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グローバル化する中で日本人はどのようにサバイバルすればよいのか。子ども×ICT教育×発達心理をキーワードに考えます。

夫婦としてめざすべきものは何だろうか? サイボウズのワーママ動画に私も物申す

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世代のはざま

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ITmediaオルタナティブブログで、サイボウズのワーママ動画「大丈夫」が話題になっています。私はまだ子どもがいませんが、家事・仕事・介護をしてきました。家庭と仕事をやりくりする大変さは私にもよくわかります。

私の同級生たちは動画のワーママに似た状況の人が割といます。妻が家事・仕事・子育ての板挟みになったとき、

  • 夫は仕事に専念し、家事や子育ては手伝わないというパターンと、
  • 家事はやらないが子育ては手伝う、

というパターンをみかけます。

家事も手伝ってくれる夫のパターンは一組だけ見かけました。オノ・ヨーコさんのように妻が主に稼ぎ、夫はサポートを心がけるスタイルでした。しかし、専業主夫になった人は、同級生の中だと未だに見かけません。世の中にはワーパパ、イクメンがたくさんいるはずなのに、なぜなのか。

私は生まれた年だとナナロク世代。しかし、私が早生まれのため、同級生は1~2年前に生まれた前の世代の人たちでした。そのせいか、年齢が近い1980年代の松坂世代(家庭科共修)の山口陽平さんよりも、どちらかといえば、田中淳子さんの感覚に近い気がします。

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注:Wikipediaの情報ですが、1970年から1982年生まれは氷河期世代(氷河期世代初期、氷河期世代中期、氷河期世代末期)になるようです。厳しい就職難に直面した、ロストゼネレーションと呼ばれる世代です。

バブルの恩恵を受けられたか全くなかったか差があるんですね。

  • 氷河期世代初期:大学・高専・短大・専門学校の卒業者が急転直下の就職難に遭遇した一方で、高卒者はバブル景気の恩恵を受けたまま就職し、後の世代とは異なり大手企業に新卒で入社できた者も多い(この世代の女子は大手金融機関に高卒で入社できた最後の世代でもある)。
  • 氷河期世代中期:小学校時代はバブル景気の最中であったが、10歳~14歳で冷戦終結や東欧革命に遭遇し、15歳~24歳の時期にグローバリズムが世界を席巻した為、いずれの学校を出ても就職難に遭遇した。
  • 氷河期世代末期:グローバリズムの時代に10代を過ごし、好景気の時代を知らないまま「就職難は織り込み済み」の時代に育った。高卒者を中心に大多数は就職難に遭遇したが、大学・大学院を卒業した者の中には就職状況の束の間の好転を受けた者もいる。(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%B1%E8%81%B7%E6%B0%B7%E6%B2%B3%E6%9C%9F#.E6.B0.B7.E6.B2.B3.E6.9C.9F.E4.B8.96.E4.BB.A3 より引用)

生まれた時期が数年違うだけにもかかわらず、経験したことはだいぶ違うようです。ちなみに1982年から1987年生まれの世代はプレッシャー世代とのこと。

「女性の年齢階級別労働力率の推移」はM字カーブ

内閣府男女共同参画府「女性の年齢階級別労働力率の推移」によると、女性の就業率はM字型になっています。

  • 出産を境にいったん仕事を辞め、子育てに専念する女性が多い
  • 子どもがある程度大きくなると、再び働き始める傾向がある

点が読み取れます。

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出典:内閣府ホームページ (http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h25/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-02-01.html)

昭和50年はM字の中央部分のへこみが谷のように深く、時代が下るにつれてM字の中央部分のへこみはなだらかに変化しています。女性が出産後も仕事に復帰しやすくなっている傾向が示されてるようです。

産休・育休が以前よりも取りやすくなったということなのでしょうか。それとも、イクメン、ワーパパの数が増えたということなのでしょうか。山口さんが書かれていたように、教育(家庭科男女共修など)の影響なのでしょうか。

家事と仕事

企業の中で幹部候補生になった場合は、管理職の仕事をこなしながら家事をすることになります。家事は小室淑恵さんの本に紹介されているように、道具な工夫によってある程度は効率よく行うことができます。

参考:小室 淑恵『夢をかなえる28日間ToDoリスト――たった少しの努力ですべてが変わる!

