中国・国家電網とGEとがスマートグリッドの2分野で標準化に着手
世界第8位の大企業である中国国営・国家電網はスマートグリッド標準の世界でも大きな存在感を示しそうです。
■スマートグリッド国際標準の動き
ご存じの方も多いと思いますが、スマートグリッド標準については、米国の公的標準化団体であるNISTが早い段階で準備を始めて、2009年9月に包括的なドラフトを発表しました。
しかしそれが国際標準になるかと言うと、そうはならないところが「国際」標準であって、IEEEにはP2030というスマートグリッド標準策定の動きがありますし、IECにもTC57というスマートグリッド用の標準があります。日本においてもこうした各国の動きに呼応しながら、日本が得意な分野については国際標準にしていこうという動きがあります。
スマートグリッドは上流の超高圧送電から末端の家庭のエネルギーマネジメントに至るまで領域が広いですから、それぞれの標準が扱っているスコープも一部は重複するものの、かなり違っています。ということで、どれか1つの標準が圧倒的に世界的支持を受けるというものではありません。
そういうなかで注視すべきは、ある領域における製品群が採用している、未だ国際標準とはなっていないような規格が、だんだんとデファクトスタンダード化していくという動きです。
個人的には、それが作る市場が大きそうだという意味で、UHVの超高圧送電に関する標準と、電気自動車の充電インフラに関する標準とがホットな領域になるのではないかと考えています。これらの分野において、標準化団体で時間をかけた論議が行われて国際標準が固まる前に、ある特定の企業が技術セットを打ち出し、それによってどんどん市場を獲得していくことがあるとしたら、それは要防御ということになります。
■国家電網によるUHV送電の標準化の動き
昨日の投稿でも少し触れましたが、国家電網では、昨年6月にスマートグリッドの22の分野について標準を作成しました。他の国際標準化団体のようにインターネットで標準文書を公開している様子はないようで、詳細にたどりつけませんが、主な分野としては以下が挙げられています。
- 発電
- インテリジェント送電
- 変電所
- 配電
- ユーティライゼーション
- 配電指令
明らかに送配電分野に重点がある内容ですね。これは国家電網が営業を行っている領域が発電からこちら側であり、かつ、電力小売から向こう側であることが関わっています。ここを埋めているのは交流および直流のUHVの技術情報であることは、ほぼ間違いないと思います。これが昨年6月に発表されたという標準のごくごく大まかなあらましです。
国家電網は昨年、1,000kVのUHVの送電網を世界で初めて商用レベルで運用開始した際に、送電網の7〜8割は国産の技術を使っているということをアピールしていました。これはすなわち、関連機器が中国企業から納入されたことを意味します。
同社に関連した資料によると、国家電網は、必要な機器類を子会社や関連会社から調達しているそうで(以前の電電公社に似ています)、そこに他国の製造会社に門戸を開放する姿勢がないことが気にかかります。
UHV送電網については、残りの2〜3割は外国企業から調達している模様ですが、それも国内企業で賄えない部分という限定付きだと思われます。一例では、日本のAEパワーシステムズが納入している1,100kV用の63kAガス遮断器があります。非常に高圧かつ高電流の遮断器は他では作れないようで、同社が中国仕様に則って開発しています。(AEパワーレビュー Vol.3 2010年7月による)
世界的な広がりでは、やはり国土の広いブラジルにおいて、UHVを使った送電網建設の動きがあるようです。国家電網はそこに商機を見て、食い込みを図っています。後日お伝えできると思います。
また、北アフリカのサハラ砂漠の太陽光・太陽熱発電資源を積極的に活用して、得られた電力を欧州にまで送ろうという巨大な計画、Desertecにおいても、具体化の1つのカギは超高圧送電になると思います。送電網建設が始まるであろう数年〜10数年先において得られるもっとも価格性能比のよいUHV関連製品が、中国製である可能性は高いと言えます。すなわち、国家電網が策定した技術標準がデファクトスタンダード化していきそうな気配があります。
なお、以前にもお伝えしましたが、UHVについては日本の東京電力などが運動を続けた結果、1,100kVのUHV送電技術がIECにおいて国際標準に認定されています。これと国家電網が策定している標準(中国企業がUHV製品を作っている仕様)との関わり具合は不明であり、専門家の方々の吟味を待ちたいところです。
■電気自動車充電インフラとマイクログリッド
今年1月に入ってからは、中旬に国家電網と米国GEとがスマートグリッド標準作成で協働するというニュースが伝えられました。
China's State Grid & GE join hands to develop smart grid standards
国家電網、GEに加えて政府系の中国科学院(Chinese Academy of Sciences)の三者が以下の分野について技術標準を作成していくことで合意しています。
- 電気自動車の充電
- 大容量蓄電システム、変換器(トランスデューサー)、分散型発電、マイクログリッドの統合
いずれの分野も昨年6月発表の標準セットではカバーされていない領域です。言うなれば、よりスマートグリッド的な領域と言えるでしょう。日本を含む各国が先を争って技術開発をしている分野です。「変換器(トランスデューサー)」とは、おそらくは、太陽光発電などで得られる直流の電圧を交流に変える、日本で言うところの「パワーコンディショナー」ではないかと思われます。
周知のようにGEはスマートグリッドに大きな力を注いでいます。アブダビのMasdar City(マスダールシティ)にも大規模なスマートグリッドのデモ施設を設けますし、中国の揚州市でも先端的なデモ施設がすでに動いています。また、オバマ政権のスマートグリッド関連助成金を得た電力会社などの企業のうち6割は、GEの顧客企業であったとも言われています。つまりGEが米政府の大きな資金の便宜を間接的に得ているわけです。
そうした米国内外で大きな存在感を持つGEと、中国市場の巨人である国家電網とが標準策定において合意を果たしたということですから、電気自動車の充電インフラの領域と、分散電源や大型蓄電器をマイクログリッドとして統合する領域とでは、デファクトスタンダード化が進展すると見なければなりません。
日本企業としては、国家電網とGEの展開が手薄な地域、すなわち、インドを含むアジア全域(中国を除く)において、国家電網が展開を始める前に市場を押さえておくということが必要だと思われます。現地にとって真に必要とされる、手頃な価格性能比のスマートグリッド関連製品群の開発が求められるでしょう。製品というよりも、長期にわたって現地で手頃な料金のサービスとして提供できる「事業の枠組み」の開発がカギかも知れません。
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