DXは次のステージへ:アフターDXの衝撃、パーパス×AIで社会OSを再構築する
2020年代初頭、多くの企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性を認識し、取り組みを開始しました。しかし、生成AIの急速な進化と社会実装により、変革は今、まったく新しいステージへと突入しています。かつてのDXが業務効率化やビジネスモデルの変革に留まっていたのに対し、現在はAIを駆動力として、企業の存在意義そのものを問い直し、社会のOS(オペレーティングシステム)をも変革する動きへと進化しています。
本記事では、これまでのDXの定義を振り返りつつ、私たちが直面する新たな変革のステージ「アフターDX」の本質に迫ります。富士通をはじめとする先進企業の事例から、これからの時代に求められる変革の鍵を探ります。
DXの定義を超えて:「アフターDX」の幕開け
経済産業省の『DX推進ガイドライン』では、DXを以下のように定義しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
この定義は今や、変革のスタートラインに過ぎません。DXを次のステージ、すなわち「アフターDX」へと引き上げる時が来ています。
アフターDXとは、単なるビジネスプロセスやビジネスモデルの変革に留まらず、企業の存在意義(パーパス)とAIの進化を掛け合わせ、大きく変わろうとする社会のOSそのものを視野に入れた変革です。それは、AIの進化に伴う人間とAIの役割の再定義をも含みます。もはや「D(デジタル)」という手段に留まっている場合ではないのです。
なぜ今、「パーパス経営」が変革の羅針盤となるのか?
強力なエンジンであるAIを得た変革ですが、その進むべき方向が定まっていなければ、社会に混乱をもたらしかねません。だからこそ、企業の存在意義を示す「パーパス」が、社会と企業双方にとっての羅針盤となります。
-
私たちは、何のために存在するのか?
-
社会に対して、どのような価値を提供したいのか?
-
AIとの協業を通じて、どのような未来を実現したいのか?
これらの根源的な問いに対する答えが、社会全体のOSをアップデートしていく上での揺ぎない軸となるのです。
【企業事例】パーパスを起点にAI×DXを推進する先進企業
パーパスを掲げ、それを実現する手段としてAIとDXを強力に推進している企業の事例を見ていきましょう。
1. 富士通:「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく」
富士通は、自社のパーパスを実現するための中核的な取り組みとして、サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)を支援する事業ブランド「Fujitsu Uvance」を展開しています。
同社は、長年培ってきた技術力と知見を結集し、誰もが容易に最先端のAI技術を試すことができるAIプラットフォーム「Fujitsu Kozuchi」を提供。このプラットフォームを活用し、製造業における検品自動化や、創薬プロセスの高速化など、多様な社会課題の解決に取り組んでいます。
自社のパーパスを社会課題解決と結びつけ、そのための強力なツールとしてAIとDXを活用する。まさにアフターDXを見据えた動きと言えるでしょう。
2. ソニーグループ:「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」
エンタテインメントとテクノロジーの巨人であるソニーグループは、そのパーパスをDXによって具現化しています。
例えば、映画や音楽の制作プロセスにおいて、AIを活用した映像の高精細化技術や音源分離技術を導入し、クリエイターの表現の幅を広げています。また、AI搭載の自律型エンタテインメントロボット「aibo」や、仮想空間での新たなエンタメ体験を提供するメタバース事業など、テクノロジーを駆使して新たな「感動」という価値を社会に提供し続けています。
3. コマツ:「品質と信頼性を追求し、企業価値の最大化を図る」
建設機械大手のコマツは、「未来の現場を、次の段階へ。」をスローガンに、建設業界が抱える労働力不足や安全性の課題を解決するためのDXを推進しています。
