AIに要約させれば読書は不要なのか?あるいはヤバイぞアンテナの実装方法
先日「本を読めなくなった人たち」という本について、著者が語る動画を、ランニングしながら「ながら聞き」した。
そう。これまで多くの本を読み、自分でも書いている僕ですら、実際に本を読まずに、Youtubeで済ませてしまう様になってしまった。本を読むという習慣は、急速に廃れているのだ。
a)コスパが悪い(投入時間が異様に大きい)
b)運転しながら、作業しながら、運動しながら読書はできない
c)生成AIで代替できる
などが主な理由だろう。
個人的にはこの5年、b)の影響が大きい。二拠点生活を始めたので、高速道路の移動とか、薪割りとか、そういう時にポッドキャストやYoutubeを聞くことが増えたので。
聞くだけでなく、ポッドキャストも始めてしまった。26年3月時点で18回も公開している。
なぜポッドキャストを始めようと思ったのか?あるいはメディアの相性問題
https://blogs.itmedia.co.jp/magic/2025/07/post_145.html
ところで。
先日、僕の7冊目の本「プロジェクトを失敗させる55の罠」のゲラチェクをしていたのだが、最後のページになんと「476」と書いてあった。これまで出した本、例えば「システムを作らせる技術」なども厚い本だが、それでもたったの385ページしかないというのに・・。
ほとんどの人が本なんか読まない時代に、500ページ近くある本を出版しようとしている。明らかに時代に逆行している。誰が買ってくれるのだろうか・・。そして買ったはいいけど、読み通してくださる方はいるのだろうか・・。
とはいえ2年分の情熱を注いで本を書いているのだから、僕自身は流石に「本のちから」みたいなものを信じている。
以前、「システムを作らせる技術」を執筆にも、ブログでそれを力説した。
「本の出番、あるいはWeb検索を使って物事を深く理解することの困難性について」
https://blogs.itmedia.co.jp/magic/2020/01/web_1.html
このブログを(ChatGPTの代わりに)3行で要約すると、
・1冊の本は、一貫した観点、一貫したオピニオン、一貫した言葉遣いのもとで書かれ、それをまるっと読者に提供すべき
・なぜならこのインターネット時代に、わざわざ「本というフォーマット」で情報を届ける意義がそれしかないから
・一貫した観点で書かれている本を読むことで、テーマについて考察を深めることができる
という感じだろうか。
検索でヒットした記事を5,6個読んでいっても、それぞれ話の前提や言葉の定義が違っているので混乱するばかりで、理解は深まらない。だから本を読むのは大事だよね、というのが僕の主張だ。
この記事を書いた後に生成AIが登場した。
多くの人が実感している様に、生成AIに質問すると、上記の「いろんな人が勝手なことを書き散らしているので、理解が深まらない」という現象はほぼ起こらない。複数の記事を生成AIがいい感じにまとめ、「ざっくりいうと、こんな感じだよね」を提供してくれるからだ。ざっくりまとめることで厳密さは削がれるのだが、そもそも人間の読解力は完璧ではないので、案外こちらのほうが正しい理解に近づきやすかったりする。
我ながら結構いいこと言ったブログだな、と書いた当初は思ったのに、もう時代遅れになってしまった。
では、ついに500ページもある本を読むことに意味がない時代になったのか?
とんでもなくコスパが悪い、非現代的行動でしかないのか?
「本のちから原理主義者」としては、悪あがき的に反論を試みたい。
つまり、
「プロジェクトを失敗させる55の罠」を生成AIに要約させたものを読むよりも、500ページ読み込んだ方があなたにとってためになる。
という説得を試みたい。
まず「プロジェクトを失敗させる55の罠」を生成AIに読み込ませ、10分で読める分量に要約したコンテンツとは、どんなものだろうか?
それは間違いなく、「55の罠について一つ100字程度でまとめた文章群」になるだろう。
例えばこんな感じだ。
罠11:コンサルタント選びに失敗
コンサルティングサービスは高価な割に納品物が曖昧で、価値が事後的にしかわからない。そのため選定も手探り。
能力が低かったり、自社に合わないコンサルタントを選んでしまうと変革の推進力にならない。
これを55個読むだけなら、10分程度しかかからない。本を1冊読み通さなくても、プロジェクトを成功率させるのに役立ちそうだ。
とはいえ、皆さんはこんなことしなくていいです。
生成AIに本を読み込ませるには、わざわざ買って、裁断して、自炊しないといけない。お金もかかるし、めんどくさい。
そんなことをせずに、出版日前後に上記のコンテンツはこのブログに無償で載せるつもりだ。
※ちなみに、55の罠をそれぞれ100字以内に要約させる仕事は、比較的生成AIが得意なはずだが、実際にやらせてみたら文章があまりうまくなかったので、結局僕がコツコツ手で要約した。
で、この著者謹製の100字要約を読んだら、本を3000円くらいで買って、長い時間を使う必要はない、と思います?
僕はそうは思わないし、100字要約なんかでは得られない価値を提供できる自信があるからこそ、要約くらいはブログにタダで載せてもいいか、と判断している。
★本でしか得られないこと(知識編)
まず当然だが、本を読めばプロジェクトを失敗させる罠について、ずっと詳しくなる(解像度高く理解できる)。
今回の本はすべての罠について、
・どんな罠か?
・もう少し詳しく
・なぜこんなことが?
・対処法
・もう少し深堀りすると?
