サイズという、複雑な問題。「ナノ」レベルの粒子を、いかに評価すべきか。 ~日用品公害・香害(n)~
安全性の確認された製品で、被害の声が増える不思議。
高残香性柔軟剤、抗菌系合成洗剤、その他除菌・抗菌・消臭目的の日用品や、残香性の理美容品。フレグランス・フリー製品の対極にある、いわゆる「香害の原因となりうる製品」だ。
それらに含まれる化学物質に曝露することで、頭痛・腹痛・喘息などの症状を訴える人が増えている。
当事者たちは、原因をもとめて、メーカーに問い合わせている。雑誌社やテレビ局など複数のメディアも、取材している。だが、その答えはといえば、安全の一点張りだ。
たとえば、2023年8月、NHK「おはよう日本」で紹介された回答は「成分の安全性、最終製品の安全性を確認している」というものであった。詳しくは、NHKのWeb特集を見てほしい。
にもかかわらず、健康問題が生じている。
なぜなのか?
安全性の確認と、症状の発生、このふたつが両立するとしたら......?
現行の安全確認基準に、不足している要素があるのではないだろうか。
時代背景と技術革新に合わせて、評価基準は見直されているのか?
メーカーが主張する安全性。評価の際に、次の5点は、考慮されているのだろうか。
ひとつは、使い方だ。
複数の製品の併用、他社製品の併用。規定量以上の使用や、メーカーが推奨していない柔軟剤スプレーも横行している。一製品の規定量の使用を前提とした評価は、現実と乖離しているのではないか。
次に、場所と時間だ。不特定多数が、長時間滞在し、換気に限界のある、閉鎖空間。たとえば、学校や病院や施設、公共交通機関では、多数の衣類から、多様な製品の成分が拡散する。室温や湿度による影響はあるのか。残留する物質の蓄積はないのか。
3つめは、環境の変化だ。
環境中の化学物質が増加し続けている。医薬品が増え、サプリが増え、加工食品も増えている。一般家庭のガーデニングで薬剤が使われる。人体から排出された物質や雨水で流れた一部の物質は、下水処理場をすり抜け、海洋に流出し、循環する。その水で育つ作物、魚介類が、食卓に並ぶ。これらによる複合汚染は検討されているのか。
4つめは、新技術の問題だ。
代表的な技術に、マイクロカプセルに香料を封じ込めて時間差で放出する「徐放」技術、シクロデキストリン(トウモロコシ糊、これ自体は無害)に悪臭物質を取り込む「包摂」技術、任意の悪臭物質のニオイが到達する前に他のニオイで先回りブロックする「嗅覚制御」技術などがある。健康被害の訴えが増えたのは、マイクロカプセル化技術を使った商品が市場に投入されてからだ。素材が安全でも、使用する技術によって、製品の安全性が変わることはないのか。
そして5つめーーーこれが本稿のテーマであるーーー粒子サイズの問題だ。洗濯した衣類からは、砕ければナノメートルのサイズになる微小な粒子が、環境中に放たれる。それらの粒子を、呼吸とともに取り込み、皮膚に付着させ、飲食物に付着した状態で摂取することになる。微粒子の安全性を評価できるように、基準や確認方法はバージョンアップされているのか。
これら5点を踏まえ、ユーザーの生体リスクだけでなく、ノン・ユーザーの生体リスク、環境中に排出された物質が循環することによる生態系への影響まで、トータルな安全性は確認されているのだろうか?
