漫画『ガラスの仮面』の速水真澄と、「紫のバラのひと」という仮面
はじめに
2011年8月8日に漫画『ガラスの仮面』にまさかのスマートフォンという記事を書きました。この記事の前半は「速水真澄が使用しているスマートフォンは何か」というITmediaオルタナティブ・ブログらしい話題で、後半はあえて「ネタバレを含む今後の展開の予想」としました。
夏目漱石『こゝろ』のように、ある題材を語るときに視点/切り口を変えて並列して書いてみたらおもしろいのではないか?と考えたからです。
※『こゝろ』の場合、前半は主人公・先生の「生徒」の視点から語られ、後半は主人公・先生の視点(先生の遺書を生徒が読む形)で語られます。
そのため、「切り口が違う」ことをわかりやすくするために
※以下から文体が変わります。
とお断りした上で、後半部分を書きました。
しかし、『ガラスの仮面』を小学生の時から愛読しているため、ITと関係のない後半部分のほうに力が入ってしまいました。どちらが主題の記事なのかわかりに くくなってしまいました。
最初の記事では、複数の読者の方から「本当に書きたかったのは主題と関係ない後半部分なのでは?」とご指摘頂きました。気持ちが後半に入ってしまったのは事実です。「一記事一話題」とするために、漫画『ガラスの仮面』にまさかのスマートフォンから後半部分を切りはなし、文章を追加しました。
今回は、速水真澄が物語の中でどのような役割をになっているのか、「仮面」をキーワードに考察しました。
『ガラスの仮面』のあらすじは、Wikipediaが一番わかりやすいのでオススメです。以下のページの「あらすじ」の項目をご参照下さい。
参考:ガラスの仮面 (Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AC%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%81%AE%E4%BB%AE%E9%9D%A2
※以下、物語の重要な箇所や結末に言及しています。(ネタバレを含みます。)
宙に浮いた約10年分の未刊行原稿
ガラスの仮面は、単行本に未収録の十年分の原稿(75回分)があるのをご存知でしょうか。二人の女王(単行本の23巻あたり)から、絵を一部改稿して単行本に収録していたそうです。単行本の34巻からは、連載したものを全面改稿してから発刊するようになりました。
そのため、2008年に10年ぶりに雑誌連載が開始された際は、単行本で出ていた場面の続きから再開されました。約10年分の未掲載エピソードは、その後の雑誌連載および単行本に取り込まれています。
エピソードの内容はかなり違った内容に変わる場合もあるし、あまり変わらない内容のままのこともあります。47巻に収録されたワンナイトクルーズは、10年以上前に雑誌に掲載された時は、東京湾を周るナイトクルーズでした。
船が遊覧する時間が足りないせいか、速水真澄がマヤの気持ちに気づくものの、二人のやりとり、関係は進みきりません。
しかし、今年の1月から「別冊花とゆめ」に掲載された原稿では、遊覧船の設定がワンナイトクルーズに変更されました。物語に大きな構想変更があったようです。
北島マヤが速水真澄に想いを込めて語りかける言葉は紅天女の台詞に変わり、2人が語らうシチュエーションは日の出に変わり、それに対する速水真澄の対応も大幅に変わりました。
今回の単行本で改稿された部分から言えそうなことですが、もし「ガラスの仮面は物語である」と仮定できるならばタイトルの「ガラスの仮面」をかぶっているのは北島マヤや姫川亜弓ではなく、速水真澄のことだったのではないかと考えられます。
本心を紫のバラに託して
速水真澄はもともと大都芸能・社長、速水英介の家政婦の子でした。速水英介は病気で子供ができない身体だったので、身体が丈夫で見目麗しい、しかも利発な真澄を養子にするために藤村文と結婚。
しかし真澄の母は義父・速水英介が紅天女のことで頭がいっぱいだったために死に追いやられました。そのため真澄は父に復讐する目的で紅天女の上演権を父から奪い取ろうと決意します。
速水英介の養子になって以降、親らしい愛をかけられることもなく、誰も愛さないと心に決めました。感情を押し殺して仕事一筋に生きて来ました。
しかし、当時13歳だった北島マヤの演劇への情熱に心の深い部分が揺さぶられます。気持ちを伝えようと匿名で紫のバラを贈るようになります。次第に愛情をいだくようになります。
しかし、
- マヤよりも11歳年上であること、
- マヤの母を死においやる原因を作ったこと、
- 芸能会社の社長が一人の女優のファンであることを公にするのはまずいこと、
- 自分が紫のバラのひととマヤが知ったら失望し、傷つけるのではないか
- 自分自身も本当のことを打ち明ける勇気がない
と考えます。紫のバラのひとという架空の人物として密かにマヤを想い、助けていきます。
「ガラスの仮面」を本当にかぶっているのは速水真澄?