という構成になっている。100字の要約を読んだだけだと、「なんでこんなバカなことが起きちゃうの?」は全然分からないだろうから、詳しく理解することは大事なこと。
★本でしか得られないこと(アンテナ編)
とはいえ残念なお知らせなのだが、プロジェクトを失敗させる罠は、知っただけでは防げない。
ベトナム戦争でアメリカ兵を悩ませた本物の罠になぞらえて説明してみよう。

きっとアメリカ兵も教室で「ベトナム解放戦線の連中が、ジャングルにこんな罠を仕掛ける」と教わったはずだ。だがそれを知ったからといって、罠にはハマってしまう。そうじゃないと罠にならない。怖いですね。
大切なのは知識ではなく、「罠の気配を察知する能力」なのだ。
これを僕は(罠を察知する)アンテナと呼んでいる。アンテナを磨く必要がある。
今のところ、アンテナの磨き方はあまり確立されていない。強いて言えば「エピソードの共有」が有効だと思う。優れたプロジェクトマネージャーはみなこのアンテナを実装しているが、彼らは自分の過去の経験や、飲み会で聞いた他プロジェクトの話などを蓄積している。
その際、大事なのは「コンサルタント選びに失敗すると大変だよね」という薄っぺらい話ではなく、「こういう経緯でコンサルタントを決めて失敗した」とか「ちゃんとコンペで各社にプレゼンしてもらったのに、実際に来た人は微妙だった」といった、ストーリーというか、詳しめのエピソードだ。そこまで共有すると、後に似た状況に陥りそうになった時に「あ、これ、いつか聞いたヤバイ状況だ」とアンテナが反応する。
だから今回の本では55の罠それぞれについて、生々しいエピソードを結構盛り込んだ。割合としては同僚が前職で経験したヤバイプロジェクトの話が多いのだが、著者である僕のやらかしも、もちろんたくさんある。例えば、
・なんと見積りが5倍にブレた
・稼働の3ヶ月前に遅延が発覚してしまった
みたいな、大変お恥ずかしい、でもプロジェクトで仕事をしている人なら誰もが経験するような話だ。
他にも、「罠04 理想論で突き進む」みたいな、少し分かりにくい罠の場合、
・すべての事業を統一プラットフォーム上で管理したい
・営業の行動をすべて記録し、売れる営業の特性を見出したい
のような壮大な理想を掲げて突き進み、徐々にその理想に懐疑的になっていくが、言い出しっぺのビジョナリー(得てして役員)に相談しても論破されて黙っていくメンバー。それでもどうにも理想と現実のギャップを埋められない。理想論を掲げたプロジェクトは自然と投資額が大きくなりがちなので、最後には壮大な爆死を迎える・・。
みたいな生々しい話も載せた。
ここまで染み込ませるような読書体験をして始めて、アンテナが磨かれるのだ。
100字の要約だけ読んで、罠にハマった後に「そう言えば、注意しろと要約に書いてあったな」とか思っても全く意味がない。
★近視眼的なコスパ、タイパ
そもそも、コスパ、タイパをうるさく言うなら、最大のコスパはプロジェクトを失敗させないこと。
・10分で要約を読んで、失敗を防げない
vs
・500ページを舐めるように読んで、失敗を防ぐ確率が少し上がる
だったら、後者のほうがコスパいいに決まっているだろう。
(プロジェクトの失敗は、会社に何億円もの損害を与えるし、辛く無駄な時間が大量に発生するから。失敗を防いで直接的に得をするのは社員ではなくて会社だが、アンテナを実装している優秀なプロジェクトマネージャーの市場価値はものすごく高い)
なんかこれに限らず、コスパ、タイパを気にする人って、
「確かにあなたが言う方法はコスパ、タイパが良さそうだ。ただしあなたが見えている範囲に限ればな」
ということが多いんだよな・・。
本なんて、読み終わる前と後で、「どういう状態をパフォーマンスが高いと考えるか?」という考え方自体が変わってしまうことすらあるのに。
具体的には
「Excelのショートカットキーを覚えたので、生産性が10%上がった!」
⇒
あなたの言う生産性って、Excelの表作りが100分でできるか、90分でできるか、という話でしかないよね。実際に大事なのは、そのExcelからどういう洞察を導いてビジネスに活かすかだし、それに比べるとあなたの10分なんて誤差でしかない・・。
みたいな感じ。
★どうせ読書に生成AIを使うなら
以上が
「プロジェクトを失敗させる55の罠」を生成AIに要約させたものを読むよりも、500ページを熟読した方があなたにとってためになる。
という命題への僕なりの回答だ。つまり「少なくとも55の罠に限っては、しっかり読んだほうがお得だと思うよ」という話。
ところで、どうせ読書に生成AIを使うなら、読んだ後に問答に付き合ってもらうといい。
僕の本を全部読み込ませなかったとしても、彼らはプロジェクト活動については色々と知識を蓄えているので、
「こないだ読んだ本にこんなことが書いてあったけど、ウチの会社の場合はさあ・・」
とか
「本に書いてある対策があまりピンとこなかったけど、もっとないの?」
とか
「いまの状況、この罠に該当するかな?」
とか、
問いを投げると、議論に付き合ってくれます。
生成AIはハルシネーションがつきものだけど、こういう議論には正解がないので、むしろ「色んな角度から議論することで、自分の理解が深まる」という効果のほうが大きいし、それは結局アンテナの実装に直結する。
本来は著者である僕と議論するのが一番効果的だけど、それも大変だしね(僕が)。
********関連過去記事
古いブログ過ぎて紹介するのが少し恥ずかしい。
でも2011年のブログを改めて読んだけど、とても大事な話だし、「プロジェクトを失敗させる55の罠」は、ここに書かれた僕の問題認識への15年ぶりの回答のような気がしてきた。
ヤバイぞアンテナ(1) あるいは僕の職業的カン
https://blogs.itmedia.co.jp/magic/2011/02/1-d39c.html
ヤバイぞアンテナ(2) あるいは僕が不吉な予言者になったわけ
https://blogs.itmedia.co.jp/magic/2011/02/2-18b4.html