ナノスケールの定義から外れる、「ナノ」レベルの微粒子。
香料マイクロカプセルのサイズは、1μm~30μm と言われている。(μmはマイクロメートル、1mm=1000μm。 1μm=1000nm、nmはナノメートル)
さらに、香料を放出するために砕けると、「ナノメートル」のレベルのサイズになる。
早稲田大学 大河内研究室がとらえた、洗濯排水中の子カプセルとおぼしき物体のサイズは、0.45μm、450nm。
PM2.5は2.5µm以下、花粉のサイズは約10~30μmだから、PM2.5より1桁、花粉より2桁も小さい粒子になる。
ところが、これほど小さくても、工業用途でのナノマテリアルの定義から見れば、微妙なサイズだ。「NANO SAFETY」によれば、2011年に最初の定義が制定された後、2022年6月10日に、欧州委員会による勧告案が発表されている。見てみよう。
「ナノマテリアル」とは、単体でまたは凝集体や凝集塊の中に存在する固体粒子からなるマテリアルで、個数濃度のサイズ分布でこれらの粒子の50%以上が、次の条件の少なくとも1つを満たすもの。
- 粒子の1つ以上の外形寸法が、1nm〜100nm。
- 粒子が、細長い形状では、2つの外形寸法が1nmより小さく、他が100nmより大きい。
- 粒子が板状の形状では、1つの外形寸法が1nmより小さく、他が100nmより大きい。
この規定に照らし合わせれば、1つの外形寸法が450nmの粒子は、ナノレベルのサイズではあるが、「工業用途でのナノスケールの定義」からは外れることになる。
とはいえ、大気中の動態は、まだ研究されておらず、さらに小さく砕ける可能性は残る。たとえば、外干しの洗濯ものから拡散した粒子が、日光や風雨に晒され続けたら、どの程度まで砕けるのかはわからない。
また、香料マイクロカプセル以外に、環境中に放出されるナノレベルの粒子が、あるのかどうかもわからない。
不明点は多い。しかしながら、花粉よりも小さい、ナノレベルの微粒子が拡散することだけは、たしかである。
サイズが変われば、リスクが変わる。ナノの世界は未知の世界。
サイズが重大な要素であることは、ITエンジニアには、頷ける話だろう。バルクの世界での常識とナノの世界での常識を、マクロな法則(熱力学)とミクロな法則(量子力学)に、置き換えて想像してみればいい。
サイズのレベルが違う世界では、従来の常識では説明不可能なことが起こりうる。
ナノ粒子・ナノマテリアルは、「(バルク状の物質と)化学組成が同じであっても」物理化学的性質が異なる。
そのため、「化学物質の毒性」ではなく、「物性の毒性」を調べて、評価する必要が生じる。
従来のトキシコロジー(毒性学)ではなく、ナノトキシコロジー(ナノ毒性学)という異なる研究領域になる。
粒子サイズが小さくなれば、別の研究領域が必要になるほどの、新たなリスクが浮上するのだ。
わかりやすい資料がある。
独立行政法人 国立環境研究所の研究情報誌「環境儀 No.46 2012年10月号」ナノ粒子・ナノマテリアルの生体への影響 分子サイズにまで小さくなった超微小粒子と整体との反応」(2012年10 月31日発行、編集 国立環境研究所編集委員会)だ。
14ページの簡潔なPDFなので、一読をおすすめする。
Web上でも公開されている。
ナノマテリアルといえば、フラーレンやカーボンナノチューブを思い浮かべる人が多いだろう。それらは産業用途だ。
一般消費財では、化粧品がある。日焼け止めや基礎化粧品に配合されている二酸化チタンや、消臭剤に配合されている銀粒子は、ナノ粒子だ。
「環境儀」では、"天然のナノマテリアル" ともいわれるアスベストと比較するかたちで、ナノの動態が説明されている。
粒子が小さくなるほど、生体に接する個数が増え、表面積が増えるという、リスクがある。さらに、形状も問題だ。アスベストの場合は、繊維という形状が、生体リスクに大きく影響しているという。
そのうえ、通常は吸収後の毒性を調べればよいが、ナノの場合、「粒子の表面が細胞などとの反応の場になっている」。
「化学物質としての」基準では安全であっても、粒子サイズや形状が変われば、生体リスクは変わる可能性があるのだ。
世界標準のガイドラインは、策定されているのか?
