バックミラーを見ながら高速道路で運転する・優秀な人材が去り、顧客が去り、新たな相談が来ない理由
「これまでも同じようなことを言われてきたが、結局はそれで何とかなってきた。これからも何とかなる。」
長年ビジネスの現場にいると、ついこう考えてしまいがちです。過去の成功体験が、そう思わせるのかもしれません。この考えを完全に否定するつもりはありません。しかし、もし「何とかならなかった」ときの備えはできているでしょうか。
その"そうならない"兆候は、すでにあなたのすぐそばで起きているかもしれません。
-
優秀な若手や中堅が、静かに会社を去っていく
-
長年の付き合いがあった顧客が、新興企業に乗り換える
-
既存業務の依頼は来るが、新しい挑戦に関する相談が全く来ない
これらの兆候に、心当たりはないでしょうか。
なぜ「優秀な人」から見切りをつけられるのか
「優秀な若手が辞めていく」のは、この会社にいても自分の市場価値が高まらない、成長が期待できないと感じるからです。特に今の優秀な人材は、社会やテクノロジーの進化を敏感に捉えています。日常業務で当たり前のように生成AIを使いこなし、いかに生産性を上げ、創造的な仕事に時間を使うかを考えています。
そんな彼らが、社内では「セキュリティリスクが不明確だからこのクラウド・サービスは使ってはいけない、使えるAIサービスはこれに限定します」といった旧態依然の方針を聞かされたらどう思うでしょうか。自分の成長機会が奪われ、時代の変化から取り残されるという「生存の危機」を感じるのは当然です。よりチャレンジングで、新しいテクノロジーを積極的に活用する環境へ移っていくのは、必然と言えるでしょう。
顧客が本当に失望していること
「長年の顧客が乗り換える」のは、もはや義理や付き合いの長さで仕事が発注される時代ではないからです。顧客自身も、生成AIなどを活用した競合のスピードとコストパフォーマンス、そして提案の質に晒され、変革しなければ生き残れないという強い危機感を持っています。
そんな顧客が変革への取り組みを相談したとき、「前例がない」「まだリスクが大きい」と消極的な態度を取られたらどうでしょう。あるいは、革新的なAI活用を提案しても、「まずは既存のシステムを改修しましょう」と、自分たちができる範囲の小さな話にすり替えられたら?
顧客がうんざりするのは、単に技術力がないことに対してだけではありません。「自分たちの危機感を共有してくれない」その姿勢に、深く失望しているのです。
「相談されない」のは、未来を任せられないから
「新しいことについて相談されない」のは、シンプルに「勉強不足を見透かされている」からです。
例えば、数年前に「クラウド・インテグレーター」を名乗りながら、実態はサーバーを仮想化してIaaSに移管するだけの企業がありました。今、それと同じことが生成AIで起きています。「AI活用を支援します」と謳いながら、提案できるのが、せいぜいChatGPTを使った事務的作業の効率化レベルに留まっているのであれば、話にならないでしょう。
顧客は、自社のビジネスモデルそのものを変革するような、AIエージェントを活用した業務プロセスの完全自動化や、LLM(大規模言語モデル)を自社データでファインチューニングした専門的なサービスの構築を求めているかもしれません。そんなとき、最新の技術トレンドやリスクを理解していない相手に、会社の未来を託そうと思うでしょうか。「共創」という言葉が、いかに空虚に響くか、想像に難くありません。
気づかぬうちに「茹でガエル」になっていないか
「既存の仕事はなくならないから、まだ大丈夫だ」という考えは、半分は正しいかもしれません。世の中は急には変わらず、仕事がゼロになることはないでしょう。しかし、利益率はどうでしょうか。稼働率は高いのに利益が伸び悩んでいるとしたら、それは「何とかなっている」ように見えるだけで、市場価値の低い仕事に忙殺されている危険なサインです。
音楽を楽しむ人たちは今も昔も変わらず沢山います。しかし、その楽しみ方が変わりました。かつて街の主役だったレコード店が姿を消し、ストリーミングサービスに置き換わったように、顧客のニーズを満たす主役は、静かに入れ替わるのです。
数年前、多くの企業がオンプレミスのシステムをクラウドへ移行させる「クラウドシフト」に必死で対応しました。Amazon Web Services (AWS)やMicrosoft Azureが提供する移行支援サービスは、従来のSIerの仕事を奪う「中抜き」だと騒がれました。デジタル庁主導で進むガバメントクラウドのように、今やクラウド活用は当たり前の選択肢です。
そして今、生成AIがそれ以上のスピードとインパクトで、ビジネスの前提を破壊しようとしています。単純なコーディングや資料作成、データ分析といったタスクは、急速にAIに代替されつつあります。もはや「人月単価」でビジネスをしている場合ではないのです。
「そんなことは知らなかった」では、もう済みません。これらの情報はメディアで日々報じられており、感度の高い企業や個人は、とくに行動を始めています。
思考停止が一番の"リスク"
「自分は正しいと思うんだけど、会社の方針が...」
「将来のことは、若い世代に任せるよ」
「難しいことは分からないから、よろしく頼む」
もし、あなたの周りのリーダーたちが平気でこんなことを言っているとしたら、その組織は非常に危険な状態です。
変化のなかった時代などありません。しかし、"かつて"と"いま"には、決定的な違いがあります。それは「スピード」です。
生成AIの進化は、まさにドッグイヤーの比ではありません。これまでのやり方に固執するのは、バックミラーだけを見て高速道路を運転するようなものです。過去の常識や成功体験というバックミラーに映る景色を頼りにアクセルを踏んでいても、目の前では道路も地図も新しいものに変わり、競合という名の車が次々と飛び出してきます。そんなことを続けていれば、いつか必ず事故を起こし、再起不能な大怪我を負うか、命さえ失いかねません。昨日まで不可能だったことが、今日には実現可能になっているのです。そんな世界で、同じ場所に立ち止まっていては、景色が高速で過ぎ去っていくことさえ気づかないでしょう。自らハンドルを握り、前を向いて流れを追いかけなければ、目的地にたどり着くことすらできないのです。
「これからも何とかなる」という言葉が、現実から目をそむけるための思考停止や、責任回避の言い訳になっていないでしょうか。
まず、その言葉を思考停止の言い訳にしていないか、自分自身に厳しく問い直すべきです。
8月8日!新著・「システムインテグレーション革命」出版!
AI前提の世の中になろうとしている今、SIビジネスもまたAI前提に舵を切らなくてはなりません。しかし、どこに向かって、どのように舵を切ればいいのでしょうか。
本書は、「システムインテグレーション崩壊」、「システムインテグレーション再生の戦略」に続く第三弾としてとして。AIの大波を乗り越えるシナリオを描いています。是非、手に取ってご覧下さい。
【図解】これ1枚でわかる最新ITトレンド・改訂第5版
生成AIを使えば、業務の効率爆上がり?
このソフトウェアを導入すれば、DXができる?
・・・そんな都合のいい「魔法の杖」はありません。
神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO
8MATOのご紹介は、こちらをご覧下さい。