IntelはARMの後塵を拝するのか
スマートフォンとメディアタブレットで躍進しているARM陣営の進出をとめることができないIntelに対して株式市場は辛い評価が下され始めました。Intelは将来においてARM陣営の後塵を拝するときが来るのでしょうか?
近い将来にはスマートフォンはPCの出荷台数を凌駕するでしょう(3Q'11あたりで逆転現象が見られるのではないかと推測しています)。このときに、ARM Cortex-A*系の出荷台数がx86を超えることになります。
現在のARMのチップの性能はどの程度でしょうか。x86とARMの両方のベンチマークを評価する基準があまりないため、難しいですがCoremarkあたりが有名なようです。
Atom N280(1.68GHz)が5353.79、Tegra2(1GHz)が5866.39となっています。Atom N280は、最初のシリーズのため、不利かも知れませんが次のMoorestown系もSilverthorne系とそれほど性能差がないため、比較してもそれほど問題はないと思います。
ARM Cortex-A9は十分な性能があるようです。消費電力に関してはCPUコア自体の比較はこのカテゴリはやる意味はあまりありません。SoCでチップを大量に積むため、システムトータルで比較すべきです。また、有益な情報がないため正しく比較はできません。
AtomとARM Cortex-Aシリーズは今後のどのようなロードマップがあるでしょう。以下が今のところ公開されています。
・ARM Cortex-A15(Corterx-A9の3倍)が2013年に登場
・32nmのMedfield(周辺チップ全てをSOC)が2011年末に登場
Atom系はMedfieldでようやく周辺チップのSOC化が完了します。これでようやくARMの戦うことができる消費電力を手に入れる可能性があります(まだちょっと多いと言われている)。また、32nmにシュリンクするため消費電力と高性能化すると言われています。
ARM Cortex-A15は、現行Corterx-A9の約2~3倍と発表されています。ですが、登場は2013年です。その間はCortex-A9の高速版で埋める予定になっています。
ARM陣営は何もARMのロードマップ通り進むわけではありません。独自実装も可能です。NVIDIAはProject Denverを立ち上げてチップの高性能化に取り組みます。
x86は省電力に進み、ARMは高速化&マルチコア化で性能向上化に進み、2011年末から本格的に激突します。2012年ごろには両者はあまり差がなくなっているように思えます。ですが、ARM陣営にはスマートフォン・メディアタブレットカテゴリにおいては先攻の有利があるため、x86には分が悪い勝負を強いられる可能性があります。
この様な状況のためかIntelに辛い評価が下されました。果たしてIntelは、株式市場の予想通りARM陣営に屈するのでしょうか?それとも跳ね返すのでしょうか?
タイムマシンもないため将来的な行動を予想するには、過去の行動を参考にするしかありません。過去にIntelが苦境を追いやられたときはどうしたか調べてみました。特にIntelは高収益状態が続いたので、多くのメーカのターゲットになってきました。
■DRAM競争
日本メーカの躍進により、DRAM分野の売り上げが苦しくなりました。この状況を脱却するために、目が出てきたx86に注力し、DRAM分野の撤退を決断した。
この選択が成功し、Intelは半導体メーカの巨人として歩むことになりました。
■RISC vs CISC
RISCが今後CPUの主役になり、CISCは時代遅れになると喧伝され始めた。Intelもその流れに乗り、黒歴史No.1と言われているi860/i960を製造しましたが、最終的にはフェードアウトしました。
またRISC vs CISCの論争は、CPUの内部をRISC化(uOPs)することで終止符を打たれることになりました。
■AMDの躍進
Pentium 4で周波数を向上させAMDに差をつけ始めたが、90nmで登場したPrescott(黒歴史No.2)で消費電力増大をまねき、ライバルに付け入る隙を与えてしまいました。また、64bit化に関してItaniumに力を注いでいたため、AMD64が市場に受け入れられ(Microsoftに受け入れられた)、Intelもそれに従うことになりました。
ですが、性能と省電力に優れたCore MAの登場でライバルのAMDを収益を悪化させるほど圧倒し、パフォーマンスリーダーの地位を万全の体制にすることができました。また、AMDの追随できないほど開発を促進するためにチックタック戦略をとることになりました。
