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あるいはファシリテーションが得意なコンサルタントによるノウハウとか失敗とか教訓とか

鍛えるべきは論理思考よりもリストアップ能力?あるいは「思考=思い出す」ということ

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「頭を使って仕事する」とか「コンサルタント的な知的労働」というと、真っ先にロジカルシンキングの話になる。でも、長年コンサルタントとして仕事をしていても、ロジカルシンキング能力で飯を食っている、という実感がないんだよね。
自分でもあまり緻密な論理思考が得意だとは思ってない(それは僕が最低限の論理思考力を持っていて息を吸う用に使っているからあまり気にしないだけ、という可能性もある)。

ともあれ、お客さんが言うことに対して「論理的に間違ってますね」と反論しても仕事にはならないのは確かだ。


で、ロジカルシンキングの代わりに僕がはっきり「これで飯を食っている」と自覚しているのは、リストアップ能力である。箇条書きで何かをバーっと書き出す能力。ツリー状に整えることもそれほどこだわらないし、マインドマップでもない。単なる箇条書き。

リストアップ能力はいわゆる発想力に近いのだが、発想力というと、キラリと光るアイディアを作り出す能力、というニュアンスがありますよね?リストアップ能力はずっと地味だ。答えが複数あるような問いに対して、コツコツと箇条書きで回答していく能力に過ぎない。

僕はノートを記録用ではなく、このリストアップをするために使っている(だからほとんど読み返さない)。今使っているノートから少し書き出してみよう

お題:○○チームの何が問題だったか?
・品質担保のためのお作法守ってない
・資料化しない
・資料更新しない
・進捗管理できていない
・WBSの作成/更新適当
・工数見積は必ず過小
・管理指標をマネージャーがチェックしていない
・パラレルワークで効率悪い
・タスク配分でパラレルワークを防ぐ意識してない
などなど。

お題:Y社訪問準備「何を伝えれば、彼らの役に立てるか?」
・組織ビジョンを作るときの一般的なアプローチ(4冊目の本をベースに)
・ビジョン立案事例1:A社(組織ミッション系)
・ビジョン立案事例2:B社(戦略立案系)
・ビジョン立案事例3:ケンブリッジ自身の失敗例と成功例
・ここから導けるビジョンづくりの落とし穴
・Y社でやるなら?のディスカッション
などなど。

ちなみに、「ビジョンづくりの落とし穴」については更にブレークダウンしたリストが書いてある。

雰囲気が伝わっただろうか?僕のノートには、こういった具合にお題とそれに対応するリストがひたすら書きなぐってある。


こうやって情報を整理し、考えをまとめ、行動のタネを作っていくのが、僕の仕事のスタイルだ。
タネはゆくゆくお客さんと議論するアジェンダになったり、セミナーやトレーニングで話すコンテンツになる。そういった明確な成果物にならなくとも、大事な論点について頭を整理してあるので、誰かと議論している最中にすぐに頭の引き出しから取り出せる。
先に「コンサルタントとしてリストアップ能力で飯を食っている」と言ったのはこういう理由だ。実際にお客さんと議論している最中、しょっちゅう即興でなにかのリストを作るし、それはチームが明日から行動するタネやお客さんが会社として意思決定する際に収集すべき情報のリストになっていく。


リストアップするお題も、具体的なことから抽象的なものまでレベル感は様々だ。例えば
a)赤坂で良いランチの店といえば?

b)よき昼飯屋の基準
で言えば、a)は具体的でb)はそれに比べればやや抽象的だ。
リストアップを日々訓練していると、段々抽象的なリストアップも苦もなくできるようになる。ちなみにb)についてはこのあとも登場するので、暇な人は1分くらい使って自分でリストを作ってみてほしい。

さらに、
c)人事評価制度を導入/浸透するために、会社として決めるべきことは?
くらいのお題になると、抽象的なだけでなく、知識や経験も必要となって多少難易度はあがる。でも、やることはおんなじだ。


リストアップがうまい人とは、以下のような人のことを指す。
・スピードが速い(ポンポン出せる)
・とにかく量を多く出せる
・網羅性を担保したリストを作れる
・リストの幅が広い
・(できれば)出したものの粒度が揃っている

ちなみに、今だって僕は「リストアップが上手い人ってどんな感じ?」というお題を自分で設定して、それに対して30秒くらいでリストアップした内容を文字に起こしている。本であれ、このブログであれ、僕が文章を書く時はリストアップの連続を書き付けているだけだ。