IoTで建設機械と現場をつなぎ、施工データを収集・分析するプラットフォーム「LANDLOG」を構築。AIによる分析を通じて、施工の進捗を可視化し、生産性を飛躍的に向上させています。建機の自動化や遠隔操作技術の開発も進めており、パーパスである「品質と信頼性」を、現場のDXを通じて顧客に提供しています。
企業のパーパスから個人のパーパスへ:キャリア形成の新たな羅針盤
企業のパーパスが変革の羅針盤であるように、私たち個人のキャリアにおいても「パーパス」は極めて重要な意味を持ちます。この点において、富士通の先進的な取り組みは大きな示唆を与えてくれます。
富士通では、「パーパスカービング」と呼ばれるワークショップを全社員向けに実施しています。これは、社員一人ひとりが自分自身のパーパス(My Purpose)を見つめ直し、それを会社のパーパスとどう結びつけられるかを考える取り組みです。
企業が掲げる壮大なパーパスも、それを実行するのは個々の社員です。社員が「自分ごと」として会社のパーパスを捉え、自らの仕事に意義を見出したとき、組織は最も大きな力を発揮します。
AIによって仕事のあり方が劇的に変化するこれからの時代、私たちは「何をしたいのか」「どうありたいのか」という個人のパーパスを持つことが、キャリアの羅針盤となります。自分のパーパスが明確であれば、AIに代替されることを恐れるのではなく、「自分のパーパス実現のためにAIをどう使いこなすか?」という主体的な視点でスキルアップやキャリアチェンジを考えることができるでしょう。
変化の激しい時代だからこそ、企業のパーパスと個人のパーパスを重ね合わせ、同じ未来を目指す。そんな働き方が、これからのキャリア形成の鍵となるのです。
DXの次へ:「アフターDX」が拓く未来
本記事で見てきたように、私たちは今、単なるDXの延長線上にはない、まったく新しい変革の時代を迎えています。それは、企業のあり方、ひいては社会全体のOSを再構築する「アフターDX」のステージです。
「アフターDX」の核心は、「パーパス × AI」による社会変革にあります。
これまでのDXが「デジタル技術を使って何ができるか(How)」という手段の議論に陥りがちだったのに対し、アフターDXは「私たちは何のために存在するのか(Why)」というパーパスを起点とします。そして、そのパーパスを実現するために、AIを人間の能力を拡張するパートナーとして位置づけ、人間とAIの役割を再定義します。
-
人間の役割: 倫理観に基づいた問いを立て、未来のビジョンを描き、社会にとって本当に価値ある目的(パーパス)を設定する。
-
AIの役割: そのビジョンとパーパスに基づき、膨大なデータを解析し、複雑なシミュレーションを行い、最適な解を導き出し、実行を加速させる。
この新しい関係性において、企業は自社の利益追求だけでなく、社会全体の持続可能性やウェルビーイング向上といった、より大きな課題解決に貢献することが求められます。もはや「守りのDX」や「攻めのDX」といった自社起点のフレームワークではなく、「社会OSのアップデートにどう貢献するか」という視点が不可欠となるのです。
あなたの会社にとって、そしてあなたにとってのパーパスとは何か。そのパーパスを、AIという強力なパートナーと共にどう実現し、未来の社会をどうデザインしていくのか。今、すべての企業と個人が、この根源的な問いに向き合い、変革への一歩を踏み出す時が来ています。
8月8日!新著・「システムインテグレーション革命」出版!
AI前提の世の中になろうとしている今、SIビジネスもまたAI前提に舵を切らなくてはなりません。しかし、どこに向かって、どのように舵を切ればいいのでしょうか。
本書は、「システムインテグレーション崩壊」、「システムインテグレーション再生の戦略」に続く第三弾としてとして。AIの大波を乗り越えるシナリオを描いています。是非、手に取ってご覧下さい。
【図解】これ1枚でわかる最新ITトレンド・改訂第5版
生成AIを使えば、業務の効率爆上がり?
このソフトウェアを導入すれば、DXができる?
・・・そんな都合のいい「魔法の杖」はありません。
神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO
8MATOのご紹介は、こちらをご覧下さい。