低リスク製品は「目刺激」で見分けよう。 ~日用品公害・香害(n)~
急増する有症状者。認知され始めた「香害」というワード
2019年4月から書き始めた、「香害」に警鐘を鳴らす記事。102本を書き、今回が、103本目になる。
6年が過ぎ、「香害」を取り巻く状況は変わった。
8月20日には、「小中学生の1割が「香害」で体調不良」というニュースが、全国紙、複数の地方紙、Yahoo!やライブドアほかのネットニュースに流れ、「香害」を知る人がさらに増えた。
日本臨床環境医学会・環境過敏症分科会、室内環境学会・環境過敏症分科会が全国約1万人の児童生徒を対象に行った調査の中間報告を受けて、消費者団体などが文部科学省に要望書を提出したのだ。
1割と言う結果は、あまりにも重い。
ただちに学校の空気環境を改善しなければ、子どもたちが苦しく悲しい人生を歩むことになりかねない。
そしてそれは、社会的な問題をも生じさせる。学業が立ち行かず、就業が危ぶまれる可能性のある者が、若年層の1割に及ぶとどうなるか。
2019年4月の記事で書いた、「労働力減、生産性低下による、社会的損失」が、現実味を帯びてくる。
短期的な企業の収益を尊重するあまり、中長期的には逆にこの国の産業発展に影を落とすころにでもなれば、何のための経済活動だろう?
空気事情を改善し、生命をまもり、学習機会の損失を防ぐ方向へ、ただちに方向転換しなければならない。
リスクを低減するには、何を使えばいいのか?
香害に関する情報を得て、SNS上には、低リスクの日用品に切り替えたい、という声が増えている。
使用中の製品のリスクは高いのか低いのか。なんとなく、石けんがよさそうなのはわかった、では、何を使えばいいの?
X上に、有志の方が作成した、安全な製品のリストが流通している。写真付きでわかりやすいものである。これを入手して参考にするのが最も確実な方法だ。
ただ、いま使用中の製品や、ドラッグストアで見かけた製品のリスクを、大雑把に判断したいという人もいるだろう。
その場合は、目に入った時の対処方法が、ひとつの判断材料になる。
「安全データシート」にあるように、化学物質に曝露したときの措置は、 吸入した場合、皮膚に付着した場合、眼に入った場合、飲み込んだ場合では異なる。
このうち「眼に入った場合」の処置については、製品のボトルやパッケージの裏面に、平易且つ簡潔な言葉で注意が書かれている。
各社の標準化されたテンプレートの表現の違いはあるが、「水で洗い流すことだけ」が記載されているものは、基本的に、低リスクとみてよいだろう。
低リスクとはいえない製品の場合は、水で洗い流したうえで、「眼科医」「医師」「専門医」への受診を促す言葉が続く。
これは、洗濯洗剤や柔軟剤に限ったことではない。筆者が確認したところでは、シャンプー、台所洗剤、手洗い用製品にも、ほぼ同様の表示があった。
基本的には、「水で洗うだけ」か、「水で洗ったうえで、受診」、のどちらかで、リスクの高低を判断できるおいっていい。
低リスク製品の表記の例
参考までに、筆者がこれまで使ったことのある、11社の製品は、次のような表現になっている。
【固形石けん】
「記載なし(ほボリスクなし)」「目に入った場合はこすらずに、すぐ洗い流してください。」「「目に入った時はすぐに水又はぬるま湯で洗い流してください。」
【洗濯用石けん・万能洗剤】
「目に入った時は、こすらずすぐに流水で15分以上洗い流す。」「目に入った場合は、こすらずに、ただちに流水で 15分以上洗い流してください。」「目に入った場合は、こすらずにすぐ水でよく洗う。」「目に入った場合、(コンタクトレンズは外し)ただちに流水で15分以上洗い流す。」
【手洗い用石けん】
「目に入った場合は、こすらず、すぐに水で十分洗い流す。」
【シャンプー】
「目に入った時はただちに洗い流してください。」「目に入った時はすぐに洗い流してください」
【食器洗いせっけん】
「目に入ったときは直ちに洗い流してください。」
低リスクとはいえない製品の例
売れ筋の4社9製品の裏面の注意書きは次のとおりだ。筆者は使ったことがないため、画像を検索して確認した。
【洗濯洗剤】
「目に入った時はこすらずただちに流水で15分以上洗い流し、必ず眼科医に受診する。」「目に入った時は、こすらずただちに流水で15分以上洗い流し、直後に必ず眼科医の診断を受けてください。」「目に入った場合はこすらずにすぐ水で充分に洗い流して、医師に相談する。」「目に入った場合こすらずに水でよく洗う応急処置をし、医師に相談する。」「目に入ったときは、こすらずすぐに水で充分洗い流す。~ 異常があるときは、商品を持参し医師に相談する。」
【柔軟剤】
「目に入った時は、こすらずすぐ流水で充分洗い流す。異常がある場合は眼科医に相談する。」「目に入った場合はこすらずに水でよく洗う応急処置をし、医師に相談する。」「目に入ったときは、すぐに洗い流します。~ 異常があるときは、商品を持参し医師に相談する。」「目に入った場合は、こすらず、ただちに流水で洗い流す。~使用中、香りで気分が悪くなった場合は、すぐに使用をやめ、換気をし、安静にする。いずれの場合も商品を持参し、専門医を受診する、」