※「リストの幅」という基準だけ、ちょっと分かりにくいと思う。例えば「良き昼飯屋の基準」で言えば、「安い、うまい、早い」みたいな基準はみんなすぐに思いつく(吉野家のおかげかも)。
でも状況によっては「仕事の話をゴニョゴニョしやすい。小部屋に分かれている」とか「子供連れでも気を使わなくてすむ」みたいな昼飯屋こそが良い、というケースもある。こういう様々な状況を踏まえたリストの方が、幅が広い。往々にして、自分じゃない人の視点からみた基準だったりする。そう考えると、例えば外国人にとっては「写真入りメニューがあって指差し注文できる≒注文のハードルが低い」という基準もあるかもしれない。
それは緻密さの結果である網羅性とは少し違う概念だと思う。

※出したものの粒度について。僕は慣れているので、リストアップする要素の粒の大きさ(抽象度)は、出すそばからおおよそ揃っている。無意識レベルで調整しているから。例えば昼飯屋の例で「コスパがいい」と横並びでは「おかわり無料」は出てこない。後者は前者の例の一つに過ぎないから、横並びはおかしい。だが、それはあとから(論理思考力を使って)調整すればいいことなので、まずは数を出すことを優先した方がいい。

さて。
必要なタイミングですらすらリストアップができれば非常に楽だし、仕事を前に進める大きな力になる。
僕はファシリテーションを武器にプロジェクトをやっているが、ファシリテーション能力のかなりの部分は「論点のリストアップ能力」が負っている。「これを意思決定するために、明確にすべきことはこれとあれと・・」といった具合に。

こんなに大事なリストアップなのだが、バリバリやっている人をあまり見ない。そもそもやろうと思いつかない人が多いみたいだし、一緒にやっても、みんなそれほど得意ではない。

観察していて思うのは、人々がリストアップをあまり得意でないのは、「知識がないから」ではない。良い昼飯屋の基準なんて、誰だって分かっていることばかりだ。上記の「内緒話がしやすい」という基準だって、言われてみれば「それもあるね」だろう。決して「えーっそんな基準があったとは」という話ではない。
だが、知っていても、必要なタイミングですぐにリストに加えられる訳ではない。

人間は「知っていることを適切に思い出すこと」が案外苦手なのだ。特に、上記のbとかcみたいな少し抽象的なお題になると。


僕は「○○力を鍛えるためには○○するしかない」という命題を信じている。
リストアップ能力を鍛えるためには、リストアップするしかない。お題を適当に設定して、ノートにリストを書きつける訓練を日々するべきだ。仕事にすぐに役に立つ能力なんだから。
どうでもいい例で言えば、僕の場合は「好きなジョンレノンの曲ベスト10」とか「人生に影響を与えた本50選」みたいなリストを作るのが好きで、iPhoneのメモ帳に書き付けてある。
もちろん毎日仕事でも、様々なテーマでリストアップをしまくっている。
そして僕にとって一番の修業の場は本の執筆だ。例えば4冊目の本の場合は「リーダーを育ているプロジェクトを作るために必要なノウハウは?」というテーマで、500とかのネタをリストアップした結果である。僕にとって文章を書くというのは、修行である以前に娯楽なのだが、結果としてリストアップ能力を鍛える役に立っているのは間違いない。
とにかく、あなたにマッチしたどんな方法でもいいので、日常的にリストアップをし続ける訓練をおすすめしたい。

最後に余談だが、脳科学的には「考えること」と「思い出すこと」というのはほぼ同じ現象らしい。これは僕にはとてもしっくりする。「さあ考えよう」と思ってノートに向かったとしても、結局やることはリストアップ、つまりすでに知っていることを思い出すことなのだから。


この記事に関連する過去記事を2つあげておこう。
1)アイディアは薄暗い小部屋にある、あるいは「考える」とは何か
これは表現が独特過ぎて伝わりにくいかもしれないが、「すでに自分の脳みそに格納されていることを、適切に取り出す方法」について書いたもの。つまりこの記事と全く同じテーマについて書いた7年前の記事である。

2)クリエイティビティとモチベーションの深い関係、あるいはアイドリング思考について
最近書いたこれも、あるテーマについて考え続けて、自分のなかにリストを作っていくみたいな感じの話だ。

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