以上の様にIntelは、過去数度追い詰めらられてきた経験があります。特に、DRAMの危機のときは、アンドルー・グローヴ氏が、ゴードン・ムーア氏に「もし、外からCEOとやってきたら、どうするだろうか」と考えて、自社のスタートとなったDRAMから撤退した話は有名です。ピンチをチャンスに変えて大きく飛躍してきた歴史にもなっています。
パラノイアの会社らしく、病的なまでにライバルを探し、自分達の技術が一気に無になるのではないかと対策を打っています。
例えば、Atomがその最も顕著な例です。Atomが登場したころ、まだ消費電力に対して要求は強くありませんでしたし、スマートフォンは立ち上がり始めた時期でこんなに早く出荷台数で追い抜かれると予想することは難しかったです。ですが、今Atomがなかったらどうなっていたでしょうか。
CPUの開発は4年かかると言われています。今から、ARM対策のCPUを開発した場合、早くて2015年までかかります(小さいコアなので、もう少し期間が短いかも知れませんが)。ARM Cortext-A15で市場が固まった後に、そのような製品を出しても逆転は難しいでしょう。ですが、Medfieldが2011年末に登場し、消費電力において追いつく可能性があればまったく状況は違います(Medfieldでも消費電力の観点では少し分が悪いですが)。
また、x86はデコードのコストが高すぎると言われています。この点がCISCの問題だと言われていますが、Sandy BridgeでuOPsキャッシュで改善されました。同じ技術がすぐにAtomに導入されるわけではありませんが、導入されれば省電力に貢献するでしょう(高性能化もですが)。
さらに、Intelが他の半導体メーカに対して一番の違いは、自社Fabの製造能力とプロセスです。現時点でHigh-K/Metal Gateの32nmのプロセスを製造できるのはIntelのみです。また、最初にHigh-K/Metal Gateを導入したのもIntelでした。
他のメーカからは1年以上は先行できるFabの技術力は、突出しています。IBM連合(IBM、Samsung、GLOBALFOUNDRIES等)でも追随できていません。Fabレスメーカも多いARM陣営を考えると最も新しいプロセスを使用できるIntelには、パフォーマンスリーダーの地位から引き摺り下ろすことは相当難しいことです(モバイル分野では、省電力あたりのパフォーマンスになりますが)。
IntelとAMDの競争を見ていても、アーキテクチャの刷新が大体交互に行われ、そのたびにパフォーマンスリーダーが変わっていたりもしています。CPUの開発はドックイヤーと呼ばれるIT業界でも割りと長めになります。このため、現時点の評価が数年後にはがらりと変わっていることはよくあります。
さらに、Intelは開発部隊を複数持っていることで有名です。Sandy Bridgeを作ったイスラエル部隊、Nehalemを作ったオレゴン部隊、Itanium部隊、Atom部隊(旧PowerPCチーム)、Xeon 7400を作ったインドのバンガロール部隊、まだ製品が出ていないKnights Corner(旧Larrabee)チームぐらが外部から知られています。2年でアーキテクチャを更新できるほど開発チームを多く持っているため、現在引き離されている状況でもすぐにキャッチアップすることが可能です。
Intelのライバルは多様です。PC部門ではAMDが、サーバ市場ではIBM、Oracleが、HPC市場ではNVIDIAが、NAND分野ではSamsung、Tosibaが、スマートフォン・メディアタブレットにはARM陣営が相手になります。ここまで手を広げているメーカもそうはありませんが、高収益を維持しているIntelだからこそできることでしょう。
多方面過ぎる(PC部門やサーバ部門は少し楽かな?)ようにも見えますが、GPUとスマートフォン市場をカバーしなければ、地盤のPC~サーバ市場のCPUにも影響が出てくる可能性があるため、決しておろそかにはできません。このため、AtomやKnights Cornerへの投資は必要だと思います(もう少しAtomは省電力にふるべきだったかも知れませんが)。
このため、会社の方針(パラノイア)、製造能力及び多くの開発チームを抱えているIntelが、将来的にARM陣営に後塵を拝し続けるとは考えずらいものがあります。AtomをPCよりの消費電力にデザインしたため、スマートフォンに入れるのにもう少し時間がかかる失策しましたが、2011年末にはこの状況が変わっていると思われます。モバイルOSであるMeeGoへの投資していることを考えると決してARM対策がノーマークだとは思えません。
長めのCPU開発のサイクルのため現時点ではARM対策は不十分のため、弱い買いと判断するのは早計です。Medfieldの出来を判断してからでも遅くはないでしょう。
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