リスクが変わるのであれば、ナノ粒子・ナノマテリアルを評価する、国際的な標準のガイドラインが策定されているはずだ。
2000年、ときの米国の政権がナノテクを推進、遅れること数年、わが国では、2004年から推進の動きが活発化した。
そして、前掲の「環境儀」にあるように、2006年度から2011年度まで、5年をかけて研究が行われている。
さらに、経済協力開発機構(OECD) や国際標準化機構(ISO) では、世界標準の安全性試験のガイドライン策定が進められているという。
ところが、ガイドライン策定のベースとなっている研究は、ディーゼルエキゾーストなどの「環境ナノ粒子」と、カーボンナノチューブなどの「工業用ナノ粒子」だ。宇宙開発や先端医療には安全性の担保が必須で、産業用途のガイドライン策定が急務なのは当然だ。
だが、これでは日用品が、宙に浮く。
ナノレベルの粒子が発生する場所は、公道ではなく、一般住宅だ。工業用途ではない。家庭で使われる。いったい、どちらにも分類できるというのだろう。
ディーゼルエキゾーストの長期吸入実験では、「環境ナノ粒子が、鼻腔内の嗅神経を介して脳内に直接輸送される可能性がある」ことがわかってきたという。日用品に含まれる粒子も、吸気により体内に取り込まれるという点は、同じである。
「ナノサイズの粒子は、呼吸器からだけでなく皮膚や消化管からも吸収されやすい性質がある」ともいう。アンダーウェアやタオルに残留した物質は、皮膚に触れてしまう。
最近では、日用品を原因またはトリガとする化学物質過敏症の発症者が増えており、その症状改善には、腸内環境も重要なケースがあると言われている。では、消化管から吸収された物質が、腸内細菌叢に影響する可能性はないのだろうか。
リスクに類似点があるにもかかわらず、拡散する粒子はといえば「工業用途でのナノスケールの定義」からは外れ、日用品に含まれることで、ガイドラインの対象からも外れてしまっているように見受けられるのだが、実際のところは、どうなのだろう?
もし隙間に落ちてしまうのであれば、救い上げる方法が必要ではないだろうか。
業界独自の評価基準は、策定されているのか?
世界標準のガイドライン策定が、進行形であることはわかった。ならば、それを待たずして補う、国内の業界独自基準は、どうか。
基準策定のための研究が一段落したた2011年以降、具体的な動きはあるのだろうか?
Copilotの助けを借りて調べたところ、2020年を目標として検討・策定の予定があったという。ところが、コロナ禍に突入、以降の予定が延期されたようである。
そのため、現時点では、ナノ材料の規制は、いくつかの材料についてのみ進展がみられる、ということらしい。基準策定の対象となっているのは、カーボンブラック、シリカ、二酸化チタン、酸化亜鉛:、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、フラーレンなどだ。
このような状況のなか、独自基準の策定に向けて動いている業界もある。化粧品業界では、酸化チタンや酸化亜鉛について、独自の調査・研究が進行中だという。販売が先行する形ではあるが、その姿勢は評価すべきだろう。
たとえば、多孔質シリカ粒子、シリカ。シリカゲルと同じリクツで、ナノサイズの孔に、物質を取り込んで逃さない。
Copilotに、シリカ自体の安全性について質問したところ、「多孔質シリカは安全であり、体内で消化吸収されないため、誤って食べても中毒の心配はありません」という回答を得た。
ところが、経済産業省の資料を見ると、「ナノマテリアルとしてのリスク評価は実施していない」とある。前後関係が不明で、正確なところはわからない。
おそらくこの問題についても、化粧品業界では何らかの検討がなされているものと考える。
もっとも、評価基準の確立と、評価体制の整備は、別の問題だ。
日用品に関しては、全成分の詳細が開示されているわけではない。企業機密から開示できない部分があるのは当然だ。かといって、ブラックボックスの部分がある状況で、第三者機関が、どこまで評価できるのだろう。