- 社長としての立場があること、
- マヤが紅天女になるために、自分自身が憎まれてでも彼女を成功させたいこと、
- 自分の想いをさとられないために
などの理由から表向きは北島マヤに悪態をついたり冷淡な態度をとります。そのため、単行本34巻からお互いに両思いであるにもかかわらず、すれ違いの連続に。
自分自身を隠して紫のバラのひとという架空の人物を演じ、架空の人物がマヤに愛されていることに苦悩する速水真澄の姿は、なんだか「ガラスの仮面」をかぶっているかのようです。
参考:美内すずえ 『ガラスの仮面 1 (花とゆめコミックス)』
※上記書籍のリンクURLはAmazonアソシエイトのリンクを使用しています。
「ガラスの仮面」のモチーフ
ネットで検索したところ、「ガラスの仮面」について、Wikipediaでガラスの仮面のモチーフについて考察が掲載されていました。
参考:Wikipedia ガラスの仮面 「ガラスの仮面のモチーフ」
http://ja.wikipedia.org/wiki/ガラスの仮面
『ガラスの仮面 5 舞台あらし1』では「石の微笑」という劇中劇の中で、北島マヤが人形の役を演じます。その際、母・北島春が行方不明になったことを知り、人形の役にもかかわらず、舞台中に涙を流します。
月影千草から役者失格の行為と言われ落ち込むマヤに、青木麗はアドバイスをします。
- 役者は舞台では、役の仮面を外してはならないこと
- どんなに悲しいことがあっても、役の人物とは関係がないこと
- 舞台で少しでも油断をすると、自分という素顔がのぞいてしまうこと
俳優はガラスで出来た仮面のように、「もろい仮面」をかぶって、自分ではない人物を演じている、という話をしました。本来は演劇の話なので、「ガラスの仮面」のモチーフは、俳優たちに向けたものだと、考えていました。
しかし、「紫のバラのひと」を演じる速水真澄がもろくて壊れやすい「ガラスの仮面」をかぶりつづけている、と捉えることもできそうです。
速水真澄はマヤへの想いを秘めつつも、所々に本当の気持ちが表に出て来てしまう。それは言葉であったり、振る舞いであったり、仮面の下から本来の自分の気持ち・素顔が垣間見えます。
しかし、速水は子供の時から自制心で本音を抑え、社長として仕事を冷淡に行うように育てられてきました。そのため、本音の気持ちが表に出かかると、冷淡な振る舞いをして隠そうとします。
心にもないことを言った時、冗談のふりをして本心を話している時、スクリーントーンが速水真澄の顔に影として張られている点が興味深いです。
もしかしたら、スクリーントーンが速水真澄の「ガラスの仮面」を表現しているのかもしれません。
『ガラスの仮面』は速水真澄の物語で終わる!?
単行本に未収録の原稿では、速水真澄は北島マヤに告白できないままでした。ですがが、2011年1月号から5月号に連載された記事および単行本47巻では、ようやく速水真澄がマヤに告白できました。
2人の年齢の差が11歳。出会いから8年を考慮しますと、出会いの時点では速水真澄が24歳。北島マヤが13歳。
47巻では速水真澄が32歳。北島マヤが21歳と思われます。※現実世界では1976年の連載開始から35年かかりました......。
※この画像はPIXTAで購入した画像です。
速水真澄がかぶっていた「ガラスの仮面」がついに外れかかっている、と考えてみてはいかがしょうか。完全にはずれたと言えない根拠は、まだ北島マヤに紫のバラのひとであることを、自分から伝えていないからです。
物語の主役は北島マヤであり、ライバルの姫川亜弓の2人です。速水真澄を中心に物語を見直すと、今後の話の展開が見えてくるように思います。
美内すずえ先生は、連載開始の時に「どちらが紅天女になるのか」「2人がどんな演技をするのか」「どんなシーンで終わるのか」を決めてあるとのこと。
- 何かを得れば何かを失う。
- 主役2人が紅天女も恋愛も両方成就することはない
と、以前発言されていたのも気になる点です。
参考:美内 すずえ 『ガラスの仮面 (第23巻) (白泉社文庫)」
※上記書籍のリンクURLはAmazonアソシエイトのリンクを使用しています。
ファンの間では、
- マヤが紅天女になる場合は、速水真澄がなんらかの理由で亡くなるのではないか
(暴漢に襲われた時の後遺症で、後日に脳内出血で死亡してしまうのではないか説)とか、 - マヤは速水真澄との恋愛を成就し、紅天女は姫川亜弓がなるのではないかとか、
- マヤが紅天女になる前にアクシデントで亡くなり、姫川亜弓がマヤのために紅天女を熱演するのではないか
など、今後の予想がいろいろネット上に書かれていました。
私の予想としては、「速水真澄がガラスの仮面をかぶっている説」が成りたつならば、彼が亡くなってしまうと、物語の話型が破綻するのでないかと思っています。
ただ、継子物特有の試練は何回もくると思います。事故で大怪我とか、障害を負って歩けなくなることは、あり得るかもしれません。また、本来は北島マヤが主人公なのですが、姫川亜弓が紅天女を勝ち取っても物語は成り立ちます。
おわりに
何故、速水真澄が亡くならないと言えるのか。姫川亜弓が紅天女になっても物語が成り立つのかは、論文で論じないといけないことなので割愛します。
ただし、もし「ガラスの仮面をかぶっているのは速水真澄である」という仮説が成り立つならば、速水真澄は最終回で幸せになるはずです。
その代わり、幸せに見合うだけの困難が連続して襲います。彼の人格が磨かれて困難を乗り越えられる精神力を獲得した時に、ガラスの仮面は完全に外れて、大きな幸せを得るのではないか、と考えています。
今後の展開がどうなるのか。美内すずえ先生の気持ちはいかに!?