しかし、 ゴミを捨てる、 洗濯物を干す、 お風呂を洗う などは、人力が必要です。かつての私は洗濯物を家庭用乾燥機で乾かそうとしました。しかし、乾燥機のパワーが足りないのか、洋服などは生乾きになりがちに。カラッと乾かず人力で干す に戻しました。

家電製品などを活用すれば、「家事の効率化はできる」「問題なのは子育てでしょう?」と言われることはありました。しかし、回覧板を回すとか、近所のゴミ捨て場の掃除当番などは、機械化できません。

夫婦共稼ぎの場合は、夫婦でいかに分担するかが鍵になります。「君はつらいと思っているかもしれないが、俺だって大変だ」というご家庭もあるはず。どちらが大変かを競っても意味はありません。夫だって、妻だって、それぞれ違った大変さがあるのですから。

ジェンダー(社会的な性役割)の問題があるので、「家事は女がやるものだ」とおい価値観を持っていいる人がいるのもわかります。一方で妻の負担を考えて、夫婦でバランスを取り合う男性もいます。人それぞれなんですよね。

育った環境によっては、社会的な男性の役割・女性の役割から外れられないこともあるでしょう。私の周りに専業主夫がいないのも、環境の問題があるのかもしれません。

今回の動画から感じたことは、 家庭で負荷がかかる部分をどちらかだけに偏らせるのが問題。動画の夫は、妻をサポートする様子がありません。久野麻美子さんが指摘していたようにシングルマザーのように見えてしまいました。さらに、夫婦で相手の気持ちを分かち合えていないのが問題です。

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もし動画の続きのストーリーがあったとしたら

この動画の続きはいったいどうなるのか、考えてみました。

  • 妻は家事も仕事も子育てもこなし、抜群の仕事力を得る→夫より出世→夫婦仲が悪化→離婚。
  • 妻は身体を壊し、入院→専業主婦に。
  • 妻は家事も仕事も子育てもこなしたが、手一杯→なんで私ばっかり家事も子育てもしないといけないの? 夫婦でいる意味ないじゃない。→子供を連れて家を出て行く→シングルマザーの道へ。
  • 妻は負担の大きさが限界を超え、精神的に破たん→うつ病などを患う→実家に戻る
  • その他

続きの展開を複数考えたら、悪い結末ばかりが連想されました。いったい、何故なのか? 私なりの見解は、「動画のワーママには、サポート資源がないから」です。

一人でできることは、たかがしれています。もし夫以外にサポートしてくれる人・環境がなかったとしたら...。今後、動画のワーママは、どこまで現状を持ちこたえられるのでしょうか。

ハーツバーグの心理学の研究によると、人の満足感に影響を与える要因は二種類あります。1つめは動機づけ要因。満足感を高め、ワークモチベーションを高める要素です。2つめは衛生要因。仕事への不満を低めるが、ワークモチベーションとは無関係な要素です。

公平な扱いを受けたい

動画のワーママは管理職または幹部候補生のような様子です。仕事の充実感があるから、家事や育児の負担が偏っていても、仕事を辞めないで耐えてきたのではないでしょうか。

しかし、この状況を動画のワーママは続けられないだろうと考えています。人間は「公平な扱いを受けたい」という欲求を持っているからです。アダムズの衡平理論によると、不公平な状況を公平にするために努力の量を調整するとのこと。

人が動機を刺激されるのは、「不公平な状況」を認識したときである、と想定します。周りの人と比較したとき、自分が努力のわりに報われていない、あるいは努力に見合わない大きな報酬を与えられている、といった「不公平な状況」が認識されると、まず不満や不快感が生まれ、さらに不公平さを解消するべく、自らの努力量をコントロールする、などの行動が生まれるものと想定されます。
『よくわかる産業・組織心理学』(山口 2007 p.36)

今の状況が続いた場合、ワーママの負担が大きいため、努力の量を減らそうとする可能性がありそうです。一方、以下のようなトラブルが発生した場合も、現状を維持することは難しいのではないでしょうか。

  • 子どもが発熱ばかり→お迎えに中抜けor早退しないといけない日が多い
  • 手伝ってくれる人がいない
  • 職場の仲間の目が厳しい
  • 仕事を左遷されることになった
  • 遠くの支店へ転勤の命令が出た
  • パワハラでリストラ対象になりそう
  • セクハラを受けた

もし妻が一人で家事と仕事と子育てをなんとかできても、孤立無援だったら...。もし環境の変化で心のバランスがたもてなくなった場合は、心のバランスが崩れてしまうかもしれません。長期にわたって原因が解消されない場合は、精神疾患の罹患、突然死や自殺をする可能性さえありえます。

もしも妻が夫よりも有能だったら?

