オルタナティブ・ブログ > プロジェクトマジック >

あるいはファシリテーションが得意なコンサルタントによるノウハウとか失敗とか教訓とか

プレゼンにおける具体と抽象の往復論、あるいは偉い人攻略法

»

ケンブリッジの社内トレーニングで
「プロジェクト計画を作り、投資決裁を得るために役員にプレゼンする」
という演習がある。
変革ポイントを見い出し、必要性を分かりやすく示すのは大変難しい。だがそれが出来ないとコンサルタントとしては半人前なので、入社4年目くらいの社員にみっちり仕込むのだ。演習やる側も大変そう。


そのプレゼンを聞いてフィードバックしたことが、結構本質的だと思うので、ブログに書き溜めておこう。

言いたいことを簡潔に言うと、こうなる。

・偉い人にプレゼンする時に、些末な事象をたくさん投げつけても興味がないから聞いてくれない
・かといって抽象的な言葉をパワポに書きつけると、「日本語として意味は分かるが、ピンとこない」が起こる
・ピンとこないので、行動に移さない。それではプレゼンは失敗
・だから「抽象的な言葉で頭で理解してもらうが、聞く人に刺さる特定の具体で補足する」という作戦しかない

これを読んでも「日本語として意味は分かるが、ピンとこない」だろうから、もう少し丁寧に書いていこう。


「御社の課題は営業活動において、PDCAが回っていないことです」
「その理由はデータ活用の不足です」
みたいなプレゼン資料、コンサルタントならば誰でも書いたことがあると思う。コンサルタントじゃなくても、会社の課題に向き合っている人なら、こういう話をしたことがあるんじゃないかな。

でもこれを聞いた偉い人は(下々の想像以上に)現場をイメージできない。
だから「PDCAが回っていないことです」と言われると、
・まあ、そりゃあ良くないよな
・PDCAは、回らないより回ったほうがいいよな
・回るようにしてくれよ
・とはいえ、それをやるための投資が2000万もかかるなら、承認できんな
みたいになる。


以前のブログ(無視されるビジョン、あるいは飾り物のプロジェクトゴールの特徴5個)で、「空虚で実態のない言葉でプロジェクトゴールを書いても役に立たない」と書いた。
だが同じ話は、プロジェクトゴールという大事な局面だけでなく、今書いているような、日常でもよく発生している。
「PDCAが回っていない」とだけ言われても、空虚な言葉に聞こえてしまうのだ。

一方で課題意識を持っている人は、これらの主張を裏付ける多くのFactを抱えている。そしてPDCAが回っていないことの弊害も日々実感している。偉い人の認知とはかなりギャップがある。だから偉い人に問題を訴えて、相手が行動を起こさないのを理不尽だと思う。「だって、日々こんなに被害が出ているのですよ!なんでそれが分からないんですか!」と。
役員クラスと一般社員のコミュニケーションギャップの原因はほぼこれなのではないか。。


これを防ぐ方法は、多分一つしかない。
聞く人に刺さる特定の具体で補足することだ。
例えば上記の「営業活動においてPDCAが回っていない」の場合、
「新製品発売後の売上と返品の情報が、1ヶ月後にしか入手できません。そこからテコ入れしようとしても、もうその頃には"終わった製品"になってしまっています。これでは遅いんです」
と、もう一歩だけ具体的な情報を添えていたら、もしかしたら「確かに、それは話にならん!」と思ってくれたかもしれない。もし相手の役員さんが、かつて営業の第一線で駆けずり回っていた方ならば。


この方法が難しいのは、「抽象に添える具体的な事例は1つしか許されないので、それ一発で必ず刺さなければならない」ということだ。
皆さんも、偉い人に些末なことをダラダラと話してしまって「で、何がいいたいの?」みたいなことを言われてしまった経験があると思う。これはそのとおり。偉い人は具体的過ぎる、些末なことに興味はない。
だから抽象的な(空虚な)言葉だけで話さないといけないと思っている人が多い。でも僕の経験では、1回までは許される。
その1回で必ず「え?そうなの?PDCAが回っていないって、そういうこと?」まで持っていかなければならない。

もう一つ、難しいことがある。それは「どの具体が刺さるかは、人によって全然違う」ということだ。「売上情報の入手が1ヶ月後」という上記の例だって、「ふーん。だから?」という人もいるだろう。つまり、人によって、何で刺すかは選ばなければならないし、時には顔色を見てその場で変えたりする。


この話、ここまでPDCAを例に説明したけど、どんな話でも同じ。

★伝えたい抽象:
ノウハウを言語化し、部下に指導するための言語化スキルが重要
★刺すための具体:
例えば、案件査定ってボーッと見ててもダメで。見るポイントがあります。それを10項目くらいに整理してマニュアルに書けないと、指導にならない。でもそれが出来ないから、いつまで経っても「査定はこの人しか出来ない」のままなのです

とか。もう少し端的に表現した方が刺さりやすいけど、難しいよね。


ということで、最初に書いたことをもう一度繰り返して終わる。

・偉い人に、具体的過ぎることをダラダラ話しても聞いてもらえない
・かといって抽象的な空虚な言葉を並べてもピンときてもらえない
・なので、抽象的なことを伝え、1回だけ「それって例えばこんな状況です。ご存知でした?」で刺す

これしかないのではないか。

*****************新刊情報
新刊「プロジェクトを失敗させる55の罠」は9月くらいにいったん書き終わりました。
その頃に出版チームを組成(編集さん、デザイナーさん、イラストレーターさん、校正さん、著者白川)。
いまはゲラチェック1回目が終わって、修正を待っているところ。
本ができるまでのリードタイムは出版社によっても違うんだろうけど、僕の場合はだいたいこんな感じ。
・構想:数年
・ネタ集め:6,7ヶ月
・執筆:1年(兼業作家でなければもっとずっと早いと思うけど)
・デザイン、校正:6,7ヶ月

最初の目標は2月発売だったけど、いまの感じだと4月かなー。

Comment(0)