"インサイド・アップル"の感想
良くないApple本は暴露本的な要素が多くて辟易する場合があります。またジョブズ氏に焦点を当てすぎて、同じねたばかりで退屈する場合があります。ですが、本書はビジネス書向けになっていて、Apple本の中では読み応えがあるほうだと思います。
本書は端的に表現すればAppleを組織論的な面での評価を行い、ジョブズ氏亡き今のAppleが成功を持続できるかを論じています。
Appleの成功は全てジョブズ氏に寄与しているかも知れません。ですが、今は既にいないのです。現在のAppleは試されていると言っても過言ではありません。4Q'11までの収益に関してはiPhone 4Sの成功もあって未だに好調ですし、有り余る資金の使い道として"Apple、配当の開始と自社株の買い戻しを発表"を発表するほどです。
また"平凡"とも評価されたiPad 3rd genですが"Apple、新「iPad」が発売の週末に300万台売れたと発表"にあるとおり、iPad 2の初速よりいい数字を出しています。
とはいえ、ジョブズ氏がiPhone 4SとiPad 3rd genにどの程度製品に関与していたか分かりませんが、規定どおりラインナップで未だにジョブズ氏の影が見え隠れしています。
また、Appleに山積みの問題はあります。中国でのiPad販売やSamsungとの訴訟問題は未だに解決していません。
それでも"アップルのT・クック氏、CEO支持率調査で早くもトップの座に"にあるようにクック氏の評価はジョブズ氏よりも高評価を得ています(今のところ失策はないためだと思います)。
Appleの成功がジョブズ氏の手腕だけに寄与しているのか、それともジョブズ氏が構築した組織に寄与しているのか外からは分かりません。もし、前者ならばジョブズ氏亡き後は早い時期に崩壊するでしょうし、後者ならばすぐに崩壊はありえません(緩やかな死になるか、さらなる発展かは不明です)。
本書は後者であることをうまく説明しています。
私はAppleが今後も今まで同様にイノベーションを起こし続ける会社であり続けるのか、それともどこにでもある平凡な会社になり下がるのか分かりません。ただ、本書を読んだり、現時点での発表を見る限りは常識的な範囲での成長は維持できるように思えます(今までが非常識な成長だった)。
現時点ではジョブズ氏が去ってからiPhone 4SとiPad 3rd gen(とApple TV)しか製品を発表していません。OS X v10.8 Mountain Lion、iPhone 6th、近いうちにリフレッシュされるiMacとMacbook Pro(IbyBridgeが2012/4末に発表さえるので、それでリフレッシュされる)の発表で現体制を評価できるのではないかと思います。
ただ、iPad 3rd genの命名規則をApple流に変更したのは、意外ながらAppleらしいと思いました。凡庸ならばiPad 3やiPad HDの様な命名にしたでしょう。それをあたらしいiPadとつけたのはある意味Appleらしいと思えます。これはiPodやMacと同じ命名規則ですが、シンプルにする方針がようやく戻った気がするため、現体制の方針が少し見えるように思えます。
Appleのユニークな組織に関して、ビジネススクールで教える経営手法と違う方式を採用して成功しています。これはAppleだから成功しえたのか、それとも他でも成功できる仕組みなのか分かりませんが、それでも現在のAppleの成功を支えたことは事実です。
本書では750億ドルものキャッシュの使い道に関して言及しているところがあります。ジョブズ氏では配当(投資家への賄賂)しないといっていたようですが、クック氏がCEOになってから変わるだろうと記載されています。先日Appleは株の買い戻しと配当を決めたため、ある意味本書は言い当てている箇所があります。
伝記("スティーブ・ジョブズ I"の感想と"スティーブ・ジョブズ II"の感想)とは違って本書はジョブズ氏やクック氏に対してインタビューを行っているわけではありません。このため、Appleの内情に関しては正確に把握できているわけでないと思いますが、それでもAppleの成功要因の一つである組織論に関してうまく説明していると思います。そういった意味では、"ジョブズ・ウェイ"の感想と同じように客観的にAppleを評価していると思います。