編集履歴:2011.10.19 題名を「漫画『ガラスの仮面』にまさかのスマートフォン -立場によって顔を変える-」から「漫画『ガラスの仮面』にまさかのスマートフォン -速水真澄と紫のバラのひとという仮面-」に改めました。2012.7.4 19:25 冒頭にガラスの仮面のあらすじへのリンクを追加しました。2012.7.25 0:38 見出しを追加しました。2012.8.6 1:17 記事を二つに分割しました。見出しを追加しました。2012.8.6 2:14 はじめにだった箇所を参考情報に変えて、前回のあらすじを追加しました。2012.12.12 22:03 題名を「漫画『ガラスの仮面』にまさかのスマートフォン -速水真澄と紫のバラのひとという仮面-」から「漫画『ガラスの仮面』の速水真澄と「紫のバラのひと」という仮面」に改めました。2012.12.30 1:24 イメージ画像を追加しました。2013.1.9 14:40 wikiからの引用を削除しました。2013.2.19 15:27 ガラスの仮面のモチーフの箇所を大幅加筆しました。2013.12.20 21:08 「漫画『ガラスの仮面』の速水真澄と「紫のバラのひと」という仮面」後半部分を別記事「漫画『ガラスの仮面』の速水真澄と「紫のバラのひと」という仮面(後編)」として独立させました。 題名に(前編)を追加しました。2014.4.30 13:15 題名から「漫画『ガラスの仮面』の」を削除しました。2013.12.20 21:08 「漫画『ガラスの仮面』の速水真澄と「紫のバラのひと」という仮面」後半部分を別記事「漫画『ガラスの仮面』の速水真澄と「紫のバラのひと」という仮面(後編)」として独立させました。同日21:13 冒頭の一文を追加しました。2014.4.30 13:18 題名から「漫画『ガラスの仮面』の」を削除しました。
2015.4.8 16:19~ 後編を前編に統合。句読点を追加。「している流れも興味深いものでした」「のもの」「ありますが、」「なんて」「が、」「話も含めて」「10年以上前に書かれた」「新たなタイミングで」「ツメが甘いため」「漫画」「てしまい」を削除。「、」→「ました。」「ない」→「ないか」「にして」→「では」「かいま」→「垣間」「でできたもろい」→「の」「私見では思っていました」→「考えていました」「、」→「ました。」、「もの」→「場面」、「かと思うので、」→「と思います」、「できるのではないでしょうか」→「できそうです」「したものを」→「して」、「の」→「に変わる」、「で連載された際は」→「に掲載された原稿では」、「なり、」→「変更されました」、「く」→「な」、「考え、」→「考えます」、に修正。「に」を追加。2015.4.14 21:15 題名から「(前編)」をとりました。題名に「漫画『ガラスの仮面』の」、読点を追加しました。前回のあらすじの部分を削除。「前回のあらすじ 2011年8月3日に、たまたま本屋で『ガラスの仮面』単行本47巻を購入しました。小学生の時から、ガラスの仮面を愛読していたからです。47巻がいつもと違ったのは、北島マヤと速水真澄の関係が連載開始から35年ごしで、ものすごい展開になっていた事。しかも、舞台は昭和のはずだったのに、速水真澄がスマートフォンを利用していました。漫画内の1980年代の世相に混じりつつ、小物はハイテク化。あまりにガラスの仮面の事が気になったので、まず速水真澄のスマートフォンの機種を調べました。 参考:漫画『ガラスの仮面』にまさかのスマートフォン! 速水真澄のスマートフォンの機種は何か http://blogs.itmedia.co.jp/kataoka/2011/08/post-4b4c.html」
同日21:21 「参考:はじめに として書かれていた部分」を「はじめに」として冒頭に戻しました。「なんで」→「何故、」に変更。