基準が策定されても、正しく評価した結果がすみやかに公開され、スマホから容易に閲覧できるのでなれば、消費者はリスクの軽重を判断しようがない。
「環境儀」には、こう書かれている。「化学物質審査法をはじめとした新規有害物質を規制する法律では、あくまで化学物質として試験する」。「粒径や形状が違うことで新たな規制を受けることはありません。」
「環境儀」は2012年の文書であるから、今では変わっているはずと期待したいところだが、冒頭で紹介した、NHKのWeb特集での厚生労働省の回答は、規制の難しさを裏付けるものとなっている。「家庭用品規制法では、具体的な化学物質の名称を明示して規制してきています。このため、具体的な化学物質の名称ではなく性状を示して家庭用品規制法で規制することは困難」ということである。
メーカー側が主張する安全性。「化学物質の毒性」を評価すれば、安全という答えにはなるのだろう。だが、「物性の毒性」の評価は、どうなのか。産業用途ではない一般消費財であっても、ナノのレベルのサイズの粒子が拡散している以上、できるだけ迅速な、業界独自基準の策定が待たれるであろう。
「粒子サイズ」というリスクを、香りが覆い隠す可能性。
ナノテクの実用化に伴うリスクについて、2000年代初頭、研究者たちは真剣に議論していた。ただし、物材研による2006年の研究報告書「ナノテクノロジーの倫理・社会影響に関する調査研究」を見る限り、日用品への適用は想定されていない。
ところが、その想定外の製品が登場、巧みな宣伝戦略によって、瞬く間に市民権を得た。そうして、妊産婦も乳児もペットまでもが、ナノレベルの粒子を、防護なく、四六時中浴び、吸い込み続けるという、人類史上初の現象が発生している。
拡販が進んだ 2017~2018年は、分水嶺といっていい。その頃から健康被害を訴える声が急増している。
この現象は「香害」と呼ばれ、広辞苑に掲載されるほどの言葉となり、人工香料のリスクが知られるようになった。
もちろん、人工香料は、症状を引き起こす原因のひとつであり、最大の原因にちがいない。なにしろ、無症状の者たちでさえ「強い、きつい」と閉口する香りであって、ヒトを疲弊させるにはじゅうぶんだ。
しかしながら、症状の原因が、香り「だけ」かといえば、断定はできないだろう。
製品の大半には香料が含まれており、症状が生じたときには必ず、香りが漂っていることになる。香りと症状はセットで記憶される。これにより、人工香料のリスクが、サイズのリスクを目隠ししている可能性も考えられるからだ。
ひょっとしたら、原因は、ひとつではなく、次のように三層構造かもしれない。
一層目は、「物性による症状」
ナノレベルの粒子を取り込むことによって生じる症状である。
二艘目は、「化学物質による症状」
厚生労働省「職場のあんぜんサイト」のリスク評価書で確認できる、有害性のある化学物質に曝露することで生じる症状だ。「リスク=化学物質の毒性×曝露曝(摂取量)」であって、リスクが増大すれば症状が出る。
現時点で、有害性の疑いが晴れていない成分は、次のとおり。
マイクロカプセル芯物質(人工香料)、マイクロカプセル壁材の物質(従来は樹脂といわれる)、QUATなど、抗菌・除菌・消臭目的の物質、給食着へのアイロンがけの際に加熱で生成される無臭の物質、マイクロカプセルが吸着する物質、である。
三層目は、「中枢神経感作による症状」
大脳および神経核群のネットワークの活動に起因する症状だ。繰り返し曝露のたびに、カウンタ変数の値が加算されていき、個体の閾値を超えた時点で、化学物質過敏症を発症、微量の物質で症状が出現するようになる。
たとえばプログラムのバグを潰すには原因を突き止めることが先決であるように、製品に問題が生じた時にすべきことは原因を突き止めることだ。
症状の原因が「物質の有害性」にあるとおもっていたら、あるいは「中枢神経感作」にあるとおもっていたら、実は一層目の「粒子サイズ」も原因であった、ということが、ありうるのか否か。
