ストーリーを中心に置く経営
Harvard Business Review 2006年10月号にClayton Christensenらによる論文"The Tools of Cooperation and Change"が掲載されていました。昨年秋にPDF版を買ってPCに入れておいたのが、1/3ぐらい目を通しただけで、ずっとそのままになっています。冒頭には次のようなことが書いてあります。
経営者は組織の成員の合意を形作らなければならない。そのためのコミュニケーションには、何らかのツールが使われている。ツールには、飴とムチから「伝説」に至るまで様々なものがある。
どのツールが使われるべきかは、①組織の成員が「自分たちの欲求」に関して共通理解を持っている度合(Extent to which people agree on what they want)を縦軸に、②組織の成員が「こうすれば→こうなる」ということの理解を共有できている度合(Extent to which people agree on cause and effect)を横軸にとったマトリクスを作成し、そこにマッピングしてみるとわかる。
①と②がともに高い事例としてはアップルコンピュータ(現アップル)がある。①と②がともに低い事例としては、バルカン半島がある(といった具合に歴史的な状況をこの種の事例に持ってくることに本論文のユニークさがあります)、とのことです。
バルカン半島とは、国境がなかなか定まらない複数の国家に多数の民族が入り混じって住んでおり、隣人に対する反感や憎悪が渦巻くなかで政治も安定せず、ともすれば暴力沙汰が起こり…といった状況を想定しているようです。こういう状況では、「自分たちがいったいぜんたい何を欲しているのか」に関する共通理解はほとんどないも同然ですし、「こんな政策を講じてみれば、こんな形で住民の幸福が高まる」といった因果関係についても共通理解はないでしょう。そういうなかでは、恐怖政治のようなツールが有効である。そんな論法になっています。
一方、アップルコンピュータの場合は、会社全体において、「自分たちがいったいぜんたい何を欲しているのか」は明確に把握されており(例えば、iPodをもっと洗練させるとか)、「こんなマーケティングを行えば、こんな形でユーザーの満足が高まる」といった共通理解が広くあることが窺えます。そのような状況においては、非常にシンボリックな「未来に関する伝説」のようなツールが有効であるだろう。そんなことを述べています。
ということで、経営におけるストーリーの力を取り上げたい…。けれども長くなってしまうので、簡単に箇条書きでやめておきます。
・組織の成員全体に染み渡るようなコミュニケーションはやはり非常に難しい。
・特に、組織全員の一体感を醸成するようなコミュニケーション、組織成員の力を集約するようなコミュニケーションは、並大抵のかたちではできない。
・そこには、何らかの工夫以上のものが求められる。
・経営戦略の共有、何らかの手法に関する定期的な会議といったものではおいつかない。
・一方で、人は、そもそも「物語」として世界観を形作っているということがある。
・主人公がいて、ビフォア&アフターがあるという物語は、意味や価値の理解という意味で非常に普遍的な何かを持っている。
・抽象的な価値や斬新なコンセプトであっても、物語のなかに組み入れることで容易に理解してもらえる可能性がある。
・ということで、組織全体において非常に根源的な共通理解を醸成する必要がある場合には、「物語」を活用するのがよい。
・その「物語」が具体的にどういうものであるかは、ケースバイケース。