プロジェクト計画の法則、あるいはなぜ人は最初に決めた納期や予算に縛られてしまうのか?
来年の1月ごろに出版される「プロジェクトを失敗させる55の罠」をいったん全て書き終え、いまはコツコツと推敲をしているところだ。
その中の「罠21 最初に決めた納期に縛られる」を読み返していたら、我ながらとても大事なこと、その割にほとんど言っている人がいないことがサラリと書いてあったので、ブログでも紹介しよう。
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一度決めた納期に縛られて、硬直的なプロジェクトにしてしまい、プロジェクト全体が失敗へと進んでいく。
こんなことが起きてしまうのは、以下の「プロジェクト計画の法則」を理解していない人が多いからではないか。
プロジェクト計画の法則
1)プロジェクト期間のなかで、開始時点はプロジェクトについての情報がもっとも少なく、進むにつれて情報は徐々に豊富になる。
2)従って開始時点で立案した将来計画は、それ以降に立てた計画に比べて妥当ではない確率が高い。
3)従ってプロジェクトの進捗につれ、得られた情報を加味して計画を見直す必要がある。
4)計画の見直しは前工程でのミスを意味しない。単にその時点で手に入る最良の情報をもとに計画を立てた、ということしか意味しない。
5)従って計画の見直しに際し過剰な反省や説明は不要。
「プロジェクトについての情報」がピンと来ない人がいるかもしれないので少し補足すると、「何を目指すのか」「変える業務、変えない業務」「どの部署が関与するか?」「どんなシステムを作るか?」「それを作るのに何か月かかるか?」などはすべて、プロジェクトが進むにつれて決まっていく。
最初はぼんやりと参加者の頭の中にあっただけのことが、プロジェクトが進むと裏付けのある固い決定事項となっていく。
この際の決定内容によって、プロジェクト期間は大きく左右される。当然ながら、曖昧にしか決まっていないプロジェクト初期段階で立てた計画は妥当ではなく、固い情報をもとに立てた計画はより妥当な計画といえる。
この法則はわたしがいま書いたので、皆さんも初めて目にしたはずだが、「理屈で考えればこうなる」という当たり前の話でしかない。特に違和感はないと思う。
だが実際には、計画の見直しをネガティブにとらえる組織は多い。「計画を変更する事態に陥った理由≒元々の計画の反省」について、何ページも反省文を作文させられるなど、始末書みたいな扱いだ。
これほど単純な法則を理解していない理由は、定型業務の名残りではないだろうか。定型業務では「前年と比較して10%売り上げ増」「生産原価1%低減」のように、予想を立てやすい。そして一度立てた予想を変える(諦める)のは、改善に向けた努力を放棄した根性なしのやることだ、と思われている。
「ちんたらやるな」「とにかくスピードだ」といった発破をかければ仕事は早くなる、という世界観を持つ経営者も存在する。そのような組織文化で数十年過ごした人が、一度立てたプロジェクト計画を変更するのに極めて抵抗を感じるのは自然だろう。
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本ではこの前後に
・「最初に決めた納期に縛られる」とは、どういう現象か?
・それがどう悪さをするのか?
・この症状が悪化するとどんな風になっていくのか?
・そもそも最初に決めた納期に縛られているのは、中間管理職だけです
みたいな話が続く。(あと、コラムも付く)
のだが、まずはこの「プロジェクト計画の法則」さえ知っていただければ十分なので、サクッとこのブログは終わりにしよう。
※冒頭に「ほとんど言っている人がいない」とは書いたけど、アジャイルみたいな現代風の方法論のベースには当然この認識があると思います。まあ、当たり前のことですからね。