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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

10年で5,200億ドルを投じる設備投資 - 中国が世界一のスマートグリッド大国になる理由(下)

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[後記] 内容がわかりやすいように改題しました。

Zpryme Research & Consultingの報告書"China: Rise of the Smart Grid"では、中国のスマートグリッド計画は以下の3つのステージから成ると述べています。

■中国のスマートグリッド計画、3つのフェーズ

第一フェーズ:〜2010
技術標準策定、技術開発、機器開発、パイロットプロジェクト実施によりスマートグリッド構築を進める。総予算778億ドル、うちスマートグリッド技術関連が92億ドル。
第一フェーズでは、風力発電の接続、スマートメーター接続世帯への配電の自動化などの228に及ぶパイロットプロジェクトを実施。国家電網はこれらプロジェクトから得られた知見により、22区分のスマートグリッド技術の標準を2010年6月に策定した。

第二フェーズ:2011〜2015
国全体をカバーする信頼性の高い送電網の構築。スマートグリッド管理システムの具体化、スマートメーターの広範囲の敷設、十分な電気自動車充電ステーションの確保。総予算2,829億ドル、うちスマートグリッド技術関連が458億ドル。

第三フェーズ:2016〜2020
中国全土に存在する火力発電、水力発電、原子力発電、風力発電をすべて信頼性の高いインテリジェントな送電網に包含する。総予算2,405億ドル、うちスマートグリッド技術関連が458億ドル。

同報告書では次のような可能性を指摘しています。すなわち、世界最大の公益企業となった国営・国家電網が作成するスマートグリッド標準、UHV送電技術標準が、同社に機器を納入する企業にとってみれば、(国家電網の調達規模は世界最大であるので)非常に売上規模の大きなものとなり、結果として、それ以外の「国際標準」に基づいて作るインセンティブがなくなる。むしろ、国家電網が策定する標準に基づく製品の方が国際的には安いということになり、それが将来において他国市場にも浸透していくのではないかという可能性です。日本にいて、こういう指摘を読むと、現時点では夢物語のようですが、以下に見る様々な数字を確認すると、非常に高い蓋然性を持った可能性なのではないかと思えてきます。

■巨大すぎる国家電網

最後にネットで得られた確度の高い数字を拾っておきます(多くは国家電網が情報元となっている記事)。ものすごい数字ばかりです。

  • 2006〜2010年にかけての第11次五カ年計画では、発電容量の増強が毎年約100GW行われ、2010年末の総発電容量は950GWに達した(標準的な原子力発電所1基分を100万kW=1GWとすると、原発100基分に相当する新規電源が毎年建設されたことになる)。
  • 2011年から始まる5年間においても、予想されるGDP成長率を上回る率で新規電源の拡充が行われ、5年で495GWの増強を予定。
  • これらの電源の拡充後には、全体に占める再生可能エネルギーの割合は25%を超える。
  • 中国国営企業・国家電網の世界企業ランキング(Fortune Global 500社中)は第8位。電力系の企業としては過去に世界最大だったドイツのE.ONを抜き去った。
  • 国家電網が営業するエリアに住む住民は10億人を超える(国土の8〜9割をカバー)。
  • 国家電網の2010年における販売電力量は2,700TWh(テラワット時)。東京電力の2009年の販売電力量2,802億kWh(キロワット時)と単位を合わせると2兆7,000億kWhとなり、東京電力の約10倍ということになる。販売電力量は5年前の1,500TWhから80%もの増加。2010年における国家電網の売上総利益は450億9,000万元(5,610億円)。
  • 2006年〜2010年にかけて国家電網が送電網に投資した額は1兆2,000億元(14兆9,263億円)。2011年の国家電網の設備投資は前年比約10%増の3,220億元(約4兆円)。うち2,925億元(3兆6,390億円)が送電網への投資。2015年までに国家電網は1,100kVのUHV(超高圧)送電網の延長を100万kmにする予定。

国家電網の概要を紹介するビデオが見つかりました(英語)。これを見ても同社のすごさがよくわかります。特にUHV関連の技術開発の様子が詳しく説明されています。関係の方々は必見です。UHVグリッドの研究施設のレベルも相当に高いようです。

国家電網では、風力発電にも非常に力を入れており、中国はすでに全世界の風力発電容量の半分以上を保有するまでになっています。また、電気自動車が将来において普及するのを見込んで、中国全土での充電インフラの敷設をも計画に含めています。展開規模が巨大であるがために、関連製品が中国国外へと輸出され始めた際には、スケールメリットがものを言う低価格&高品質により、海外市場が浸食されてしまう可能性もなきにしもあらずです。

国家電網の投資額の大きさは、日本の高度成長期に日本が経済大国になるために長期資金によって行われた国策的な設備投資を思い浮かべれば、その意味がよく理解できると思います。関連メーカーへの発注額や創出する雇用を考えれば、国の経済の成長方策に他ならないという位置づけにあります。同社は国営であり、国の政策と直結した企業活動を行っているわけです。その延長にこれからできあがる世界最大のスマートグリッドがあります。

日本企業としては、こうした国家電網の動きを読んだ上で、その規模の影響を受けずに済む領域での展開が求められてくると思います。

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