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ヤバイぞアンテナ(1) あるいは僕の職業的カン

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★プロに必須のコンピテンシー
何かを見たり聞いたりした瞬間、「ヤバッ」と思えること。これはどんな領域であれ、プロフェッショナルとして成果を出すためにはとても大事な能力。
例えばマルコム・グラッドウェルは『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』で、火事場に足を踏み入れた瞬間に違和感を感じ、部下を待避させたベテラン消防士の例を紹介している。マンガの世界のプロフェッショナルだって、「なんか怪しい感じがぷんぷん臭うぜ」(ルパンの場合)とか「ムッ」(ゴルゴの場合)とか言って、ピンチを未然に防ぐことはよくあった。
(と思う。もう20年前ですからね、最後に見たのは)

プロジェクトの世界でも、もちろん大事。自分のこういう専門家的カンを僕は「ヤバイぞアンテナ」と呼んでいる。
直感の世界だから、説明は難しい。ただ分かるのだ。プロジェクトがヤバイ状況になっている、ということが。

最近アンテナが反応した状況を挙げてみる。
・「今はお見せできません」「いや、スケジュール上では、もうこれ出来ていますよね。ちょっと見せるだけならすぐ出来ますよね?」
・「その件はあっちのチームがやっていることなんで、よく分かりません」「そりゃそうだけど、あなたの仕事って、それを知らないと出来なくない?」
・「あのベンダーさんたち、同じ仕事を他社で何度も経験したことがあるっていてたけれど」「だったら、絶対こういうミスはしないはず。」「ですよね~。だとすると・・」

ヤバイですね。明らかに。僕らの知らないところに、何かヤバイもの、ヤバイことがある。
その正体は、品質の悪い成果物だったり、コミュニケーション不全だったり、嘘つきだったり、色々だけれども、プロジェクトにとってよくないことなのは間違いがない。

★ヤバイぞアンテナとは何か
つまりヤバイぞアンテナとは、
「他の人がやっている仕事がうまくいきそうにない場合、内容について良く知らなくても、ヤバイことを知らせてくれる脳内アンテナ」
のことである。

プロジェクトの状況が正常なのか、不健全なのか。これはプロジェクト管理上、重大な情報である。そして本来は、出来る限りFactを元に判断を下すのが原則だ。
「○○については、今日の時点で××な状態であるべき。でも今は△△で・・」といった具合に。
でも、大規模なプロジェクトになってくると、そういうFactを常に入手できるとは限らない。そのとき「Factをつかんでいないから、無責任なことは何も言わない」だと、結局失敗は防げない。
冒頭の例だって、火事場で「Factをつかんでいないから待避しなくてよし」と言っていたらチームは全員焼け死んでしまっただろう。
だから「Factはつかんでいないけど、ヤバイ感じがする。本当かどうか、ちゃんと調べよう」という姿勢は絶対に必要。プロジェクトでも火事になる前に行動しないと。

ヤバイぞアンテナを一番必要としているのは、大規模プロジェクトのプロジェクトマネージャー(PMOチーム)なんじゃないだろうか。
各チームが何をやっていて、どんな状況かは100%把握できない。そもそも日本じゃなくて中国にチームがあることもあるわけだし。そんなケースでも「プロジェクトが全体としてうまくいき、成功すること」は担保しなければならない。だとしたら、どうしてもアンテナに頼る部分は大きくなる。

近年のプロジェクトはどんどん混成部隊の寄せ集めになっている。業務担当者、IT部門、ベンダー、コンサルタント、また別の業務部門・・。こういう時、自分がプロジェクト全体を統括する立場じゃなかったとしても、「隣のチーム、やばいんじゃない?」とヤバイぞアンテナが反応したならば、スルーしてはいけない。
責任は自分じゃなくて、よそのチームにある。だから口出ししにくいのだけれども、スルーするとプロジェクト全体が失敗することには変わりない。
自分が参加したプロジェクトが、他の人の責任だったとしても、失敗したらイヤでしょ?

★アンテナは何に反応しているのか?
多分、これまでの経験(特に失敗経験)と現状を照らして、違和感を感じるんでしょうね。だから経験を積むのが大事、本などで擬似的に経験するのが大事、とよく言われる訳です。
じゃあさらに深堀りして、現状のどんなことに反応しているのか?
これを言語化するのは難しい。まさに暗黙知の最たるものなので。でも、無理矢理やってみましょう。

1)ずれ(本音と建て前のずれ)
例)かたくなに「順調です。」「できます」としか言わない
例)「業務担当者が打ち合わせに参加できないなら、出来ないなりにやります」

2)ずれ(人と人との間のずれ)
例)「○○じゃなかったっけ?」「知ってた?」という会話が多め
例)Aさんが言っていることが以前と今で違っていて、それに気付いていない

3)本来あるべきものがない
別に、僕が欲しい訳じゃないんですよ。「なしであなたがやっていけているのが不思議。たぶんやっていけていないでしょ?」ということ。
例)検討の鍵となる一覧(業務を変更する際に影響を受ける事業所の社員のリストなど)
例)データベース設計書やテストシナリオなど

4)変な要求
例)今回の取り組みを「改革」とか「プロジェクト」と呼ばないでください
例)「この作業は、ユーザーには内緒でやってください」「あの人を会議に呼んでもムダです」

挙げていけばもっとあるでしょうけど、とりあえずこの辺でやめておきます。
こういった状況がある時って、もっと大事な問題がその裏にあることがほとんどなんですよね。だから、目の前の現象だけ対処しても、また困ったことはおきてしまう。抜本対策が必要。多分続きます。

まとめ。
ヤバイぞアンテナを磨こう。それはあなたとあなたのプロジェクトが生き延びるために必要な能力です。今日はここまで。

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