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汎用目的技術(GPT)とは何か?

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歴史を変えたテクノロジー:蒸気機関、電力、そしてAI

人類の歴史は、幾度かの画期的なテクノロジーによって、その流れを劇的に変えてきました。その中でも、社会のあり方を根底から覆し、新たな時代を切り拓いた一握りのテクノロジーは、経済学の世界で汎用目的技術(GPT:General Purpose Technology)と呼ばれています。

GPTの概念を提唱した経済学者、ティモシー・ブレスナハンとマヌエル・トラヒテンベルグは、GPTを「多くの産業に影響を与え、生産性とイノベーションのあり方を長期にわたって変革する可能性を秘めた技術」と定義しました。彼らがその代表例として挙げたのが、蒸気機関電力、そしてコンピューターです("General Purpose Technologies: 'Engines of Growth'?",Journal of Econometrics, Volume 65, 1995)。

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出典:汎用技術(Wikipedia) 「スビルオーバー効果」についてはか文末に解説を掲載。

蒸気機関は、人間の筋力や自然の力(水力、風力)という制約から産業を解放し、工場という新しい生産様式と、鉄道という新たな物流網を生み出しました。それは単に「仕事を楽にする道具」ではなく、産業革命という時代のOSそのものだったのです。

同様に、電力は、生産活動を時間と場所の制約から解放しました。夜でも稼働する工場、家庭の電化による生活様式の変革、そして後の情報通信技術の基盤。電力は、社会の隅々にエネルギーを供給する神経網となり、私たちの生活様式を根底から作り変えました。

これらのGPTに共通するのは、以下の3つの特徴です。

  1. 遍在性(Pervasiveness):経済や社会の広範な領域で利用される可能性を持つ。
  2. 継続的改善(Ongoing Improvement):技術そのものが継続的に改良され、性能が向上し続ける。
  3. イノベーションの誘発(Innovation Spawning):その技術を基盤として、補完的な新しい技術やビジネス、社会システムが次々と生まれる。

このフレームワークに照らせば、AI、特に近年の生成AIの進化が、GPTの条件を完全に満たしていることは火を見るより明らかです。

なぜAIは単なる「道具」ではないのか

AIがGPTである根拠は、その影響力が特定の産業や業務に留まらない点にあります。ゴールドマン・サックスの2023年のレポート『The Potentially Large Effects of Artificial Intelligence on Economic Growth』は、生成AIが世界の年間GDPを7%押し上げる可能性があると試算し、その影響は「電力やパーソナルコンピューターといった過去のGPTに匹敵する」と結論付けています。

AIが単なる「便利な道具」ではない理由は、それが「知的なタスク」そのものを自動化・自律化する技術だからです。これまでのテクノロジーが、人間の「筋力」や「計算能力」を拡張するものであったのに対し、AIは、これまで人間にしかできないとされてきた「認識」「判断」「創造」といった領域にまで踏み込みます。

この影響力の拡大を象徴するのが、私たちがこれから直面するであろうAGI(汎用人工知能)の登場です。「はじめに」でも触れた通り、AGIとは、人間のように、あらゆる知的作業を自律的に理解し、学び、実行できる汎用的な知能を指します。それは、特定の問いに答えるAIではなく、自ら問いを立て、未知の課題を発見し、解決策を創造する能力を持つ存在です。

では、そのAGIはいつ頃登場するのでしょうか。この問いに対して、専門家の間でも意見は大きく分かれており、明確な答えはまだありません。しかし、その見通しは近年、急速に前倒しされる傾向にあります。AI研究の権威であるジェフリー・ヒントン氏は、以前はAGIの実現まで30年から50年かかると考えていましたが、近年の生成AIの進化を受け、その見通しを5年から20年へと大幅に短縮しました。また、多くのAI研究者を対象とした調査でも、AGIが実現する時期の中央値は2040年代から2060年代あたりと予測されることが多いものの、「10年以内に実現する可能性も十分にある」と考える専門家が増加しています。一方で、まだ根本的な技術的ブレークスルーが必要だとして、より慎重な見方を示す専門家も少なくありません。確かなことは、かつてはSFの世界の出来事であったAGIの到来が、今や現実的な技術ロードマップ上の議論の対象となっているという事実です。

AGIが実現すれば、科学的研究、新薬開発、複雑な社会システムの設計といった、人類が長年挑んできた課題が、人間の脳の処理速度とは比較にならないスピードで解決されていく可能性があります。それは、人類が自らの知能を超える『第二の知能』を手に入れるに等しい出来事です。この歴史的な奔流を前に、既存の業務を少し効率化する『改善』に終始することは、蒸気機関を手にして人力車を少し速く走らせようとするようなものです。この『第二の知能』は、私たちに『改善』ではなく『変革』を強いているのです。

*スピルオーバー効果:

ある経済活動や政策、または個人的な経験の結果として、その直接的な影響範囲を超えて、思わぬところにまで良い(または悪い)影響が波及する現象です。主に経済学の文脈で「漏れ出す、溢れ出す」という意味で使われ、知識や技術の波及効果(ポジティブ)、公害の発生(ネガティブ)、地域間の便益の偏り(ポジティブ・ネガティブ両方)、あるいは仕事と家庭の関係性における良い・悪い影響(ワークライフ・スピルオーバー)など、多岐にわたる文脈で見られます。

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