電子書籍端末としてのiPadはAmazon Kindleにかなわないという持論のご説明
iPadに関する自分の立場を確認しておくと「iPadは非常に優れた端末である」、「コンピュータの歴史を塗り替えるぐらいのポテンシャルを持っている」という意見です。手ばなしで絶賛したいぐらいです。まだ触ってはいませんが。RBB TODAYの記者の方がニューヨークのアップルストアで入手した直後の動画とか、日経の石川温氏の記事(直リンクできませんため)とかを見るにつけても、やはりすげーなーという印象。先日はワイアードビジョンの記事を引用させていただきました。
その上で、電子書籍端末としてのiPadについてコメントさせていただきます。Kindleについてここで言及して以来、電子書籍端末としてのKindleとiPadについて色々と考えてきました。で、まとめたのが以下の資料。Twitterイベントお話させていただくために作成したもの。
これを作成した段階ではiPadは未発売であったものの、当時得られた資料などをベースに述べています。
■1. まずハードウェアとしてのKindleが非常に売れているということ。これが考察の起点
■2. ハードウェアとしてのKindleが売れたことで、Kindle版電子書籍の売上がぐーんと伸びているということ
■3. 売上の規模感を確認するための数字など
■4. とりあえず電子書籍端末3種を並べてみたり
■KindleとiPad、その他電子書籍端末を比較してみた図(横幅はマインドシェア的なもの。定量的な根拠があるわけではない)
ということで、この5枚のスライドでもって、iPadがこれから出てくるにしても、Kindleには絶対にかなわない。電子書籍端末はKindleのひとり勝ち、ということを説明しています。これが2月末時点でまとめた自分の考え。
iPadが発売されて、電子書籍としてのiPadについてどのような評価が出るのか興味深く見守っていたのですが、やはり出ました。EBook2.0 Forumの記事↓
WSJのモスバーグ (W. Mossberg)は「新しいタイプのコンピュータ」として評価し、今日のコンピュータの機能を少なからず吸収するとしたが、E-Reader機能については、大型カラースクリーンを採用した一方、片手で持てず、読める本も少ない(45万冊の Kindle ストアに対して iPad は約6万冊)と指摘している。
USA Todayのベイグ (E. Baig)は、商品としてのiPadの成功を確信しながらも、愛書家には Kindleがやさしいとして、カタログの貧弱さに加え、iPad の価格、電池寿命、重量は読書には適さないとみている。
KindleとSony Pocket Readerを愛用するChicago Sun Timesのイーナツコ (A. Ihnatko)は、価格、サイズ、電池寿命をKindleの優位として挙げ、E-Readerとしての比較では勝負にならない、とまで述べている。「数週間もつ」というKindleの電池寿命は、持ち運びが前提のE-Readerとしては最重要な要素のようだ。
Kindleは読書家のために最適化されたハードウェアになっており、かつ、読んでいる際には「ハード」的なごつごつした感のない、まったくアナログな書籍的手触りがある製品に仕上がっています。Kindleはある意味で「本」なのです。本好きを喜ばせる不思議な製品なんですね。従って、Kindleを手にしたとたんに本(Kindle版書籍)をがんがん買うようになる。それが数字にも出ている(上のスライドの2枚目参照)
そうした本好きを喜ばせる「本」であるところのKindleと、基本的には多目的端末であるiPadを比較しても、前者に絶対に分があることは確かです。
もちろんiPadの電子書籍機能を使うユーザーが多数出ることは間違いないし、そこそこのダウンロード数も出るでしょう。しかし、長い時間ずーっと「本」を持って読む、言いかえれば、読書経験としての端末利用という意味で、iPadはちょっとつらいです。重いし。寝ながら読めるものではない。
読書経験としての端末利用という意味では、確実にKindleが優れていると思います。本が好きな人が好んで使う端末になっている。だからハードウェアとしてのKindleを通じて電子書籍としてのKindle版をがんがん買う。それが明確な数字(売上)となって出る。そういう連鎖がすでにKindleではできあがっているように思います。
なお、現在報道されているiPadにおける電子書籍ダウンロード数の位置づけについては、@YukariWatanabeさんの「洋書ニュース:iPad初日の売上が示唆するもの」が参考になります。興味深い記事です。