栗原潔のテクノロジー時評Ver2:ITmediaオルタナティブ・ブログ (RSS) 栗原潔のテクノロジー時評Ver2

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2007年12月20日の投稿

2007年12月26日 »

改めて言うまでもないですが「みっくみく(略)」のJASRAC登録がいろいろなところで話題になってます。ちなみに、私は音楽著作物の利用者としてJASRACと契約しているわけですが、「みっくみっく」の場合は、作者さんが(ドワンゴを介して)自分の著作物をJASRACに信託する契約をむすんでいるので話は全然別です。

このように、アマチュア・ミュージシャンの曲がメジャーになったので、大手事務所と契約して楽曲もJASRAC管理になるというのは今までもよくあった話なので、初音ミクだから特にどうのというわけではありません。また、「みっくみく」は掲示板などの場で共同で作り上げた作品ではなく、少なくともオリジナルの楽曲は作者さんが個人で作り上げたものですから、「のまネコ」の場合のように著作権者が不明確ということもありませんので、この点も問題はありません。

では、まず最初にJASRACに楽曲を信託するとはどういうことなのかについて考えてみましょう。「信託」とは、ある人が信頼できる人に自分の財産を譲渡して、その財産を運用・管理することで得られる利益をもらえるように取り決めることです(Wikipediaより要約)。投資信託を考えるとわかりやすいですね。自分のお金を投信会社に預けて運用してもらって、手数料を差し引いた運用益を得るための仕組みです。もちろん、自分で自分のお金を運用してもよいのですが、プロが集中管理することでより効率的・低リスク・手間いらずの運用ができるわけです。ここでのポイントは、1)運用会社は財産から得られる利益を最大化する忠実義務を負う、2)お金を預けた人は運用には口を出せない(俺が出した金はこの会社に投資しろと言っても通りません)ということです。

JASRACに著作権を信託する場合も同じで、JASRACは著作者に代わって著作権という財産から得られる利益を最大化し(しっかり利用料金を徴収し、侵害行為があれば法的手段に訴えたりする)、著作者に還元します。また、原則的に、著作者は、個別の許諾に口を出すことはできません(したがって、川内康範先生が森進一に「おふくろさん」(オリジナル・バージョン)を歌わせないよう要求したのは法的には根拠がありません)。

この著作権信託によるスキームは著作者だけではなく、利用者にとってもメリットがあります。規定の料金さえ払えば、著作権者にいちいち許諾を得ることなく、楽曲を利用できるからです。放送やコンサートのたびごとにいちいち著作権者(と契約した音楽出版社)に許諾をもらう手続きをしていたのでは、金の問題以前に事務手続きの煩雑さで死んでしまいます。JASRACは何にでも金を取るという批判がありますが、裏を返せば、金さえ払えば世界中の膨大な楽曲を個別の手続きなしに好きに使えるというメリットがあるわけです。

著作権というのは実際には複数の権利(上演権、複製権、公衆送信権等々)の束です。そして、JASRACへの信託も細かい権利ごとに行うことができます。たとえば、CD化の権利はJASRACに任せるが、ネット配信の権利は他の著作権管理団体に任せる、あるいは、自分で管理するということもできます。

自分で著作権を管理する場合には、パブリックドメインにすることもできますし、CC的に非営利なら自由に使えるというようにすることもできます(法的にはやや不明確な点がありますが、実務上は今のところ問題なさそうです)。もちろん、使いたければ常に俺の許諾をもらえという形にすることもできますが、そんなことをすれば誰もその作品を使うことはなくなるでしょう(あるいは、勝手に使う人が増えるだけでしょう)。

さて、前置きが長くなりましたが、おそらく、現状のスキームにおいて最もまずいのは、通信カラオケや着うたなどの営利事業の収益の一部はもらいたい、しかし、非営利の利用は自由にやってOK」というライセンス形態をサポートするうまい方法がないということではないでしょうか?仮に、作者さんが「『みっくみっくはネット上での非営利目的だったら自由に利用していいよ」と言っても、JASRACにインタラクティブ配信の権利を信託してしまった以上、それはかないません。

CGM系の作家さんであれば、営利事業から多少の金銭を得つつ、ネットでの非営利な利用(特に派生著作物の創作)は自由にやってもらいたいという希望を持つ人は多いと思います。私も初音ミクのオリジナル曲を作って万が一ヒットした場合には(可能性は低いですがゼロではないですぞ)、そのようなライセンス形態を望むでしょう。

利用者にしても「みっくみく」のカラオケだけは無料にしろという人はいないでしょうし、作者さんになにがしかの見返りがあることを歓迎する人は多いでしょう。しかし、同時に、非営利でブログパーツで曲をプレイするのにいちいちJASRACの許諾が必要なのは勘弁してくれいう人がほとんどでしょう。

ネット配信限定でよいので、こういうCCで言えば表示・非営利・継承のようなライセンス形態をうまくサポートできる著作権管理団体が出てきてくれるとよいのですが。

追加(重要): ちょっと事実誤認がありましたので直しました。現状のJASRACの制度では、インタラクティブ配信と通信カラオケは、個別に信託できるのでした。したがって、作者さんが通信カラオケで(JASRAC経由で)収益を得つつ、ネットでの自由な利用を許すことは可能です。ただし、着うたはインタラクティブ配信の一種なので、着うたで収益を得つつ、ネットでの自由な利用を許すということはできません。おそらくは、原作者さんにこの辺をちゃんと説明しないで、ほぼすべての権利をJASRACに信託してしまったドワンゴ側にも問題ありと思われます。

追加の追加(重要):勘違いだと思っていたのが勘違いで、dracoさんのコメントによれば、「放送・配信・カラオケの区分は演奏・録音も信託しないといけないため、どれが一つだけでも信託すると自動的にネットでの二次利用はできなくなりますよ。」とのことです。したがって一番最初の書き方で間違っていなかったのでした。どうもすみません。

追加の追加の追加(重要): たびたびすみません。いろいろ調べるとやはり通信カラオケとネット配信(インタラクティブ配信)は別に信託できるようです(JASRACでもイーライセンスでも)ということで、やはり追加(重要)で訂正線で消した部分が正しかったということになります。とは言え、今回のお話しは着うた(インタラクティブ配信の一種)の権利を信託してしまったということなので、本文の太字部分(「作者さんが非営利のネットでの利用は自由にやってOKだよと言っても通らない」)には、いずれにせよ変わりはありません。また、CCの非営利・継承の世界と従来型著作権管理を両立できる良いスキームがないのが問題という点についても同様です。※あと、はてブで「みっくみっく」ではなく「みっくみく」だという指摘が合ったのでついでに直しました。

栗原 潔

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栗原 潔

栗原 潔

株式会社テックバイザージェイピー(TVJP) 代表取締役 弁理士
IT、知財、翻訳サービスを中心とした新しいタイプのリサーチ会社を目指しています。

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