もし粒子サイズが原因のひとつであるならば、香料マイクロカプセルが使われなくなったとしても、ナノレベルの粒子が含まれる限り、症状が出現する可能性は残ることになる。
難しい、バランス。経済発展と環境保全の着地点を探れ。
一消費者である筆者の目には、経済発展と環境保全のバランスが崩れた結果、リスク評価が後回しになっているように映る。
日本版WETに重なって見えてしまうのだ。
すこし話は逸れるが、WETの背景を見ておこう。以下は、Copilotの協力を得て調べた情報だ。
WET(Whole Effluent Toxicity)とは、全排水毒性評価を利用した排水管理手法である、
化学物質のリスクを、個々の物質の同定にもとめるよりも、複合的に判断する方法で、環境省を中心に検討されてきた。
流通する化学物質が激増しているため、有害物質を個別に調査して規制することは現実的でない。時間も費用もかかる。また、新しい化学物質が登場したとき、有害性情報がじゅうぶんに得られない可能性もある。個々の化学物質が無害であっても、反応して有害になる可能性を否定できない。環境中に排出される化学物質の影響は、総合的に評価する必要がある。
そこで、海外の先行事例を追う形で、日本版WETの研究が進められてきた。
独立行政法人国立環境研究所環境リスク研究センター環境リスク研究推進室・鑪迫典久 室長(現・愛媛大学教授)が、日本版WET(Whole Effluent Toxicity)を提唱したのは、2012年。
2014年10月には、「生物応答を用いた排水評価・管理手法の国内外最新動向 ~海外の運用事例から日本版WET導入の動き・対策まで~」という書籍が刊行され、「WETシステム研究会」も設立されている。
2015年11月20日、環境省が、水・土壌について、「生物応答を利用した排水管理手法の活用について」(生物応答を利用した水環境管理手法に関する検討会報告書)に対する意見等を募集。
「生物応答を利用した水環境管理手法に関する検討会」は、「生物応答を利用した排水管理手法の活用について(PDF)」を公開した。その中には、「約5年間にわたって、排水を管理してきた産業界の意見を聞くことなく、非公開で検討を進めてきた。」とある。
当然のことながら、これには経済界が反発。
2016年1月、経団連が、WETを適用する場合の問題点を提示。「生物応答を利用した排水管理手法(WET手法)の活用の再考を求める」を発表した。
環境の研究者と、経済の実務者。どちらかが全面的に正しく、どちらかが全面的に間違っているわけではない。専門が異なれば、視点も異なる。なにより、報酬系と美意識が異なる。
研究者たちは遠い先まで保全される生態系に「調和したエレガントな世界」を見いだし、経済界は豊富な物質と絶え間ない物流に「ヒトがリードする豊かな人間社会」を見ているのかもしれない。
長期報酬の者と、短期報酬系の者との意見交換は平行線になりがちだ。未来のどの時点での利益を最大化するのか、評価する時間が異なるからだ。遠い未来なのか。すこし先なのか、今なのか。損して得をとるのか、目先の利益をとるのか。依って立つ時間の長さが違えば、答えは異なる。
この後、日本版WETは、どうなったのか。
公開されている情報では、目立った活動は見当たらなかった。Copilotも、有効な情報を探せ出せていない。
WET推進の研究者であった鑪迫典久室長が、愛媛大学に着任したことが理由なのかもしれないし、それは関係ないのかもしれない。筆者にはわからない。
愛媛大学は、70年代から、故・立川凉教授(JEPA - ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議 創設者)を中心に環境問題の研究が進められ、今では沿岸海洋環境研究では世界最先端、とくにマイクロプラスチック問題の研究者が集結している。鑪迫教授は、昨年度まで、「マイクロカプセルを介した化学物質の新たな環境動態の解明と評価」について研究を進めていた。最終年度の報告書の公開が待たれるところだ。
