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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

[水PPP事例] スコットランドのTay Wastewater Project

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■Tay Wastewater Projectの概要

EU官報で調達案件として告知されたのが1997年3月とかなり古いプロジェクトです。発注者であるNorth of Scotland Wastewater AuthorityにとってはPPPの枠組みを使った第二番目のプロジェクトとのこと。古いだけにその後の変遷もわかり、興味深い事例となっています。初期投資額は9,000万ポンド(約112億円)と下水処理案件にしては大規模です。

プロジェクト内容はスコットランドのFirth of Tayの海岸線に複数の排水路から注ぐ下水を処理済みのものとするため、下水処理場を1カ所新設。並行して複数の排水路の水を下水処理場に運ぶためのパイプ、大雨時に下水が直接海に注ぐのを防ぐための貯水施設、その他関連するポンプ、汚泥処理場を新設するというもの。
これにより当時NoSWAが遵守する必要があったUrban Wastewater Treatment (Scotland) Regulationsの基準をクリアすることが目的です。

■発注の背景

Tayは英国の川の名前であり、この川が海に注ぐ場所がFirth of Tay (Tay入江)と呼ばれています。当時、Firth of Tayには未処理の下水が流れ込んでいて、上記基準をクリアできなかったということと、近くに海水浴場があり、衛生面でも問題があったとのことで下水処理場の新設が計画されました。

■発注者:North of Scotland Wastewater Authority

North of Scotland Wastewater Authority (NoSWA)はスコットランド政府公営の企業。NoSWAは現在、West of Scotland Water Authority、East of Scotland Water Authorityと合併してScottish Water(公営)になっています。NoSWAの業容が得られないためScottish Waterの業容を記すと、220万世帯と13万企業顧客に1日当たり23億リットルの上水を供給、約10億リットルの下水を処理しています。

■受託者:Catchement Tay Ltd.

PPPスキームの契約がなされた当時は、Bechtel、Anglia Water Group Project Investments Limited、United Utilitiesの3社が1/3ずつ出資する特別目的会社でしたが、その後、2社が株式を売却して、現在ではAnglia Water Group Project Investments Limited、Henderson、Infrastructure Investors Ltdが1/3ずつ出資する会社となっています。

■PPP関連事項

・受託者は、下水の集水、処理、汚泥等の処理を受け持つ。またこの地域から出るすべての下水を受け持つ。
・受託者は、Design、Construction、Operation、Maintenanceを請け負う他、このスキームに付随するファイナンスのリスクを負う(注。明示的にファイナンスのリスクを負うと記述されていなくても、受託内容にファイナンスが含まれていれば実質的にリスクを負う格好になります)。契約期間は30年。
・初期投資は9,000万ポンド。
・受託者は、スコットランド政府の環境保全基準を満たせるようにオペレーションを行う。
・受託者は、初期投資のファイナンスを自ら行い、それに対してNoSWAは契約期間の間、所定の料金(tariff charge)を支払う。料金はNoSWAが顧客から徴収する使用料によってまかなわれる。
・NoSWA側のアドバイザーはファイナンス面がDeutche Morgan Grenfell、リーガル面がAllen & Overy。受注者側のアドバイザーは不明。
・ファイナンスは債券発行によるもので、アレンジャーはAbbey National Treasury Services。

■同プロジェクトの特徴的な部分

・Hatton下水処理場で処理された水は沖合1.6kmの排水口から海に出る。
・このプロジェクトの特徴ではありませんが、契約開始から10年を経て、途中で特別目的会社の所有者が代わったことがこの事例における特徴だと言えます。

一般的にインフラ投資においては、投資家は初期に参画して立ち上げ期を乗り切った後で、相応のリターンを実現するためにエグジット(ここでは株式の売却)を行う場合があります(その間の事情は野村資本市場研究所の元研究員・瀧俊雄氏が執筆した「ファンドが変えるインフラ民営化のあり方」に詳しいです)。ここでは株式を売却したBechtelとUnited Utilitiesとは決して公益事業を「投げた」わけではなく、投資家として普通の行動をとったまでですが、一方では、民間から批判の声も出ていることは確かです(公益事業を受託していながら営利に走っていいのかという視点による批判。とはいえ、インフラ投資の基本を理解していないで批判している風がなきにしもあらず)。

■気づいた点など

・1997年という非常に早い時期に、水道管理当局が、当時はまだ前例のほとんどなかったPPPスキームを採用し、所期の目的を達成した非常に意欲的な事例だと思います。
・United Utilitiesは、Tay以外にも類似した下水処理プロジェクトであるMoray Coast Waste Water Projectの権益、Catchment Highland Holdingsの権益を2010年6月に同時に売却しています。

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