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報道情報からはなかなか見えにくいひこにゃん事件ですが、いろいろなソースを総合的に見ると、やはり著作財産権については特に争いがなく、著作者人格権(の同一性保持権)が争点のようです。私としては、以前書いたように、今回のケースでは同一性保持権による差し止めは難しいのではと思っています。
ところで、Internet Watchの記事によれば、弁護士の牧野和夫先生が以下のようなことを発言されています。
弁護士の牧野和夫氏は、「あくまでも詮索ではあるが、この問題は『のまネコ』と近いのでは」と指摘した。「彦根市が市民のためにひこにゃんを使うのであれ ば良いが、作者にしてみれば商業的に走ってしまうのが気に入らないという思いがあったのではないか」。作者が侵害を主張している著作者人格権については、 「(他人に)譲渡できないことになっている」として、市との契約の詳細はわからないが、作者の主張が認められるのではないかと語った。
この発言の段階では事件の全貌が明らかでなかったのだと思いますが、「ひこにゃん」の件と「のまネコ」の件は全然違うと思います。のまネコはコミュニティが作った半ばパブリックドメイン的なキャラを営利企業が抜け駆け的に権利化しようとして問題になりました。ひこにゃんの件はプロのデザイナーが公的機関と(おそらくは)正式の契約を結んで権利を譲渡したにもかかわらず後になって物言いを付けている状況です。
さらに言えば、大組織と個人(あるいはコミュニティ)が著作権について争う時には、組織側が権利を強力に行使して著作物を使わせないのに対して、個人側が著作物を自由に使わせろと言って争いになるのが普通でしょうが、今回は図式が逆ですよね。彦根市側は(一定の条件のもとに)ひこにゃんキャラを自由に使って良いと言っているのに、個人である作者側が自由に使わせないでほしいと言っているわけですから。
また、作者は、営利企業である出版社と契約を結び、ひこにゃんと同一のキャラを使った絵本「ひこねのよいにゃんこのおはなし」も出版しているようです。これは、パブリックドメインでも何でもなく通常の営利目的の出版物です。「作者にしてみれば商業的に走ってしまうのが気に入らない」というよりは、「作者にしてみれば自分が商業的利益を独占できないのが気に入らない」という印象を持ってしまいます。
なお、このような著作財産権と著作者人格権(特に、同一性保持権)のぶつかり合いは、日本の著作権制度におけるかなり大きな潜在的問題のひとつだと思います。中山先生の「著作権法」においても、かなりのページを割いて同一性保持権について論じられれています。p389には以下のような記載があります。
特に最近の事件では、表面上は人格権の事件であっても、衣の下は財産権的な目的があると《邪推》できる場合も少なくない。
私としては、ひこにゃん事件についても(報道された情報から判断する限りは)このような《邪推》をしたくなってしまいます。
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