ナノトキシコロジーは、歩みを緩めた日本版WETの轍を踏まず、加速度を付けて突き進んでほしいものである。
経済が傾けば、研究費の助成は縮小し、採択は狭き門となる。かといって、経済発展に振り切れば、環境汚染が進み、雇用者の健康が悪化して、人手不足に陥る。困ったことに、香害を原因またはトリガとする化学物質過敏症は、徐々に悪化して重くなるのではなく、ある時突然発症するという。つまり、引継ぎをする時間的余裕すらない状況になる。花粉症なみに発症者が増えたときには、AIやロボットや外国人労働者で補うことなど不可能になるだろう。
経済発展と環境保全、技術進化と自然回帰。二項対立のにらみ合いが続く間も、ナノレベルの粒子は環境中に排出され続ける。永遠の綱引きは、疲弊しか生まない。
日用品業界は、両者を相反するものとしてではなく、両輪として捉え、着地点を探ってもらえないだろうか。目指すべきは、バランス。必要なのは、対立と分断ではなく、問題を乗り越えるアイデアを出し合うことだろう。
ナノテク推進は、人類の生存のために。ガイドライン策定が急務。
筆者はナノテクの推進自体を否定しているわけではない。分野は異なるが技術者であり、研究開発の必要性は理解している。
ただし、研究開発と、技術適用には、異なる姿勢で臨むべき、という考えを持っている。研究開発は大胆に、実用化は慎重に!!
ナノテクをベースとする先端技術は「人類の存続」のためには必須であり、その目的で使われるべきだ。
だが、洗濯に関してはーーー石けんがある、従来の粉洗剤もある。清潔な生活を維持できる。何も不足しているものはない。新たな製品がなくとも、われわれは生きていける。違うだろうか?
趣味の要素の強い日用品に、これ以上の革新的な技術適用は必要だろうか。もし必要だと判断するのであれば、ガイドラインの策定は必須であろう。
未知の新しい技術ほど、適用先を間違えれば、その代償は大きい。
ナノの世界では、何が起こるかわからない。現在の技術では、ナノ粒子の捕集も追跡も不可能だ。
全国の家庭から、どの程度のサイズの粒子が、どれだけ、環境中に排出されているのか。
後追いのルール化が遅れるほど、リスクは増えていく。
製品から拡散する粒子サイズの特定と動態の解明を、今すぐに。
ナノトキシコロジーの研究を、ガイドライン策定を、急げ。
※参考資料
(斜め読みのものもあり、整理できていませんが、記事の公開を優先します)
厚生労働省「ナノマテリアルについて」ナノマテリアルの定義についての説明。
国立環境研究所 研究者に聞く!!Interview
「環境リスク研究センター・健康リスク研究室室長 平野靖史郎と健康リスク研究室のメンバー」2012年10月31日
クリエイティブ・コモンズ、オープン・アクセス論文。Xで流れてきたポストで知った。NPO法人 市民権 市民科学研究室が公開している訳文。
「翻訳論文 ナノ粒子:健康リスクについて分かっていること分かっていないこと」PDF
投稿者: csij、2007年2月1日、解題と翻訳は、藤田康元氏。
原文は「Peter HM Hoet, Irene Brüske-Hohlfeld and Oleg V Salata "Nanoparticle-known and unknown health risks" Journal of Nanobiotechnology, 2:12, 2004」
ナノのリスクは、粒子の径だけの問題ではなく、粒子の表面積が大きいほど危険で、いびつな形状や長い形状では危険性が増すことが、詳しく説明されている。さらに、中枢神経に影響する可能性についても触れられている。
どの種類のナノ粒子が、どのような影響を及ぼすのか。未知数であるから、まずはデータベース化して、トータルで対応しなければならないと、結論付けている。
NANO SAFETY ウェブサイト
「ナノ物体の有害性評価手法に関する国際標準化」(2016年6月7日)環境省
Nanosafety Xアカウント
