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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

アテンションを引き付けるにはストーリーが必要だ

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消費者のアテンションは有限なので「総量が決まっているアテンション空間でどのようにシェアを獲得していくかが重要だ」というのが「アテンション・エコノミー」の考え方です。
広告が効果を持つかどうかも、サイトがトラフィックを集められるかどうかも、アテンション・エコノミーにおける投資と効果で説明できると思います。

世の中にはうまいものを出すレストランがたくさんあるけれども、ある日ある時の特定の個人の関心に着目してみると、「オレがいま圧倒的な関心を寄せているのは、XXXXXX(レストラン名)のYYYYYY(メニュー)だ」という具合に、アテンションは常に個別具体的なものに振り向けられます。固有名詞の世界です。

昨日、「アンソニー世界を喰らう」ニューヨーク編で、アンソニーとそのシェフ仲間がうまそうに食べていた"Roasted Marrow Bones, Parsley Salad, Sea Salt"という骨の髄の料理のことを書きました。

私がこの料理にものすごく惹かれた理由を確認してみると、

 1) アンソニーはおもしろい奴だ。世界中を旅して珍しいものを食っているだけでなく、キャラが憎めない。悪ガキ風。
 2) 番組の随所で自分語りがなされ、私小説風なところもある。ニューヨーク編では彼の若かった頃を彷彿とさせた。
 3) ニューヨークで今をときめくレストランのシェフ2人と一緒に彼は、プロ中のプロが激賞する店に行った。
 4) その店(Prune)は個性ある女性シェフが切り盛りしており、基本的に”自分で作ってうまかったもの”を出すという。
 5) 同店でもっともうまいとの前置きがあって、3人がうれしそうにしながら骨の髄の料理を食べていた。
 6) すげーと思った。

となります。

ここにアテンションの本質があるように思うのです。

どういうことかと言うと、普通の旅行情報番組で"Roasted Marrow Bones, Parsley Salad, Sea Salt"(以下RMBPSSS)を紹介していたとしても、RMBPSSSにはさほど気を留めない。一瞬後には忘れている。
けれども、いっぱいエピソードを持つアンソニーが、たくさんの記憶が詰まったニューヨークに帰ってきて、名うてのシェフの友人2人と、非常に個人的なレシピを持つ女性シェフの店にやってきて、「こりゃうめーわ」とやっている、その非常に特殊な特殊な尾ひれのついたRMBPSSSにものすごーく惹かれるわけです。

ここにはストーリーが重層的にあります。

ニューヨークの有名店のシェフだという2人もストーリーを持っていそうだ。Pruneでユニークなレシピで調理している女性シェフにもストーリーがある。ニューヨークに帰ってきたアンソニーにもストーリーがある。それらが複合してRMBPSSSの印象を強めています。
しかし何と言っても、それを束ねる位置にあるのは、アンソニー・ボーデインその人自身です。

この図式。

社会ネットワーク分析のマップにして上から俯瞰するとおもしろいと思います。今で言うソーシャルグラフですね。

アンソニーがストーリーを持っている(彼自身もシェフであった時代があったそうで)。そこに別なストーリーを持つシェフ2人がリンクしている。
そのシェフ2人が推奨する女性シェフがいて、彼女にリンクしている。
彼女からリンクしているRMBPSSSという料理に、シェフ2名のリンクが張られており、そこにアンソニーのリンクも加わった。
それをテレビで観ていた今泉もRMBPSSSにリンクを張った。

さらにRMBPSSSは今泉のブログで書かれ、何名かの方は関心を持たれたかも知れない。
そしてここでまた、RMBPSSSが関心を引き付ける構造が書かれている。

発端はアンソニーです。アンソニーが持つストーリーは視聴者がリンクを張りやすい特性を持っており、彼が食べているものにもアテンションを向けさせる。そして時々は、絶対に忘れない料理として脳に刻み込まれる。

こういう図式。

これが現在では、著名人に限らず、ネットで何かを書いたりするほとんどの人において発生する可能性がある図式だ、ということは、あえて書くまでもありません。

特定のインフルエンサーがいるというわけではなく、ある日ある時、ある特定の人が非常に心寄せられるストーリーを帯びて登場してきて、その人が言及したモノにまで強い関心が向く。ブログを書く人だったり、SNSで頻繁に日記を更新する人だったり(時間とともに書き手の変化が感じられるコンテンツでないといけませんね)。

その人が食べていたものが食べたい!
その人が使っているモノが欲しい!

これはその人の経験をなぞりたいという欲求だと思います。

そのストーリーが欲求を発生させているのです。しかもこれは、欲求であって、ニーズのような代替物で充足させることも可能なやわなものではない。特定の、固有名詞を持った、それそのものが欲しいという感覚です。

では、そうしたストーリーの本質とは何か?何でそのストーリーに強く惹かれるのか?要研究ですね。キーワードとしては、「自腹」と「正直」があると思います(アンソニーが自腹ではないじゃないかという単純なツッコミはなし^^;。たぶん彼は何かを自腹的に費やしているはず)。

参考リンク:
シリアルイノベーション:スターバックスで抹茶を

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