判断に迷いそうな表現の製品では、処置の緊急性を読み取る
無香害製品を使い慣れている人には自明でも、これから切り替える人にとっては、判断に迷う表現もある。筆者が知る限りでは、次の6つだ。すこし悩んでしまうかもしれないが、医療機関の受診が「限定的であるか、緊急であるか」で判断できる。
ひとつは、低リスク製品だが、「眼科医」という言葉が使われている石けんだ。
昭和の時代のレモン形の石けんを製造していた企業が製造している、無添加石けんである。「目に入らないようご注意ください。目に入った場合は、こすらずにすぐに洗い流してください。目に異物感が残ろ場合は、眼科医にご相談ください。」他社とは異なり異様に丁寧な長文だ。はちみつが含まれているからかもしれない。これは、念のために、という解釈でいいだろう。
2つ目は、あきらかに低リスク製品だが、「専門医」という言葉が使われている、洗濯用の石けんだ。
「目に入った場合はこすらずに水でよく洗い流す。~異常が残るときは専門医に相談する。」とある。「異常が残るとき」であるから、万が一のための記載という解釈でいいだろう。
3つ目、これも同様。低リスク製品だが、「専門医」という言葉が使われている、洗濯の補助剤だ。
「目に入った場合は、こすらず、すぐに水で充分洗い流す。~ 異常が残る場合は専門医に相談する。」とある。「異常が残る場合」に限定されている。
4つ目、これも同様。低リスク製品だが、「専門医」という言葉が使われている、洗濯洗剤だ。「目に入った時はこすらず真水で洗い流してください。異常が残る場合には製品を持参して専門医に相談してください。」これも、「異常が残る場合」と限定的だ。
5つ目は、低リスクとはいえないが、n次移香は生じない合成洗剤だ。
香害問題が生じるよりもはるかに前から販売されていた、粉の合成洗剤だ。
「目に入った時はこすらずただちに流水で15分以上洗い流し、必ず眼科医に受診する。」と記載されている。「必ず」であって、低リスクとは言い難い。ただし、(この製品、筆者の身内が使っているのだが)香害は引き起こしにくい。すくなくとも、どこまでも付いてくる「n次移香」は生じない。使うかどうかは、服を着ていく場所や、近隣との距離、人間関係などから、ケースバイケースで判断する必要があるだろう。
6つ目は、低リスクではないが、ゼロリスクだと誤解されている製品だ。
赤ちゃん用で、無添加をウリにしているから、ゼロリスクだと信じ込んでいるユーザーが多いらしいが、そうではない。
一部の成分(蛍光剤、漂白剤、着色料)は無添加だが、複数の化学物質や合成香料が含まれている。裏面には「目に入った場合こすらずに水でよく洗う応急処置をし、医師に相談する。」という記載がある。
赤ちゃんは、痛みで号泣するだろうから、水でよく洗うこと自体、非常に困難ではないかと想像する。メーカーサイトの仕様にある化学物質名を確認したうえで、使うかどうかを判断したほうがよいだろう。
より正確な安全性を知るには?
さらに、きちんと安全性を確認したければ、まずは、メーカーの公式サイトで成分の記載された仕様書を確認しよう。家庭用製品のパッケージ裏面に記載されていなくても、同製品の業務用にはGHSマークと有害性情報が表示されていることがある。そのうえで、含まれる個々の化学物質について、リスク評価実施物質の評価書を調べればよい。
ただし、化学物質のリスクには2種類ある。「化学物質の毒性」と「物性の毒性」だ。安全データシートで確認できるのは前者である。後者のリスクは粒子サイズや形状によって変わる。
香害原因製品からは、450nmの微粒子が排水中に流出している。PM2.5よりも小さく且つ不定形の微粒子が人体に及ぼす影響には、未知の部分がある。
筆者は、「目刺激が少ないかどうか」AndAlso「物性の毒性が少ないかどうか」で判断すればよいと考えている。現在広く発売されている日用品では、前者のリスクが低ければ後者を評価する必要はない(ひとまず低リスクと判断してよい)だろう。
X上には、低リスク製品のリストのみならず、成分表示の見方やそれぞれの化学物質についての解説まで、さらに詳しい情報も流通している。
Grokからも回答を得られる。また、Copilotに尋ねてもよい。
情報を収集し、できるだけ生体リスク・環境リスクの低い製品を使い、健康と視力を維持してください。子どもたちの未来を守り、また、できるだけ長くIT業界で現役を続けられるように。
参考記事
MEDICAL DOC「角膜科学腐食」監修医師:栗原 大智(医師)
関連記事
「日用品公害・香害」目次
「嗅覚センサーを見直そう」目次
「続・嗅覚センサーを見直そう」目次
「6弦のカナリア」目次
上の絵は、Adobe Fireflyで描いています。
Microsoft Copilot と Adobe Firefly も使って描いたイラストを公開しています!掲載済みのイラストは、目次から。