(ネット上で流通している文書)内閣府 ナノテクノロジー・材料基盤技術分科会の資料「NEDOプロジェクトにおけるナノ安全性評価の取組」PDF
ナノ材料のリスク評価手法の構築 2006~2010年度 NEDO 委託「ナノ粒子特性評価手法の研究開発」PDF
2006~2010年度でリスク評価の対象となっているものは、カーボンナノチューブ(CNT)、二酸化チタン(TiO2)、フラーレン(C60)、つまり工業用途の素材。一般消費財とは無関係。
(ネット上で流通している文書)「ナノマテリアルのリスク評価手法における留意点等について(第1回検討会における主要な御意見) 」PDF、厚生労働省
「毒性試験と評価に関する新たな課題へのアプローチ 厚生労働科学ナノマテリアル研究の展開」PDF、国立医薬品食品衛生研究所 毒性部 菅野 純
「吸入全身暴露を基軸としたナノ材料の毒性評価体系の構築とMWCNTからの知見 」PDF、国立医薬品食品衛生研究所・安全性生物試験研究センター・毒性部 菅野 純
「ナノ材料の有害性情報について(素案) 」PDF、環境省、平成20年度 ナノ材料環境影響基礎調査検討会 第2回 (2008. 8. 6) 資料2
「ナノマテリアルの毒性評価」PDF、国立医薬品食品衛生研究所・安全性生物試験研究センター・毒性部 菅野 純
「新素材の安全性評価:ナノマテリアルの吸入毒性試験」PDF、国立医薬品食品衛生研究所
「ナノオブジェクト固有の細胞毒性を評価するための手順を定めたISO 19337:2023が発行-ナノオブジェクトの適正な利用促進に期待-」産総研(2023年8月8日)
(Xの相互さんにご教示いただいた、化学物質過敏症を中枢神経感作症候群とする情報)厚生労働科学研究成果データベース (MHLW GRANTS SYSTEM)「種々の症状を呈する難治性疾患における中枢神経感作の役割の解明と患者ケアの向上を目指した複数疾患領域統合多施設共同疫学研究」令和2(2020)年度、小橋 元(獨協医科大学 医学部)
鑪迫教授の国立環境研時代の、日本版WET提唱の記事
「研究者に聞く!!環境リスク研究センター環境曝露計測研究室 主任研究員」国立研究開発法人 国立環境研究所
「生態影響評価におけるWET 特集 生態リスク【環境問題基礎知識】」国立環境研 鑪迫典久・現愛大教授、国立研究開発法人 国立環境研究所、生態影響評価におけるWET (2012年度 31巻4号)2012年10月31日
「生物応答を用いた排水評価・管理手法の国内外最新動向 ~海外の運用事例から日本版WET導入の動き・対策まで~」2014年10月、(株)技術情報協会、(発行所:エヌ・ティー・エス)。
(株)技術情報協会のウェブサイトから目次を見ることができる
国立環境研究所のウェブサイトにサマリーがある。「化学物質の内分泌かく乱作用の対応と生物応答手法を活用した排水管理のシステム」
「WETシステム研究会」ウェブサイト
WETについて、わかりやすい説明がある。
「生物応答を利用した排水管理手法の活用について(PDF)」生物応答を利用した水環境管理手法に関する検討会、2015年11月
「生物応答を利用した排水管理手法(WET手法)の活用の再考を求める」経団連、2016年1月
WETを捕捉する情報。厚生労働省「予防的な取組方法に関する国内外の考え方」PDF。
検索で発見したものであり、どの部署が作成し、いつ、どこで配布されたかは不明。
CAS(Chemical Abstracts Service)登録システム ウェブサイト
「合成香料を内包したマイクロカプセルが水界生態系に与える影響の検証」(2017年6月30日~2020年3月31日)研究代表者:東京大学 山室真澄教授、研究分担者:愛媛大学 鑪迫典久教授」
「マイクロカプセルを介した化学物質の新たな環境動態の解明と評価(2019~2024年度)研究代表者:鑪迫典久教授。
