オルタナティブ・ブログ > インフラコモンズ今泉の多方面ブログ >

株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

[ニュースの背景] 東京電力が1700万台のスマートメーターを国際競争入札で調達

»

日曜日の日経朝刊一面で「スマートメーター 東電、1700万世帯に導入 国際入札でコスト抑制」という記事が出ていました。これは世界のスマートグリッドプレイヤーにとっても大きなインパクトがあるニュースです。

いくつかポイントを。

○前例のない国際競争入札であるということ

電力会社は通例、電力計の調達を長年取引のある電力計メーカーとのみ行います。これは計量法が要求する電力計の仕様や品質が厳格であり、それを満たすのに複雑なプロセスが必要であるということ、10年に1度の交換が計量法で要求されており、調達と交換がいわばルーチン化されているため、新規の事業者との取引開始になじまないことが背景にあります。

今回の国際競争入札はこの慣行を打ち破るもので、新しい時代が来たなという印象があります。欧米のメーカーが入ってくる可能性がありますし(東芝が買収したランディス・ギアも候補の1つ)、場合によっては、中国のメーカーも入ってくるでしょう。従来では考えられなかった世界です。

記事によると、今回の調達で想定されているスマートメーターの単価は1万円程度。日本のスマートメーターの単価は2〜3万円とされているため、これを大きく引き下げるには国際競争入札しかないということのようです。欧米などで機能をそぎ落としたタイプのスマートメーターは1万円程度で取引されているようです。

○デマンドレスポンスが想定されているらしいということ

今回のスマートメーター導入では、いわゆる「デマンドレスポンス」の実現が想定されていると推察されます。
その理由は、スマートメーターの用途が単に遠隔で電力消費量を読み取るAutomatic Meter Reading (AMR) 機能だけであれば、わざわざ1千億円単位のコストをかける必要もないからです。人手による電力計検針のコストは巷間で考えられているほど大きくはなく、スマートメーター設置コストのごく一部しか吸収できません。大きなコストをかけるからには、東電の電力供給全般(=収益性)に大きな意味のある方策の実現が目されていると考えるのが順当。電力会社にとっては、ピーク電源への投資、ないし高額なピーク電力の調達が回避できた時に初めてスマートメーターが大きな意味を持ちます。それはすなわち「デマンドレスポンス」の仕組みが確立した時、という流れです。

なお、スマートメーターが電力会社の収益に与える影響については、以下の投稿を参照。
やっぱり難しい?米国電力業界のスマートメーター活用


従来、日本の電力会社におけるスマートメーター活用は上記のAMR機能ぐらいで、それ以上のいわばスマートグリッドらしさを感じる用途については、取り組みはなされないだろうという見方が優勢でした(従って、結果的には導入が進みません)。

これは、スマートメーターを起点にして家庭内の電力利用の「中身」に入って行こうとすると、これまで電力会社が手がけたことのない「需要家の行動にコントロールを加える」という領域に踏み込む必要があり、どこまで踏み込んでいいものか判断が付きかねるという状況があったからでした。従来は、電力会社は需要家が必要とする電力を必要とされるがままに送り届けるのが責務という行動原理で動いており、その枠の外で思考することが必要になります。

今回の原発事故とその後の電力需給逼迫により、電力会社も需要家の需要抑制(デマンドコントロール)を考えざるを得ない状況に立たされており、それではということで、スマートメーター導入と並行して、これまで現実的に検討されたことのない「デマンドレスポンス」の実現を図ってみようとなったと推察されます。

○どういう国際プレイヤーが登場するのか?

米国やイタリアではすでに数千万台規模のスマートメーター導入が進んでいます(厳密には国によって背景がかなり異なります)。すなわち、大きな市場になっており、複数の有力プレイヤーがいます。こうしたプレイヤーが今回の国際競争入札にどのように参画してくるのか、非常に興味深いです。

ただ、計量法でかなり厳格に管理されている電力計の世界に海外プレイヤーが入ってくると、その厳格さに面食らってしまうというところがあるかも知れません。高品質、壊れないことが当たり前の日本の工業製品の世界。しかも10年間も使うわけですから、この要求に応えるには至難の技です。

おそらく、現実的に欧米のスマートメーターメーカーが東京電力の要求する仕様や品質を満足させる製品を提供するためには、日本の既存の電力計メーカーと提携する必要があるのではないかと考えています。「秤」は経済の基本。日本は長い時間をかけて、日本なりのかなり細かいルールを作ってきています。

追記:

後から気づきましたが、現在、政府や経産省による電力自由化論議のなかに出てくる「小売の自由化」が家庭分野にも及んだ時、何が起こるか?ということを考えると、スマートメーターを設置して消費者をつなぎ止めておくことには、大きな意味があります…。

Comment(0)