研修テキストは事前に読ませろ!あるいは研修室と現場とのギャップを埋める3つ目の方法
前回の続き。
前回は
・トレーニングルームと、習ったことを実践すべき現場には埋めがたいギャップがある
・多くの研修では、そのギャップを埋めるのを受講者に丸投げしている
・丸投げしない1つの方法は「現場でひっそりと実践する方法を教えること」
・もう一つの方法は「変革プロジェクトとトレーニングを一体化させること」
という話をした。
今日は丸投げしないもう一つの方法である、研修をディスカッション型にすることについて、事例を踏まえて説明しよう。
★ディスカッション型のポイント1:テキストは宿題で読んでくる
研修の場でトレーニングテキストを説明していくタイプの研修が多い。その間に申し訳程度に演習があったり。
しかしココには1つの謎が隠されている。
ある程度読解力がある人ならば、話を聞くより文章を読むのが一番効率の良い学習方法だ。講師が読み上げたり、行間をくどくど説明しなくても、よくできたテキストだったら、読むのが一番手っ取り早い。例えば僕は若い頃に研修ではなく、いくつかの本当に良い本を熟読したことで、システム設計を学んだ。
だとしたら、授業って何のためにあるんだろう?
ダメな例の典型は、運転免許の教習所で受講させられる、学科の時間だ。講師の下手くそな説明を聞くくらいなら読んだほうが速いし、それでテストも受かるし、車も運転できるようになる。
なぜ学科が必修なのか謎だった(もちろん、運転免許は読解力がない人も取得したいので、そういう人は学科の授業を選択すればいい。本当の理由はきっと、警察官の天下り先の確保だったんだろう・・)。
なので、僕らが社内でやるトレーニングは最近、資料を事前に公開して、受講者に宿題として目を通すことを義務付けるケースが多い。
★ディスカッション型のポイント2:トレーニングの時間はひたすら議論する
いくら読解力があるからと言っても、宿題として読んだ時に、ピンとこないことはある。だから質問を事前にSlackに投稿しておく。先日やった研修では50個くらいの質問が事前に溜まっていた。
トレーニングは2時間だったが、講師である僕から資料を読み上げたり説明する時間はほとんどなく、ひたすら質問への回答と、それをきっかけにして深掘りする議論をしていた。
★ディスカッション型のポイント3:「ギャップを埋める」を意識して質問する
前回くどくどと語ったように、講師が教えてくれるノウハウと、自分が置かれている状況には多くのギャップがある。それを放置すると現場で役に立たない。
これをディスカッションを通じて埋められるのが、単にテキストを読むだけでなく、ディスカッションすることの最大の意義だと思う。
とはいえ「ギャップを埋めるディスカッションってどんなの?」というのがピンとこないと思うので、先日やった「提案トレーニング」を例に説明しよう。
※ちなみにこの研修は10年以上前に作った。僕が営業未経験のまま提案活動を初め、手探りで「ファシリテーション型セールス」というノウハウにたどり着いたので、それを教えるための研修。今のところ、ほぼ門外不出。
★Q1)お客さんとの提案討議に同行した時、若手は何をすればいいの?
この「提案トレーニング」はある程度ベテランコンサルタント(いわゆるマネージャー職からパートナー職)向けに書かれているので、若手がどうするべきかは何も書いてない。でも若手でもカバン持ち的に営業に同行するときはある。だからトレーニングに参加するし、ギャップがあるから質問がくる。
それに対して講師である僕が回答したのは以下。
・いいから自分のオピニオンをお客さんにぶつけろ。そういうのはたいてい筋の悪い意見なのだが、だとしても問題ない。
・お客さんの前で、その意見の良し悪しについて、あなたと白川とで普段と同じように議論すればいい。当然お客さんはその様子を(無意識に)観察する
・観察することで「ああ、プロジェクトが本格的に始まっても、こういう議論を通じてプロジェクト方針が明確になっていくんだなぁ」と理解できる。
・「この議論に自社の社員が混ざるとこんな感じかなぁ」と想像する人もいる
・ほら「頭で理解するだけでなく、コンサルティングサービスを体感してもらう」と18ページに書いてあるでしょ?それってこういうことだよ。
★Q2)やりたいことが明確ではないお客さんにどういう提案をする?
この質問に対する僕の回答は以下。
・自分たちの状況を完璧に整理して、やりたいことを理路整然と語れるのであれば、僕らコンサルタントはいらないのかもしれない
・なので、語れないこと自体は自然。
・もしお客さんに課題感をヒアリングしても明確にならない場合は、頭の中から「やりたいことが最初は明確じゃなかったプロジェクト」を引っ張り出してくる
・そのプロジェクトでどのようにやりたいことを明確にしたか、その結果どういうプロジェクトになっていったかを、なるべく生き生きと(お客さんが想像できるように)語る
・テキストの97ページに「1つの事例に対して、様々なタグを付けて頭にしまっておけ」と書いてあるでしょ?これですよ。
・この時に事例として語るBプロジェクトは僕にとって学びが多いプロジェクトだった。つまり多くのタグがついている事例。「最初はやりたいことが明確でなかった」というタグもその一つ。
・2,3分話している間に、脳内タグを伝ってBプロジェクトを思い出したので、お客さんに語れるようになった
・それを語ることで「ああ、この人たちはやりたいことが明確でなかったとしても、それを明確にし、成功に導いてくれる能力があるんだ」と思ってもらえるよね?本当のことだし。
こういうやり取りを僕が「ギャップを埋めるための議論」と言っている意味がおわかりだろうか?
18ページも97ページも、とても重要なことをズバリと書いてあるページだ。読めば理屈は分かる。でも自分が置かれている状況とギャップがあるから、明日からの行動に結びつかない。
でも自分の状況から発生した質問を講師にぶつけ、講師がテキストを引用しながら説明することで、「そうか、あの時にこういう風に振る舞うべきだったんだ。なぜそれが良いかと言うと、裏にこういう理屈があるからだ」と、深く理解できる。
そしてギャップが埋まるので、行動に移せるようになる。
ちょっと抽象的な話になりましたが、伝わりますかね。
こういう深いディスカッションができると、講師側も学びになります。
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今回にかぎらず、「変革リーダーをどう育てるか?」というテーマで、これまで多くの記事を書いてきました。つまり、僕らケンブリッジは育成にたくさんの実践があり、こだわりがある会社です。
今回は社内のトレーニングについて書きましたが、社外の受講者に対しても僕らなりの育成サービスをやっています。(プロジェクトリーダーおよびプロジェクトチーム養成学校と言う名前です。長いので通称「学校」)
もちろん前回、今回にしつこく書いてきた「トレーニングルームと現場とのギャップをどう埋めるか?」についての、僕らなりの回答でもあります。
まだ初めたばかりですが、反響が大きく定員は毎回いっぱいで、「ウチの会社だけに向けたサービス提供もして欲しい」という要望も多く頂いています。
(なので宣伝はしなくてもいいのかもしれないが、一応リンクを貼っておきます)
過去に紹介したブログ↓
なぜコンサルティング会社が学校を作ったのか?あるいは新規事業の実験場