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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

iPodライクな製品が成立する余地はあと50もある

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IBMには色んな未来を研究している人がいるようで、先日、"IBM and the Future of XXXX"というシリーズもののPodキャスティングおよびそのテキスト版が公開されているのを見つけました。2006年前半のものです。

うち、"IBM AND THE FUTURE OF THE HOME"のテキスト版に目を通して見ました。

これが取り扱っている領域は、経産省が以前に進めていた「情報家電ネットワーク」関連の振興方策とほとんど同じです。関連の動きについては以前に弊ブログで言及しました
おおよそ同じ時期に同じ領域で考察していた人たちがIBMにもいたということですね。早い遅いで言えば日本の方が少し早かった可能性があります。

結局見ているところは同じで、ざっと挙げると…

・家庭の中には電子デバイスがたくさん存在するようになっているが、相互に接続されて利便性が高まるようにはなっていない。
・個々のデバイスが持っている演算能力や記憶容量は年々増大している。
・ブロードバンドが速くなっているのと同時に、ユビキタスなものになりつつある。
・唯一欠けているのはIntegrationである。
・マニュアルを見なければ個々の機器が操作できない現況は何とかしなければならない。

こうした指摘は、経産省の情報家電ネットワーク関連のペーパーおよび「情報家電ネットワーク化に関する検討会」などの活動内容にも見つけることができます(上のリンクからたどれます)。

ただそこから先の方向性が違います。

IBM AND THE FUTURE OF THE HOMEの論者二人は、このIntegrationのために必要なのは、単一のプレイヤーが新たに構築するビジネスモデルだと考えています。市場競争の中から競合を押しのけてただ1つの企業が頭角を現し、優れたビジネスモデルによって、上記の課題を解決していくという筋道を考えているのです。

そして、非常に刺激的なことに、家庭の中では、iPodライクなデバイスがあと50は出現する余地があると述べています。生活を取り巻く全般において、デバイス+ソフトウェア+ネットワーク上のサービス+コンテンツを統合した多数のビジネスモデルが成立する余地があると考えているのです。

経産省の方向性は、同省が音頭を取って、複数の企業が相乗り可能な標準規格を確立し、もって日本企業連合軍が世界市場において存在感を維持するというものでした。
こうした方向性が世界市場ではworkしないものであるということは、少しずつ明らかになってきています。また、経済産業省の優れた論客である村上敬亮氏の最近のブログでも「オープン」な行き方の方が望ましいという考えが打ち出されています。

ただ現実問題として、この種のIntegrationが実現するには、標準規格があるかどうか、何かがオープンであるかどうかはあまり関係なく、単に数多くの消費者の支持を得られるかどうかがすべてです。現にAppleの技術はかなりクローズドな性格を持っているにも関わらず、世界中で支持を得ています(部品等の調達がオープンであることは事実)。

このような世界規模の際立った支持は、特異な価値提案、特異なビジネスモデルがあって初めて得られるものだと考えます。現在の延長にあるものでは厳しいです。

そうした特異な価値提案、特異なビジネスモデルを考える上で、IBM AND THE FUTURE OF THE HOMEの論者が1つのヒントを出しています。

-Quote-
I think one of the interesting things about the Smart Home is who's going to pay for it. Clearly the consumer is going to buy some of these devices; we are already doing that. It's in our history of the last 50 years to buy appliances and things like that.
But if you saw the cell phone model roll out, the cell phone companies actually or the ISP gave you the cell phone to motivate you to buy the service from them. So we're going to see that same paradigm where we see companies coming in saying, we'll provide this integration for you if you'll hook up to our service.

拙訳
Smart Homeについて考える際に非常に興味をそそられるのは、「いったい誰がそのコストを負担するのか?」という点だ。現状、消費者がそうしたデバイスを買うということが、当たり前になっている。家電製品やデバイスを買って使うというスタイルは、もう50年も前から続いているわけだ。
ここで携帯電話のモデルを見てみよう。携帯電話会社やISPは消費者に端末をタダで配り、サービスを購入するように仕向けている。近い将来において同じパラダイムを採用する企業が複数現れるのではないか。つまり、わが社とサービス契約を結んでくれれば、Smart HomeのIntegratiionはすべて面倒を見ますよ、という会社が。
-Unquote-

未来の家庭を想定すると、関連する家電や機器は複数あり、現状からそこへシフトする際に個々の世帯に多大な金銭負担が生じます。この負担を消費者側に押しつけたままでいいのか?過去の小売モデルを踏襲したままでいいのか?という素朴な発想をすることから、新しい市場を切り開く事業モデルが生まれるのではないでしょうか?
彼らは上でそのことを述べています。

なお、ご参考までに、家電製品をタダで配布するモデル、およびその延長にある乗用車をタダで配布するモデルについては、弊ブログで過去に言及しました。同じことを考えている人もいるんだなぁというのが素朴な実感。

この問題は、「ではそれを実際に行うのは誰か?」というところに収斂していきます。消費の常識、小売の常識に真っ向から挑んでいく性格があるからです。

放っておくと、Googleが必ずどこかの領域を取ってくるように思います。

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