寺崎 正紀 岩手大学, 山岸 隆博 国立研究開発法人国立環境研究所, 堀江 好文 神戸大学, 山室 真澄 東京大学, 石橋 弘志 愛媛大学, 山本 裕史 国立研究開発法人国立環境研究所。
マイクロカプセル(MC)の水環境中での拡散・環境動態および水生生物に与える影響。マイクロカプセル化した場合としない場合とでの生物影響の差を調べる。
今年3月の最終報告書はまだ公開されていないが、昨年度版は公開されている。乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)をMCの基材とし分散剤としてPVA。芯物質は、農薬、香料、ホルモン剤。
「合成した香料(リナロール)を包埋したMCを用いて、ミジンコの毒性試験をおこなったところ、ミジンコはカプセルを摂取しカプセルによる毒性影響が検出された。空のカプセルでは影響がなかったため、カプセルに包埋された成分の影響であることが分かった。」海洋中では、マイクロカプセル自体の毒性というよりも、カプセルに守られることによって芯物質が海洋生物に摂取されやすい、吸着しやすいなどの問題がある。壁材については、大気中のほうが影響は甚大とみられる。
予防原則についてわかりやすいドキュメント。10ページほどなので、ぜひ一読を。
「リスク社会と環境法」大塚直
ライブドアニュース【理解求める】「香害」対応求める約9000の署名 メーカー各社「安全性確認している
大気中マイクロカプセルの「樹脂製の壁材に特化した」研究。
認定NPO法人 高木仁三郎市民科学基金
「柔軟剤や洗剤等の家庭用品から放散される微小粒子状物質の定性分析」研究代表者 山本海 、202年5月。
化粧品などに使われるシリカの研究。J-STAGE 宝庫億書「ナノマテリアルの安全性確保に向けて:非晶質ナノシリカの生殖発生への影響に関する基礎評価」第37回日本トキシコロジー学会学術年会
シリカのマイクロカプセル 産総研TODAY 2017-03 「ナノ物体の有害性評価手法に関する国際標準化」(PDF)
「シリカのナノマテリアル情報提供シート」(PDF、18ページ)、経産省
化粧品成分オンライン(Web)「シリカ」
ナノというよりは、シリカ自体について。
ナノサイズかどうかは問わず、QUATの生体リスク。
第36回日本トキシコロジー学会学術年会
「4級アンモニウム化合物(QUAT)のマウスの免疫系に及ぼす影響」山口 敦美, 藤谷 知子, 大橋 則雄, 中江 大, 小縣 昭夫。
「化学物質過敏症・対策情報センター」のポストによれば、カナダでは、「規制・禁止するのではなく、方針を打ち出す」という。
「マイクロカプセル香害」古庄弘枝著、ジャパンマシニスト社、2019年刊」P.160~
「内田さんがナノサイズの危険性を真剣に警告するのは、かつて彼自身が「世界初ナノ粒子吸入デバイスの開発」に携わっていたからです。その開発に関わったからこそ、ナノ粒子を体内に入れる危険性も熟知していました。~略~内田さんはナノ粒子が生体に組み入れられた場合、いかに危険かということを訴えました。」
nite GHS表示のための消費者清貧のリスク評価手法のガイダンス「曝露量の求め方とリスク評価事例」(PDF)
「事業者のみなさんへ 化学物質のリスク評価のためのガイドブック 実践編」環境中へ排出された化学物質が 人の健康や環境中の生物に与える影響を考えよう、2007年5月 、経済産業省製造産業局化学物質管理課
「溶液を混ぜるだけ。水からナノプラスチックを98%以上除去できる新技術」GIZMODE、2024.09.04 Kenji P. Miyajima
「曝露チャンバーを用いた野外環境でのPM2.5の植物影響評価とその植物種間差の解明」
長崎大学。M2.5のサイズでも影響はあるかもしれません。
早稲田大学 大河内研究室 環境化学
早稲田大学 創造理工学部 環境資源工学科 大気・水圏環境化学研究室。
※タイトル画像はイメージです。Copilot(Microsoft Edge / Designer の Image Creator」)で描いた、AIイラストです。