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それ、本当にDX研修ですか? ~「木を見て森を見ず」に陥らないために~

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昨今、多くの企業で「DX研修」が盛んに行われています。ローコード開発ツールやデータ分析ツール、そして多種多様なクラウドサービスを使いこなすためのスキルを身につけることが、その主な目的となっているようです。しかし、それは、果たして本当に「DX」なのでしょうか。

「デジタル化」と「DX」の混同という落とし穴

多くの企業研修で見られるのは、便利なデジタルツールをいかに使いこなすか、という「手段」の習得に終始している姿です。もちろん、それ自体は無意味ではありません。しかし、なぜ今、これらの手段を駆使する必要があるのか、その本質を深く学び、考える機会がなければ、それは「DX」とは呼べないでしょう。

こうした状況の根底には、「DX」と「デジタル化」の混同があるように思われます。

かつて、電気というインフラが登場し、私たちの生活や仕事を一変させました。今や私たちは、部屋が暗ければ当たり前のように照明のスイッチを入れます。その裏側にある発電や送電の複雑なメカニズムにまで思いを馳せる人はいません。電気はもはや「前提」であり、意識せずとも活用できる日常の一部なのです。

現代において、デジタルもまた電気と同じ「前提」となりつつあります。もちろん、まだデジタルが前提となっていない方々もいらっしゃいますから、その使い方を学ぶ研修は必要です。しかし、ツールの操作スキルを身につけることと、「デジタルが前提の社会に適応するために、社会や会社を根底から作り変える」こと、すなわちDXとは、似て非なるものなのです。

「改善」の積み重ねの先に「変革」はない

デジタルツールの活用によって現状の業務課題を解決していくことは、もちろん価値ある「改善」活動です。しかし、しばしば「改善」を積み重ねてけば、いつかは「変革」にたどり着くと誤解されがちですが、この二つは全くの別物です。目指すゴールも、取り組みの起点も根本的に異なります。

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「改善」は、常に「現状」を起点とします。今ある問題や不満を特定し、それを解決することで、より良い状態を目指すアプローチです。これは、いわば地続きの道をより速く、快適に進むための努力と言えるでしょう。

一方、「変革」は「未来のあるべき姿」を起点とします。5年後、10年後、自分たちはどうなっていたいのか。まずその理想像を描き、そこから逆算して現状とのギャップを課題として捉え、解決を目指します。これは、今いる場所から全く新しい目的地へ、場合によっては空を飛んで向かうような、非連続的な跳躍を意味します。

故事に「木を見て森を見ず」とありますが、「改善」活動に没頭するあまり、個々の問題(木)の解決に終始し、会社全体が進むべき未来(森)を見失ってしまう危険性があります。「改善」の積み重ねは、既存の延長線上でしかないのです。

かの孔子は「温故知新(故きを温ねて新しきを知る)」と説きました。現状を深く知ることは大切ですが、「変革」のためには、過去や現状の延長線上にはない未来を描き出す、全く新しい知見が不可欠なのです。

なぜ今、「変革」が求められるのか

「改善」だけで満足していては、なぜいけないのでしょうか。それは、私たちが今、先の見えない不確実な時代を生きているからです。社会のニーズも、競争のルールも、目まぐるしく変化しています。AIをはじめとするテクノロジーの進化は、私たちの常識を根底から覆し、ビジネスの「前提」そのものを急速に書き換えているのです。

日本の古典『方丈記』の冒頭に、「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」という一節があります。世の中のあらゆるものは常に移り変わり、決して同じ状態には留まらないという、諸行無常の真理を表した言葉です。この絶え間ない変化の奔流の中では、現状維持はすなわち後退を意味します。「改善」の積み重ねだけで満足していては、この大きな時代のうねりを乗り越えることはできないのです。

真のDX研修が日本の未来を拓く

にもかかわらず、なぜツールの使い方を教える研修に「DX」という名がつけられてしまうのでしょうか。そこには、現状の不満や問題をデジタル・ツールによって解決できるという暗黙の了解があるからです。そして、そうした現状の問題点は現場が一番よく知っているので、研修で改めて教える必要はない、という前提があるのでしょう。つまり、研修の目的が自ずと「改善」に設定されているのです。

こうした構造的な理由に加えて、経営者や研修担当者の本質的な理解が浅いからか、あるいは、単に「DX」という言葉が格好良いからという理由で、化粧まわしのように使っているからかもしれません。

しかし、「ローマは一日にして成らず」というように、真の変革は一朝一夕には成し遂げられません。なぜ変革が必要なのか、自分たちはどこへ向かうべきなのか。こうした根本的な問いを組織全体で共有し、考える機会を設けることこそ、真の「DX研修」が担うべき役割ではないでしょうか。

このままでは、日本はますます世界から取り残されてしまいます。目先のスキル習得に留まらず、企業の未来、ひいては日本の未来を創るための本質的な「変革」とは何かを、今こそ真剣に考えるべき時が来ているのです。

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