしれません。

総合特区における提案の中で、果たしてデータセンター立地関連の提案が特区として指定されるのか、その効果はあるのか、政府の政策を踏まえ、今後の各地域の提案や事業者の動向が注目されるところです。

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MASAYUKI HAYASHI

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プロフィール

林 雅之

林 雅之

ICT企業勤務。クラウドサービスのマーケティングを担当。
国際大学GLOCOM客員研究員。社団法人クラウド利用促進機構アドバイザー。
著書『オープンクラウド入門(インプレスR&D)』『「クラウド・ビジネス」入門(創元社)』

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