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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

[水PPP事例] 北アイルランドのProject Omega

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しばらくの間、水関連のPPP事例をいくつか取り上げて行きたいと思います(毎日連続というわけではありませんが)。

■Project Omegaの概要

Project Omega
は英国北アイルランドの公営水道会社Northern Ireland Water Limited(NIW)が実施した英国でも最大規模のPPP (Public-Private Partnership)プロジェクトで、当初見積1億5,400万ポンド(約200億円)、落札時見積1億2,200万ポンド(約160億円)となっています。落札したGlen WaterはNIWが見積もったよりも17%安く応札したことが評価されています。
プロジェクト概要は、最新型汚水処理施設の建設、年間2万4,000トンを処理できる汚泥焼却炉の建設、稼働中の汚水処理ポンプ6基の更新、汚泥設備の更新、ポンプ場3施設の新設、関連パイプラインの敷設となっています。これにより、この地域の汚水処理を向こう25年にわたってカバーできるとのことです。

■発注の背景

欧州委員会(EC)では汚水処理に関するUrban Wastewater Treatment Directiveという指令を加盟各国に出しており、各国はこれに従う必要があります。2003年に自然保護団体Friends of Earthが北アイルランド地区の海岸について汚水処理が不十分であることをECに訴えたところ、ECが英国に対して是正措置を取るように命じました。
このため、汚水処理を受け持つNIWがUrban Wastewater Treatment Directiveの基準をクリアする汚水処理の計画を作成し、それをPPPの枠組みにして民間企業の入札を募ったという経緯があります。

■発注者:Northern Ireland Water Limited

2007年に会社組織となった政府保有の水道会社。170万人の住民に毎日6億2,500万リットルの上水を供給。年間1億3,400万立方メートルの汚水を処理。
上水管路長2万6,500km、下水管路長1万4,500km、主要浄水場44カ所、汚水処理場1,124カ所。上水ポンプ場287カ所、下水ポンプ場1,194カ所。従業員1,400名。

過去5年間のうちに北アイルランドで行った投資は10億ポンド(1,325億円)。今後2020年までに漏水対策、洪水対策、上水および下水の品質向上に対して30億ポンド(3,976億円)の投資を行う予定。

■受託者:Glen Water

Glen Waterは旧Thames Water、現Veolia Water UKと地元建設会社Laing O’Rourkeの50:50合弁会社であり、Project Omegaを受託するために設立された特別目的会社という位置づけ。

■PPP関連事項

・受託者は北アイルランドの汚水処理の20%、汚泥処理の全量を受け持つ。
・受託者は、"DBFO" (Design, Build, Finance and Operate)を請け負う。
・受託者は、25年間にわたって関連施設等を運用する。
・受託者が請け負う主な事項
 ー North Down / Ards地区における最新型汚水処理施設の建設
 ー Donaghadee、Millisle、Briggs Rockの3地区におけるポンプ場の設計と建設
 ー Ballynacor、Bullay's Hill、Seagoe, Armagh、Richill、Ballyrickardの6地区の現行汚水処理施設の更新
 ー 多数の現行汚泥処理施設の更新、オペレーション、メンテナンス
 ー Belfast市Duncrue Street地区での第二汚泥焼却炉の建設
 ー 北アイルランド地区全体にわたる新しい汚泥処理ソリューションの展開
・予定では2009年に完了。最終部分も2010年に完成した模様。
・汚水処理、汚泥処理の仕様は欧州委員会のUrban Wastewater Treatment Directiveをクリアしている模様。

■同プロジェクトの特徴的な部分

汚泥処理を新型の焼却炉によって行っているところが特徴的だそうです。
現行第一焼却炉で発生した蒸気を新型第二焼却炉で活用し、汚泥を乾燥させて、摂氏850〜950度の高温で燃焼させるそうです。これにより発電を行っています。

■気づいた点など

・NIWは、Project Omega実施に先立ってある程度の投資は行っていましたが、向こう25年にわたる需要を満たすには投資が不足すると判断、PPPに移行した可能性があります。(2007のプレスリリースから)
・PPPにしたことにより、200億円近い初期投資の負担を免れることができ、かつ、旧Thames Water、現Veolia Water UKの組織力の恩恵を受けることができるようになりました。
・NIWは、当然のことながら取り組むべき多数のプロジェクトを抱えており、限られたスタッフをより優先順位の高いプロジェクトに振り向けることが可能になった模様です。
・NIWは、今後2030年までに30億ポンドの投資を予定しているところからみると、財政的に逼迫しているというわけではなさそうですが、限られた資源をうまく使うために、Project OmegaではPPPを活用したということだと思います。
・Glen Water側の収益性は、細かな数字が公開されていないため不明ですが、少なくとも水ビジネスの老舗(Veolia)が首肯できる程度の収益は得られているものと思われます。
・英国には古くから民営化の実績があるため、PPPスキームの設計、応札者とのコミュニケーションなどもスムーズに行くのかも知れません。

[追記]
これをアップした後で、プロジェクトファイナンス関連の概要がわかる資料が見つかりました。以下興味深い点を抽出します。
・Special Featuresとある欄に以下の記述があり、明らかにキモの部分ですね。
    * The contract incorporated a pass through of power costs to make use of the Authority’s bulk buying capability.(試訳:この契約は電力関連費用をPIW側が受け持つようにしている。PIWの大口電力購入を生かすため)
    * Phased release of Technical Information Pack during ITN to minimize/optimize the bidding period(試訳:入札期間を短縮、最適化するため、ITN期間におけるTechnical Information Pack=仕様は段階的なリリースとした)
    * Formally agreed terms of Preferred Bidder letter to limit scope for negotiations up to Commercial/Financial Close(試訳:落札者に対する通知状において、事業的・財政的な合意を速やかに行うため、合意範囲の限定を明記した)
    * Innovative payment mechanism targeted at ensuring compliance with regulatory standards(試訳:規制関連の基準を満たすことができる先進的な支払いメカニズムを適用した)
    最後の先進的な支払いメカニズムというのが、成果報酬的な枠組みを持ったものだと思われます。
・NIW側へのアドバイザーとしてフィナンシャル面にPwCが付いている他、テクニカル面、リーガル面、保険面でもアドバイザーがいます。
・Glen Water側のアドバイザーとして、フィナンシャル面にRoyal Bank of Scotland(三菱東京UFJに買収されたプロジェクトファイナンス部門ですね)が付いている他、リーガル、テクニカル、保険などでアドバイザーがいます。
・プロジェクトファイナンスの幹事行はBank of Ireland。
・発注者側にも受託者側にもPPPのプロが付いているのが印象的です。

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