動画のワーママが全てを完璧に近くこなし、夫に気を使って円満に見える家庭を築き続ける可能性はないとは言えません。表面上は夫をたてつつ、夫のいうことは完璧にこなす妻の場合です。

その場合は妻が有能すぎて夫が浮気するのでは?と想像しています。状況が大変な妻の方が出世するようなことがあったら、ふてくされて妻に八つ当たりする可能性があるかもしれません。有能な妻の成功を喜ぶ余裕があるワーパパならば、妻の家事や子育てをすでに共有し、サポートしているだろうから、です。

動画では夫は子供を迎えに行けるだけのやりくりができませんでした。しかし、妻は仕事のやりくりができています。妻の方がマネジメント上手のようです。妻が有能で、夫を頼りにしなくてもやりくりできるようになったとしたら...。

夫の存在がもはや不要になった場合、なんのために婚姻生活を続ける必要があるのでしょうか。動画の続きは、アンハッピーになるのかもしれません。動画のワーママが仕事を辞める、という選択肢もあります。しかし、納得できない状態で仕事を辞めた場合は夫や子供への恨みが残るかもしれません。

おそらく、動画のワーママは離婚しても今までと変わりなく自立できそうです。かえって夫の世話をしなくて良い分、楽になるかもしれません。かえって、早めに夫に見切りをつけて、離婚するパターンが一番ハッピーエンドなのかもしれません...。

Lose-WinをWin-WinかNo deal(取引しない)に変える

この動画で気になるのは、夫が仕事に専念することで、家庭のやりくりがおそろかになっている点です。この動画の物語では、私生活においても夫の存在が希薄です。この物語がまだ続くとしたら、妻は夫に対して怒るのでしょうか? それとも 夫に手伝って欲しいと伝えるのでしょうか? それとも、黙って妻が仕事を辞めるのでしょうか? 夫を見限って離婚するのでしょうか?

この動画のワーママは「自分が我慢すればうまくいく」「相手のためだ」と我慢しているように見えました。妻と夫の関係は、Lose-Win(負ける-勝つ)になっています。

『7つの習慣 最優先事項』では、ヴィジョンの共有について語られています。

家族全員に、「この家族の目的をたった一言で言うならば、それは何だろうか」と訊いてみてほしい。配偶者に「私たちの結婚の目的は何だろうか。夫婦としてめざすべきものは何だろうか」と訊いてみてほしい。(コヴィ 2000 p.363)

もしも、夫婦の関係を良好にしたいならば、配偶者に「私たちの結婚の目的は何だろうか。夫婦としてめざすべきものは何だろうか」と訊いてみるのがよいのではないでしょうか。

「7つの習慣」第4の習慣で、コヴィー博士はWin-Winの重要性を説明しています。

条件付きの愛を受け入れた子は、愛は努力しなければ得られないものだと考えるようになり、その裏返しとして、自分は元々価値のない人間だ、愛されるに値しない人間だと思ってしまう。(コヴィ 2013 p.290)

もし、話し合いをした後も、上記のような心理になっているのだとしたら。「7つの習慣」第4の習慣に登場する"No deal(取引しない)"を活用してはいかがでしょうか。

こちらが誠実に話し合っても、問題が解決しない(Win-Winにならない)のであれば、関係を破棄するのもあり、だと思います。

大事なところが描かれなかったことによって、「自分を犠牲にする生き方のままでいいの?」と強いメッセージを放っているように見えます。この動画の続きでワーママはどうなったのか。ぜひ続編で描いていただきたいです。

引用文献

山口 裕幸『よくわかる産業・組織心理学 (やわらかアカデミズム・わかるシリーズ)

スティーブン・R・コヴィー『完訳 7つの習慣 人格主義の回復

参考文献

佐々木 土師二 『産業心理学への招待 (有斐閣ブックス)

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